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東京海上日動火災保険株式会社につきましては、前回のブログ作成以降、幸いにして順調に示談交渉行っており、特筆すべき点はございませんでした(同社以外の問題事案は多々ありましたので、追ってご報告します)。
 しかし、近時、同社東海損害サービス第二部損害サービス第一課において、看過し難い示談案の提示がございましたので報告します。以下は同一事案です(例示は実際の事案を変えてあります)。


被害者の方は、家事従事者(主婦)の方で、家事労働者としての休業損害を請求しました。
一般に、家事労働者の休業損害については、以下のとおり算定します。

1 事故年度の女性・学歴計・全年齢平均賃金(例年350万円程度です。)を365日で除した日額を1日の休業損害の基礎とします。

2 これをもとに、
①事故から一定の期間内の家事労働に対する支障を割合で評価し、これをもとに算出する方法
たとえば、通院期間240日(8か月)として、事故から1か月間は100%、2か月目から4か月目の3か月間は50%、5か月目から6か月目の2か月間は30%、7か月目から8か月目までの2か月間は10%、それぞれ家事労働に対する支障が生じたという場合、9500円(日額)×30(日)+9500円×90×0.5+9500円×60×0.3+9500円×60日×0.1と計算します。

この方法は、実態を適正に反映しており、妥当な計算方法といえ、多くの裁判例でもこのような算定方
法が用いられています。

もしくは、
②通院日を丸一日休業したと擬制して、実通院日数に日額を乗じて算出する方法
たとえば、実通院日数が80日であった場合、9500円(日額)×80と計算します。
この方法は、家事労働に対する現実的な支障を評価することが困難であることにかんがみ、簡易な計算方法として、示談交渉時に保険会社が良く提示してくる算定方法です。

上記①及び②の算定方法は択一的なものですので、通常はどちらかの方法により損害を算定することになります。
本件では、示談ベースでの解決が見込まれた事案でしたので、私はまず②の算定方法で請求しました。
ところが、同社担当者は、両者を併用した計算方法を用いて、当方請求額を大幅に減額した対案を提示
してきました。

 すなわち、通院日を休業日としたうえで(②)、さらにその通院日に対して休業割合を乗じてきたのです(①)。
 具体的には、仮に通院期間8か月、実通院日数が80日であった場合、実通院日数に1日あたりの休業損害9500円をそのまま乗じるのではなく、当初1か月の実通院日数10日については100%、2か月目から4か月目の実通院日数30日については50%、5か月目から6か月目の実通院日数20日については10%と、両者の計算方法を併用してきました。

 おまけに、本件で後遺障害逸失利益(たとえば14級・5%)を認めつつ、7か月目から8か月目までの休業については0%(家事労働への影響はない。すなわち、7から8か月目には家事労働に対する支障はないとしつつ、症状固定後の9か月目からは家事労働に対する支障~14級ならば5%~が復活?)との実態に即さない認定をしてきました。

これにとどまらず、入通院(傷害)慰謝料の算定についても、独自の計算方法を主張してきました。
 私は基準が明確なので通常「赤い本」の基準にしたがい損害を算定していますが、保険会社は幅のある額の下限を採用したいがために、青本の基準を使うことが多くみられます。
 本件も担当者は、「青本基準による」として青本基準を採用したことを明らかにしました。
 仮に、通院期間240日・実通院日数80日の場合、青本では原則として入通院期間をベースに算定しますので、通院期間8か月になり、入院はないとすると、90万円~165万円となります。
 ところが、担当者は実通院日数を月に換算し、これに対応する慰謝料額を提示してきました。
 つまり、上記の例でいえば、実通院日数である80日を月に換算すると2か月20日になり、2か月と3か月の間の3か月よりの40万円を提示してきました。
 
 上記のとおり青本では、通院期間を基にして算定することになり、「通院が長期化し、1年以上にわたりかつ通院頻度が低く1か月に2~3回程度の割合にも達しない場合」(青本24訂版・154頁)などに、実通院日数を用いますが、その場合でも、実通院日数を3.5倍した修正通院期間(通称3.5倍ルール、2/7ルールと呼ばれます)を算定し、これを算定表に当てはめることになります。
 つまり、先の例で、敢えて通院実日数を用いるならば、80日×3.5=280日(9か月と10日)となり、算定表上は、おおむね97万~177万円程度となります。
 

 本件で担当者は、「青本基準」とはっきり算定方法を明記しながら、独自の算定方法を用いました。
 被害者の方がご自身で交渉をされた場合、保険会社担当者から、「これが青本基準です。」と言われれば、基準通りであれば仕方がないと納得してしまうかもしれません(ご自身での交渉の場合、青本基準下限にも満たない「自社基準」を持ち出してくることがほとんどでしょうが・・・)。

 前回も記載しましたとおり、多くの東京海上日動火災の担当者はプロ意識をもって、日々業務に取り組んでいることと思いますし、私も日々の業務の中でそれを実感することも多々あります。
 家事労働者の休業損害の算定は難しい部分もあるのは確かで、事故態様や症状の内容や程度、家族構成や家事労働に対する支障等から総合的に判断して算定し、示談に至ることが一般的ですが、この担当者の算定方法が何らかの正当な理由に基づく合理的なものであったことを願うばかりです。


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