脊髄損傷は、脊髄を保護する脊椎椎体が圧迫・破裂・脱臼骨折をするなどして脊髄を直接損傷する骨傷性脊髄損傷の他、椎体の骨折等はないが、頚部等に強い衝撃が加わり、脊髄が過伸展・過屈曲されて脊髄の中心部を損傷する非骨傷性脊髄損傷(中心性脊髄損傷)とにわけられます。
脊髄は、脳と同じく中枢神経であり、いったん損傷されると回復はほぼ困難とされています。
その症状は、損傷を受けた脊髄の部位(髄節の高位)により異なり、具体的には以下のとおりです。

①頚髄の損傷:四肢麻痺(四肢の感覚・運動機能障害)、呼吸麻痺
②胸椎・腰椎の損傷:対麻痺(両下肢の感覚・運動機能障害)
上位胸椎より上位の損傷では循環障害
中位胸椎より下位の損傷では消化器・泌尿器障害
③非骨傷性脊髄損傷(中心性脊髄損傷)では、上肢の麻痺(手指の巧緻運動障害や強い痺れ)が顕著です。

脊髄損傷の後遺障害等級は、「神経系統の機能障害」として、麻痺等が生じた部位及びその程度に応じて、第1、2、3、5、7、9、12級となります。
脊髄損傷は、MRI画像で捉えられます。


脊髄損傷の注意点


脊髄損傷を示す直接の医証は、MRI画像ですが、精度の低いMRI画像では損傷部位を捉えきれず、見逃されることもあります。
また、中心性頚髄損傷は、頚部の過伸展により生じる場合があるので、むち打ち損傷のような受傷態様でも生じえますし、脊椎に異常は生じないのでレントゲン画像上何らの病変は見当たりません。そのため、中心性脊髄損傷の主な症状である上肢の麻痺が生じていても、単なるむち打ち症状と診断され、MRI撮影がなされず、脊髄損傷が見逃されてしまうことも多々あります。

対策


1 早期の精度の高いMRI画像の撮影


後遺障害等級認定実務では、脊髄損傷を直接に示す資料としてMRI画像が重視されます。
骨傷性の脊髄損傷であれば、椎体等の骨折により脊髄への損傷が生じているか比較的認識されやすいので、しっかりとMRI撮影がなされることは多いのですが、中心性脊髄損傷では、単なるむち打ち損傷と診断され、そもそもMRI画像の撮影がなされず見逃されてしまうこともあります。
また、精度の低いMRI画像では、損傷が見逃されることもありますし、事故から相当期間経過後に撮影されたMRI画像では、事故との因果関係が争われることもあります。
そこで、手指の巧緻運動能力の低下(細かい作業がしにくい、できない)や手指に強い痺れを生じた場合、中心性脊髄損傷を疑い、なるべく早期に精度の高いMRI画像を撮影してその有無を確認していただくことが必須です。


2 早期の神経学的検査の実施


脊髄損傷の有無は、各種神経学的検査によりその有無を確認することができますので、以下の検査を実施していただいて下さい。
神経学的検査結果の詳細については、こちらの「神経学的異常所見とは」のページをご覧ください。

①反射テスト
各神経を打突して反射が正常化をみる検査。脊髄に異常がある場合、反射は亢進(強く)なります。また、脊髄に異常があると、バビンスキー、クローヌス、ホフマン・トレムナー反射などの病的反射が出現します。この反射テストは、患者の医師に左右されにくいので、後遺障害認定実務では重視される傾向にあります。
②徒手筋力テスト
運動機能の検査、運動神経が麻痺するので、筋力は低下します。
③筋委縮
麻痺症状により、筋肉がやせ細ります。
④知覚検査
⑤手指巧緻運動検査


3 専門医の受診


脊髄損傷は症状が重篤ですし、中心性脊髄損傷は見落とされやすい疾病ですので、脊髄損傷を疑わせる症状が生じた場合や、2の神経学的検査で陽性反応を示した場合、脊髄損傷が生じている可能性があるので、脊髄損傷に詳しい専門医の診断を受けてください。


