むち打ち損傷の後遺障害等級の認定場面では、「神経学的異常所見」があるかが問題とされます。
そこで、神経学的異常所見とは何かについて、詳しく解説をしていきます。

【神経症状のメカニズムと神経学的異常所見について】
むち打ち損傷を負った場合、各部位に痛み・痺れ・麻痺・筋力低下等の神経症状が発現することが多々あります。
ところで、背骨(脊椎)を通る脊髄から、神経根と呼ばれる部分を介して各部位に末梢神経が通じていますが、事故により脊椎部に大きな衝撃を受けた場合、脊椎に椎間板ヘルニア等の病変を生じ(もともとあった病変に衝撃が加わり)、神経根を障害することで、各神経症状が発症します。
そして、病変を生じた脊椎の部位(損傷された神経根等)によって、支配する運動神経や感覚神経が異なりますので、病変部に対応した部位に神経症状が発症している場合、その症状は病変部を原因として発症しているといえます。

つまり、特定の病変部分に対応した特定の症状が多数みられる場合、「症状が他覚的に証明された」として、12級13号の認定が受けられる可能性が高まります。
例えば、MRI画像上、C4/5に後方右側に突出したヘルニアにより、C5右神経根の圧排所見が得られた場合、C5神経に対応する

  • 外旋の可動域の制限
  • 右上腕二頭筋の反射・筋力の低下
  • 右上腕外側に知覚鈍麻
  • 右上腕の筋委縮

などの症状がみられた場合、「神経学的異常所見あり」として、12級13号の認定が受けやすくなるのです。

なお、病変部に対応する神経根は、基本的には下位の脊椎に対応する神経になります(C4/5ならC5神経根、C7/T1ならC8)。
ただし、脊髄に病変(脊髄症)が生じた場合、さらに下の神経が障害されることになります(C4/5ならC6)。

以下、各神経学的検査の種類及び内容と、各神経根が支配する筋腱・関節の可動・感覚神経を挙げていきます。


主な神経学的検査の種類


1 関節可動域検査

日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された方法にしたがい、各関節の可動域を測定する検査です。各神経根の障害部位により、可動域制限が生じる関節が異なります。


2 徒手筋力検査(MMT)


筋力の低下が生じていないかを、検者と力比べをして測定する検査です。5(正常)~0(筋収縮なし)の6段階で測定し、筋力低下が生じている筋肉を確認します。各神経根の障害部位により、筋力の低下がみられる筋肉は異なります。


3 筋委縮検査


運動神経が障害され筋力低下が生じている場合、筋肉の使用頻度が減り、筋肉がやせ細ります。上肢または下肢の周囲径を図り、筋委縮が生じているかを確認します。


4 腱反射・病的反射テスト


打鍵器により各神経を直接刺激し、反射異常が生じていないかを調べるテストです。
神経根症状の場合、腱反射が低下・喪失し、脊髄症状の場合、腱反射は亢進(過剰反応)します。

また、病的反射テストで、陽性が出ると神経の異常があるとされます。
主な病的反射は、以下のとおりです。

[ホフマン(Hoffmann)・トレムナー(TrÖmner)反射]
中指の中節を背側に押し、末節を掌側もしくは背側で弾いたとき、拇指の屈曲がみられると、C6~8の反射が亢進しているとされる。

[ワルテンベルグ(Wartenberg)徴候]
第2指から5指の遠位指節に、検者の同じ指を引っ掛けて互いに引っ張り合うとき、拇指が屈曲すると、運動神経障害があるとされる。

[バビンスキー(Babinski)徴候]
足底を踵から指先に向けてやや鋭利なもので擦りあげた際に、母趾が背屈し、第4・5指が外転すると、錘体路障害(運動神経の障害)があることを示す。

[足/膝クローヌス(Clonus)]
足クローヌス:足底を上方に強く押して足関節を背屈位に保つとき、下腿三頭筋が収縮し足関節が複数回背屈を繰り返す場合、深部腱反射の著明な亢進があることを示す。

膝クローヌス:仰臥位で膝蓋骨の上縁を強く下方に押し下げたとき、大腿四頭筋が収縮し膝蓋骨が複数回上下する場合、深部腱反射の著明な亢進があることを示す。


5 神経根症状誘発テスト


病変部に圧迫を加え、症状が生じるかを確認するテストです。
症状を誘発するため、主治医の指示のもと、慎重に行っていただいて下さい。

【頚部の主な神経根症状誘発テスト】
[ジャクソン(Jackson)テスト]
頭部を背屈させ、前額部を下方へ押えるテスト。上肢に放散痛が生じた場合、神経根症を疑う。

