blog

交通事故で使える社会保障制度について


交通事故被害に遭った場合、相手方保険会社や相手方自賠責保険などから保険金の支払いを受けられることはもちろんのこと、ご自身の自動車保険から、搭乗者傷害保険、人身傷害保険などが支払われたり、入院をした場合や後遺障害が残った場合など、ご自身でかけている生命保険や医療保険から保険金が支払われることがございます。
これらの私保険以外にも、交通事故でお怪我をした場合や身内の方がお亡くなりになられた場合、良く知られております健康保険や労災保険以外にも、傷病手当金、障害者総合支援法に基づく身体・精神障害者支援、介護保険制度による介護保険、障害が残った場合などの障害基礎・厚生年金等社会保障制度が使える場合がございますので、以下その特徴や注意点などを網羅的に説明します。


1 国民・協会・組合健康保険上の制度


健康保険(共済組合医療保険)を利用した方が良い場合

交通事故での治療に際し、健康保険が使えることは良く知られています。
一般的に、交通事故による治療の場合、医療機関は自由診療で行いその場合の診療報酬は1点あたり20円で算定されます。
しかし、健康保険を使用した場合の診療報酬は1点10円ですので、同じ治療を行った場合の報酬額は半額になります。
また、健康保険の自己負担額は3割ですので、自由診療に比べて自己負担額は6分の1に軽減できます。
さらに、健康保険負担分の医療費7割分は、過失相殺前に控除されますので、この点でも被害者にかなり有利になります。
そのため、ご自身にも過失があるような場合、自己負担額を低く抑えるため、健康保険を使用することが勧められます。
なお、業務中や通常の通勤経路上での通退勤時の事故など労災事案の場合、労災を使っているか否かを問わず、健康保険は使えませんので十分注意してください。
また、健康保険を利用する場合第三者行為傷病届を提出しなければなりませんので、国民健康保険もしくは後期高齢者医療保険であれば自治体、被用者保険であれば保険者に応じて健保組合、協会けんぽ、共済組合に必ず連絡をしてください。

例)診療報酬点数10万点(すべて既払い) 医療費以外の損害額1000万円 過失割合被害者20%
自由診療⇒医療費200万円 損害総額1200万円 過失相殺後の請求額1200万円×0.8-200万円=760万円
保険診療⇒医療費100万円(健康保険負担分70万円、自己負担額30万円) 
    損害総額1100万円 (1100万円-70万円)×0.8-30万円=794万円

また、これは相手方保険会社担当者との交渉上のテクニック的な話になってしまいますが、例えば相手方保険会社から、治療費打切りの打診が来た際、「健康保険に切り替えるので、自己負担部分のみでも内払いを継続して欲しい。」旨話して、内払いを継続してもらうという方法があります。
通常、保険会社が内払いを継続している間の治療の必要性や相当性が否定されることは少ないですので、このように内払いを継続してもらうために健保への切り替えという手段もありえます。
なお、健保自己負担分の内払いの方法ですが、病院によっては、直接相手方保険会社からの自己負担部分の内払いを拒否するところもありますので、その場合、病院窓口でいったん自己負担額を立替え、領収証や診療明細書を相手方保険会社に送付して、その支払いを受けることになります。

なお、医療費には、交通事故により生じた(外傷性の)打撲・捻挫・骨折・脱臼等の接骨院での施術費(原則として医師の同意が必要です)も含まれます。


交通事故で健康保険が使える根拠


医療機関によっては、未だに交通事故で健康保険は使えないと説明するところもございますが、昭和43年に下記の厚生省課長通知が出されていますので、そのような医療機関に対しては、この通達を示していただければ宜しいかと存じます。

健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて
( 昭和 43 年 10 月 12 日保険発第 106 号)
厚生省保険局保険課長国民健康保険課長から各都道府県民生主管部 ( 局 ) 長宛
自動車による保険事故の急増に伴い、健康保険法第 67 条 (現行57条)( 第 69 条ノ 2(現行該当条文なし) において準用する場合を含む。) 又は国民健康保険法第 64 条第 1 項の規定による求償事務が増加している現状にかんがみ、自動車損害賠償保障法の規定に基づく自動車損害賠償責任保険等に対する保険者の求償事務を下記により取扱うこととしたので、今後、この通知によるよう保険者に対し、必要な指導を行われたい。
なお、最近、自動車による保険事故については、保険給付が行われないとの誤解が被保険者の一部にあるようであるが、いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変りがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい。また、健康保険法施行規則第 52 条又は国民健康保険法施行規則第 32 条の 2 の規定に基づく被保険者からの第三者の行為による被害の届け出を励行されるよう併せて指導されたい。
おって、この取扱いについては、運輸省並びに自動車保険料率算定会及び全国共済農業協同組合連合会と協議済みであり、自動車保険料率算定会及び全国共済農業協同組合連合会から、各保険会社及び各査定事務所並びに各都道府県共済農業協同組合連合会に対して通知が行われることとなっているので、念のため申し添える。