4 1、2の結果を記載した正確かつ具体的な診断書の作成


後遺障害診断書に記載のない内容は、後遺障害等級認定の場面では、無いものとして扱われてしまうので、適切な後遺障害等級認定を受けるためには、1の画像上の異常所見及び2の異常検査結果を正確かつ具体的に後遺障害診断書に記載してもらうことが必要です。
また、脊髄損傷の内容・程度をより具体的かつ詳細に把握するため、「脊髄損傷による障害の状態に関する意見書」や「脊髄症状判定用」等の意見書・診断書を作成していただいて下さい。


外傷性脊髄空洞症


外傷性脊髄空洞症とは、脊髄内の髄液が流れる中心管が、脊髄損傷等に伴う脊髄実質の浮腫・壊死・瘢痕化により圧迫されるなどして、髄液の流れを阻害するなどし、脊髄内に空洞が生じることをいいます。


脊髄損傷との関係


近時、交通事故後脊髄損傷を負ったと主張する訴訟では、加害者側から脊髄内の画像上の輝度変化に対し、脊髄損傷ではなく脊髄空洞症であるとの反論がなされ、また、事故後脊髄症状が遅発しており、交通事故との因果関係がないなどとして、自賠責保険での後遺障害認定や訴訟で脊髄損傷が否定されることが多くみられます。


脊髄損傷ではなく、空洞症であるとの主張に対して


そもそも、外傷性脊髄空洞症が、脊髄の損傷後の変化すなわち、脊髄実質の炎症、浮腫、壊死、瘢痕化伴い、中心管が圧迫され生じるものであることから、脊髄損傷後に合併する可能性があるものです。
したがって、脊髄損傷の主張に対して脊髄空洞症であること自体を反論として持ち出すことは適切ではありません。


脊髄空洞症が既往症であり、事故と無関係との主張に対して


(非外傷性)脊髄空洞症は、Chiari奇形、頭蓋底陥入症、癒着性くも膜炎、脊髄腫瘍等を基礎疾患としても生じる症例です。
しかし、これらの症状はMRI画像上で鑑別できますので、上記基礎疾患を否定することが可能です。


突発性脊髄空洞症との主張に対して


突発性脊髄空洞症の発症頻度は、10万人中1.3人とあると報告されており、非常に稀な疾患です。
脊髄に損傷を負う程度の交通事故被害に遭い、画像上も脊髄に輝度変化が生じており、これに対応する脊髄症状を呈しているという事実がある一方で、上記事実とは無関係に突発性脊髄空洞症を発症したと反論すること自体無理がある主張に思えます。


外傷性脊髄空洞症と非外傷性脊髄空洞症との画像上の鑑別


非外傷性脊髄空洞症は、空洞内が髄液のみで満たされていることが多いため、MRIT2強調画像では、空洞部が真っ白に描写されます(画像左)。
一方、外傷性脊髄空洞症の場合、外傷後早期に撮影されたMRI画像では、空洞内に血液の陥入や髄液の濁り、浮腫などが捉えられることがありますので(画像右)、この点で、画像上の鑑別が可能となります。



遅発性の脊髄症状について


外傷後の脊髄空洞症が、脊髄損傷後に脊髄実質の変化による中心管の圧迫に伴い中心管が拡大するものであるとすると、事故後相当期間の経過により中心管が拡大し、これにより脊髄が内部から圧迫され、知覚や運動麻痺などの脊髄症状が遅発することになります。
したがって、経時的なMRI画像により空洞の拡大が捉えられ、これに伴い遅発的に脊髄症状を呈しているような場合は、むしろ症状の発現経緯に合致していることから、事故から相当期間経過後に脊髄症状が生じたからといって、事故との相当因果関係が否定されるものではないと考えられます。


遅発性の脊髄症状や中心管の拡大が認められない空洞症について


多くの医学書では、外傷後脊髄空洞症は、外傷により経時的に空洞が拡大しこれに伴い遅発的に脊髄症状を呈するという症状として論じられています。
しかし、脊髄損傷後変化の程度や中心管の圧迫の度合いによっては、必ずしも中心管の拡大をもたらすものではありませんし、脊髄損傷後変化の回復の程度に伴って、空洞は縮小していきます。
また、空洞化が生じても必ずしも脊髄症状を呈するものではありませんので、事故当初から脊髄症状を呈していれば、それは、空洞化によるものではなく脊髄実質の損傷に伴う症状であると考えられます。
したがって、外傷性空洞症であるからといって、必ずしも空洞の拡大や遅発性の脊髄症状を呈するものではないと思われます。


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