本ページの内容につきましては、平成24年8月当時のものです。

脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)とは、硬膜、くも膜に何らかの理由で穴があき、脳脊髄腔内の脳髄液が漏出し、内部の水と供に脳が動き、痛覚受容体のある脳神経、脳の血管や頭蓋底の硬膜が刺激され、頭痛、吐気、めまい、耳鳴り、だるさ、頚部・背部痛等の症状を引き起こす症例です。

裁判例では、本症例を否定する傾向が続いていましたが、平成22年4月、厚生労働省が脳脊髄液減少症の各種検査が保険適用になる見解を示し、研究班を立ち上げると、平成23年から、脳髄液減少症を正面から認める高裁判例が相次いでいます。
また、厚生労働省の研究班は、平成23年10月14日、画像診断基準とともに低髄液圧症の診断基準を公表しました。
今後は、裁判所においても、この基準にしたがって、脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の判断が示されることが予想されます。

なお、本症例に関し、これまで医学界の多数の見解の一致がみられず、また、本症例の否定判決が相次いでいたことなどから、現段階では、誠に残念ながら、損保料率機構や保険会社との交渉レベルで本症例が認められることは非常に困難です。
そのため、本症例の治療費や本症例を原因とした後遺障害の認定を受けるためには、裁判を提起し、裁判所で認めてもらうことが必要です。

以下、本症例の判断基準と近時の裁判例の傾向をまとめました。
詳細な判例の比較はこちらをご覧ください。

平成24年5月30日 東京高裁で本症の発症を否定する判決が下されました。
報道によれば、同判決は昨年策定された厚労省研究会の画像診断基準を採用しなかったこととのことですが、その理由等については判決文を入手でき次第分析することにします。
被害者は上告するとのことですので、最高裁の判断が俟たれるところです。

平成24年5月17日 厚生労働省の専門家会議において、脳脊髄液減少症の最も一般的な治療法であるブラッドパッチ療法につき、費用の一部が保険適用される「先進医療」として認める旨発表しました。
厚労省の基準を満たした医療機関で治療を受けることが条件で、報道によれば、早ければ7月から適用されるとのことです。
愛知県内で本症例の治療が可能な病院については、こちらをご覧ください。
なお、本リストに挙げられた病院すべてが厚労省の基準を満たしている訳ではありませんので、
本症例を受診する場合は、ブラッドパッチ療法の実施を見据えて、当該病院が厚労省の基準を満たしているか必ずご確認ください。

裁判で脳脊髄液減少症と認められるためには

現在、厚生労働省脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班が、脳脊髄液減少症(漏出症)の差診断基準を作成しているところですが、多くの直近の裁判例は、平成19年(2007年)に公表された日本神経外傷学会低髄液圧症候群作業部会が発表した基準にしたがって、脳脊髄液減少症に該当するかの判断を行ってきました。
そこで、近時の裁判例(○名古屋高裁平成23年3月18日判決、○大阪高裁平成23年7月22日判決、×東京地裁平成23年9月30日判決、×同平成24年1月23日判決、×さいたま地裁平成24年1月27日判決、○×はそれぞれ本症例の肯定・否定を指します。)や、これまでの厚労省研究班の中間報告などを分析し、現在、裁判所で、脳脊髄液減少症と認められると考えられる要件を以下にまとめました。

平成23年に高裁レベルで2つの肯定判決が出されたといえ、その後も地裁レベルで本症例を否定する厳しい判決が続いています(東京地裁平成24年2月7日判決、同月13日判決)。厚労省研究班による脳脊髄液減少症の診断基準の発表があれば、今後、裁判所においても、その基準に従うことが予想されますので、広く本症例を認めるような基準の発表が俟たれるところです。

1 受傷態様が相当程度重大であること

本症例を肯定した近時の判例は、外傷性硬膜血腫を負ったり、顔面部や腰椎を骨折するなど、脳脊髄液の漏出が認められるような、身体特に頭部や腰部への強度の衝撃があったような事案でした。
したがって、本症例が認められるためには、身体に髄液漏れが生じるような強度の衝撃を受けたことが必要とされています。


2 起立性の頭痛や体位変動性の症状があること


本症例を肯定した近時の判例は、いずれも起立性の頭痛や体位の変動による症状変化が生じた事案でした。一方、否定した判例では、いずれも起立性の頭痛や及び体位変動性の症状が認められない事案でした。
平成23年の厚労省の中間報告及び平成19年の日本神経外傷学会の診断基準でも、この要件は、低髄液圧症候群の診断基準の前提とされていますので、起立性の頭痛や体位変動性の症状があることは、裁判上で脳脊髄液減少症が認められるための必須な要件といえます。
起立性の頭痛が生じたかについては、カルテ等の記載が重視されますので、事故当初から、しっかりと主治医に対し、「頭痛があること」のみならず、「どのような場合に頭痛が生じるか」までしっかりと告げ、カルテ等にその内容を記載してもらうことが肝要です。