健康保険を使用した場合の問題点


1 健康保険を使用した場合、医療機関によっては自賠責後遺障害診断書の作成を拒否される場合があります。

例えば、日本整形外科臨床学会編集「Q&Aハンドブック交通事故診療」全訂新版(創耕社出版)では、「健康保険で治療する場合、損保会社所定用紙での書類は医療機関と自賠責保険会社とは無関係になるため書く義務はありません」(89頁)などとされて います。
 そもそも医師には、医師法19条2項所定の診断書の作成義務がありますが、ここにいう「診断書」とは病院所定の診断書をいい、自賠責所定の後遺障害診断書を含まないと明らかにされているわけではないので、上記学会が作成義務はないという根拠は明確ではありません。

 実際に、私の依頼者では、健康保険の使用を理由に自賠責所定の後遺障害診断書の作成を拒否されたことはありませんが、今後このような対応をする医療機関は増える可能性もございます。
 自賠所定の後遺障害診断書を作成してもらえない実際の問題としては、自賠責に対する後遺障害申請の場面ですが、後遺障害等級認定業務を行う損害保険料率算出機構では、自賠所定の後遺障害診断書ではなくても後遺障害申請を受け付けるとのことです。
ですので、病院所定の診断書であっても、後遺障害認定に必要な事項を全て記載いただければ、特に問題は生じないと思われます。


2 健保組合等が健康保険の使用を拒否することもあります。

 勤務先などで組織される健保組合によっては、場合により交通事故での健康保険の使用を拒否されることもあります。
 その場合、拒否する理由の開示を求め、上記通知を示したうえで丁寧に健康保険使用に必要性と相当性を訴えていくことにならざるを得ません。


3 健康保険適用外治療を受けられないこともあります。

 交通事故外傷に対して一般的に行われる治療については、健康保険の適用内治療であることがほとんどです。
 しかし、歯牙損傷時のインプラント治療(顎骨欠損などで一部保険適用される場合もあります。)や歯列矯正、醜状障害の場合の形成外科治療を超える美容整形などの保険適用外の治療を並行して行う場合は、原則として、その治療だけでなく保険適用の治療も含め、すべて自由診療となってしまいます。
 ただし、先進医療や治験に係る診療などの「評定療養」にあたる場合などでは、「保険外併用療養費」として、保険適用内治療については、保険治療が可能となります。

4 通勤災害や勤務災害の労災事案では健康保険は使えません。
  
 通勤中や営業での移動際に事故に遭った場合などの労災事案では、健康保険は使えません。
 これは労災請求をしているか否かを問いません。
 ですので、労災事案で相手方保険会社が治療費の打切りをしてきた場合、まだ治療の必要性があれば、健康保険ではなく労災申請を行い、労災で療養給付の支給を受けることになります。


高額医療制度


健康保険を使用し、自己負担額が高額になった場合、1か月の自己負担限度額を超えた部分について医療費が支払われる高額医療費の制度があります。
自己負担限度額は、70歳を基準とした年齢や所得に応じて異なり、例えば、標準報酬月額28万円~50万円の方ですと、4万4400円程度になります(平成27年1月)。

ただし、自己負担限度額を超えたかについては、医療機関ごとに判断され、入院と通院、医科と歯科も別になります。
一方、世帯合算が可能ですので、同一事故でご家族が傷害を負った場合などでは、同じ病院で治療を受けた場合、ご家族全体の医療費が限度額を超えればよいことになります。

なお、高額医療費が支払われるのは、申請から2乃至3か月程度かかることが一般的ですので、その間の高額医療費相当額の8割相当額の貸し付けを受けられる「高額医療費貸付」の制度があります。
また、事前に一医療機関での医療費が高額になることが分かっている場合などでは、事前に「高額医療費の現物支給」の申請を行い認定を受ければ、病院では自己負担限度額までの支払いで済むことになります。


こども医療費助成(小児医療費助成)


各市町村によって異なりますが、例えば名古屋市の子ども医療費助成制度では、15歳までのお子さんの医療費については、所得制限なく、自己負担部分を市が助成してくれますので、医療費の自己負担は全くありません。

小児医療助成については、それぞれの市町村によって、対象となる年齢や助成内容、親の所得による制限が異なりますので、必ず市町村のホームページで確認してください。


傷病手当金


事故により休業を余儀なくされ、給与の全額もしくは一部の支払いが受けられないたにもかかわらず、相手方保険会社や人身傷害保険、自賠責保険に対する被害者請求によっても休業損害が支払われない場合、傷病手当金の支給を検討することになります。
ただし、協会けんぽや共済組合に加入している方は支給対象になりますが、国民健康保険の場合、各自治体により傷病手当金が支払われるか異なりますので、各自治体にお問い合わせください。
なお、名古屋市では傷病手当金の制度はございません。

傷病手当金は、連続して休業をした場合4日目から、標準報酬日額の3分の2相当額が、最大で1年6か月間支払われます。
健康保険組合によっては、付加給付がなされる場合もあります。
また、勤務先や保険会社などから給与の一部の支払いを受けている場合、標準報酬日額の3分の2相当額との差額が支払われることになり、これら一部の給与に上乗せされて、傷病手当金の3分の2相当額が支払われるのではないので注意してください。
例)月額報酬30万円 事故後給与10万円に減額⇒〇傷病手当金10万円 ×傷病手当金20万円


シェアする

ブログの記事一覧へ戻る