[スパーリング(Spurling)テスト]
頭部を後屈かつ側方へ屈曲させ、頭頂部を下方に圧迫するテスト。上肢に疼痛・放散痛が生じた場合、神経根症を疑う。

【腰部の主な神経根症状誘発テスト】
[SLR(Straight Leg Raising)テスト]
仰臥位で膝関節を伸展したまま下肢を挙上した場合、70度未満で坐骨神経に沿った疼痛が誘発された場合、L4/5、L5/S神経の圧迫を強く疑うテスト

[FNST(Femoral Nerve Stretch)テスト]
腹臥位で、膝関節を90度屈曲して下腿を上方に引き上げた場合、大腿神経に沿った沿った疼痛が誘発された場合、L2/3、L3/4神経の圧迫を疑うテスト


6 知覚検査


皮膚の知覚に異常が生じていないかを調べるテストです。 各神経根の障害部位により、知覚麻痺が生じる部位が異なります。


【皮膚知覚帯(デルマトーム)地図とは】


障害された各神経に対応する症状や感覚障害(感覚麻痺・異常感覚等)が、身体のどの部位に生じるかを図示したものが、皮膚知覚帯(デルマトーム)地図です。

地図中、Cは頚椎、Tは胸椎、Lは腰椎、Sは仙骨を示します。
例えば、頚椎4番・5番間(C4/5)の椎間板ヘルニアがあった場合、頚神経5番が圧迫されることになりますので、C5で示された上腕外側の知覚麻痺が生じることになります。

また、脊椎の病変が脊髄自体に障害をもたらす場合は、さらに下位の神経障害が生じることになります。
つまり、C4/5の椎間板ヘルニアにより、脊髄自体を圧迫している場合は、C6の神経領域に症状が生じることになります。


7 電気生理学的検査(筋電図検査・神経伝導速度検査)


脊髄もしくは神経根の障害に伴い、末梢神経の障害が生じている場合、これを他覚的に裏付けるには、筋電図検査・神経伝導速度検査などの電気生理学的検査を施行することが一般です。
筋電図検査・神経伝導速度検査の詳細につきましては、こちらのページをご覧ください。


頚部神経根の支配領域


頚部の各神経根の支配領域(支配筋腱、感覚神経)を以下に挙げます。
各神経根に異常があった場合、どの筋肉・腱反射・関節可動に異常が生じ、どの部位に感覚障害が生じるかをまとめています。
これらの神経学的指標は、例えば、画像上特定の神経根の圧排所見が得られた場合、その神経根に対応する筋腱類、感覚障害が生じていないかを確認したり、又は、特定の筋腱類や感覚障害が生じている場合、その部位に対応する神経根に異常が生じていないか確認するのに役立ちます。


1 C5神経根の支配領域


【主な支配筋】
三角筋、上腕二頭筋

【関節可動域制限】
肩の外転運動

【深部腱反射】
三角筋腱反射、上腕二頭筋腱反射

【感覚領域】
上腕外側


2 C6神経根の支配領域


【主な支配筋】
上腕二頭筋、手根伸筋

【関節可動域制限】
肘屈曲、手関節背屈

【深部腱反射】
上腕二頭筋腱反射、腕橈骨筋腱反射

【感覚領域】
前腕橈側、拇・示指


3 C7神経根の支配領域


【主な支配筋】
上腕三頭筋、手根屈筋、指伸筋

【関節可動域制限】
肘伸展、手関節掌屈

【深部腱反射】
上腕三頭筋腱反射

【感覚領域】
中指(但し一致しないことが多い)


4 C8神経根の支配領域


【主な支配筋】
掌内固有小筋、指屈筋

【関節可動域制限】
手指開閉

【深部腱反射】
なし

【感覚領域】
前腕尺側、環・小指


5 T1神経根の支配領域


【主な支配筋】
掌内固有小筋

【関節可動域制限】
手指外転・内転

【深部腱反射】
なし

【感覚領域】
上腕内側


腰部神経根の支配領域


1 L4神経根の支配領域

【主な支配筋】
前脛骨筋、大腿四頭筋

【関節可動域制限】
足部の背屈内反

【深部腱反射】
膝蓋腱反射

【感覚領域】
下腿及び足部の内側


2 L5神経根の支配領域


【主な支配筋】
長母趾伸筋、長・短趾伸筋

【関節可動域制限】
足踵の背屈

【深部腱反射】
誘発困難

【感覚領域】
下腿外側と足背


3 S1神経根の支配領域


【主な支配筋】
長・短腓骨筋、腓腹筋

【関節可動域制限】
足部底屈外反

【深部腱反射】
アキレス腱反射

【感覚領域】
足外側部と足底の一部


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