3 RI脳槽シンチグラフィーによる脳髄液の漏出所見


本症例を肯定した近時の判例は、RI脳槽シンチグラフィーによるRIの残存率が30%を切る事案で、硬膜外への脳髄液の異常集積が認められた事案でした。
ただし、東京地裁平成23年9月30日判決は、「RI脳槽シンチグラフィー検査結果のみによっては髄液漏出の確定診断はできないという医学上の見解が有力」とし、また、平成23年10月の厚労省研究班の報告によっても、「本法のみで確実に診断できる症例は少ない」、「2.5時間以内の早期膀胱内RI集積は正常人でも高頻度に認められる」としました。
つまり、本症例を認めるためには、RI脳槽シンチグラフィーの検査結果でRIの異常集積が認められることが必要であり、一方異常が認められたとしても、それだけでは、本症例が認められるものではなく、本症例を認めるためには、その他の要件との総合的な判断がなされることになります。


4 CTミエロ・脊髄MRIミエログラフィーによる造影剤の漏出所見


これらの画像により、硬膜外への造影剤の漏出所見が認められれば、脳脊髄液漏れを示す直接な資料となります。平成23年10月の厚労省中間報告でも、それぞれ、「現時点でもっとも信頼性が高い検査」、「重要な所見」とされています。


5 ブラッドパッチによる症状の顕著な改善


本症例を肯定した近時の2つの判例では、いずれもブラッドパッチ療法の結果、症状が大幅に改善した事案です。一方、本症例を否定した近時の3つの判例では、「(症状が)顕著に改善したとはいえない」としています。
すなわち、判例上、ブラッドパッチ療法を施行し、症状の顕著な改善があったことが、本症例を認めるための重要な要件の一つとなっています。


平成23年10月14日 厚生労働省研究班報告


厚生労働省脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班は、以下のとおり、脳脊髄液漏出症(減少症)の画像診断基準を公表しました。
診断基準の詳細につきましては、こちらをご覧ください。 したがって、今後、裁判例においても、今回公表された画像診断基準にしたがい、脳脊髄液減少症が生じているかの判断がなされることが予想されます。
また、『「脳脊髄液漏出症」と「低髄液圧症」は、密接に関連しており、「低髄液圧症」の診断は「脳髄液漏出症診断」の補助診断として有用』として、低髄液圧症の画像診断基準と診断基準を公表しました。


低髄液圧症の診断基準


起立性頭痛を前提に、
① 60mm水柱以下の髄液圧
② びまん性硬膜肥厚造影所見(脳MRI)


①+②「確定」、①もしくは②で「確実」
脳MRI におけるびまん性硬膜肥厚造影所見のみを「強疑」所見とする
複数の「参考」所見があった場合、「疑」とする。


低髄液圧症の診断基準


A 脳MRI

1 びまん性の硬膜造影所見
硬膜に両側対称性にびまん性かつ連続性に造影効果と硬膜の肥厚を認める。
認められれば、「強疑」所見とする。ただし、硬膜増強所見がなくても、低髄液圧症を否定できないとした。
2 硬膜下水腫
硬膜とくも膜下間に液体貯留を認める。
「参考」所見とする。
3 硬膜外静脈叢の拡張
「参考」所見とする
4 その他の脳MRI 所見(小脳扁桃の下垂、脳幹の扁平化、下垂体前葉の腫大(上に凸)等)
「参考」所見とする


脳脊髄液漏出症の画像判定基準


A 脊髄MRI/MRミエログラフィー

1 硬膜外脳脊髄液:陽性率は低いが重要な所見
2 硬膜下脳脊髄液:実際の診断例なし

B 脳槽シンチグラフィー

1 硬膜外のRI集積:脳髄液漏出のスクリーニング検査法
本法のみで確実に診断できる症例は少ない
片側限局性のRI異常集積⇒漏出の「強疑」
非対称性のRI異常集積⇒漏出の「疑」
頚~胸部の対称性のRI異常集積⇒漏出の「疑」

2 脳髄液循環不全
24時間像での円蓋部(頭蓋骨正中頂上部)へのRI集積遅延は、
脳脊髄液循環不全の所見とする
漏出所見「疑」+循環不全⇒強疑
漏出所見「強疑」+循環不全⇒確実

3 2.5時間以内の早期膀胱内RI集積
正常者でも高頻度に認められる

C CTミエロ

1 硬膜外への造影剤漏出:症例少ないが、現時点で最も信頼性が高い検査法
2 硬膜下腔への造影剤漏出:実際の診断例なし


2007年 日本神経外傷学会頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会報告


これまで、比較的多くの裁判例が参考としてきた、平成19年に発表された日本神経外傷学会頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会が報告した基準をあげます。
作業部会報告の詳細はこちらをご覧ください
今後、厚生労働省の研究会による脳脊髄液減少症の判断基準の発表が俟たれます。

前提基準1項目、大基準1項目以上又は小基準3項目以上

前提基準

  1. 起立性頭痛(座位又は立位で15分以内に増悪する)
  2. 体位による症状(頭痛以外の項部硬直、耳鳴、聴力低下、光過敏、悪心)の変化

大基準

  1. びまん性の硬膜増強(造影MRI)
  2. 髄液の漏出(脊髄MRI、CTミエログラフィー、RI脳槽造影)
  3. 腰椎穿刺での低髄液圧(60mmH2O)

小基準

  1. 静脈の拡張(頭部MRI,脊髄MRI)
  2. 硬膜下液体貯留(頭部MRI)
  3. 下垂体の腫大(頭部MRI)
  4. 脳の下垂(頭部MRI)
  5. 脊髄髄膜憩室(脊髄MRI)
  6. 大脳円蓋部の集積遅延及び早期膀胱集積(RI脳槽造影)

外傷性の要件

外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的


シェアする