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CDRテクニシャン資格とは

CDRテクニシャン資格とは、車両に搭載されているイベント・データ・レコーダー(EDR)から車両運行データを、ドイツのBOSCH社が開発・運用しているクラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)という機器を用いて車両から抜き取ることができる資格です。

EDRデータは、衝突事故前後の車両の速度やブレーキのON/OFF、アクセル開度、シートベルトの着用の有無等の各車両運行データが自動的に記録される、航空機の「ブラックボックス」に相当する、事故態様の解明に極めて有用なデータですが、そのデータの抽出・利用のためにはBOSCH社が開発したCDRを使用しなければなりません(詳細については当ブログ『事故態様解明の救世主「イベント・データ・レコーダー」』をご参照ください)。

そして、CDRを利用しデータを抽出しこれをレポート化し事故態様を解析するためには、「CDRアナリスト」という資格を取得する必要があるのですが、令和3年11月からEDRデータを抽出するだけの簡易な資格として「CDRテクニシャン」資格が新設されたことを受け、弁護士丹羽も令和4年3月29日から30日にかけてBOSCH社本社で実施されたCDRテクニシャン認定トレーニングを受講し合格しました。

これを受けて、にわ法律事務所ではEDRデータ抽出業務を開始いたしましたので、詳しくは本ブログ末項をご参照ください。

なお、これまでCDRアナリストを含め弁護士のCDR資格者はいませんでしたが、今回のトレーニングでは私を含め3名の弁護士が受講し、みな揃って合格できましたので、私たち3名が弁護士初のCDR資格者となります。

今回、CDRテクニシャン資格を取得したことを受け、さらに詳しく実践的にEDR及びCDRを説明いたします。


EDRに記録される運行データは


令和3年6月に国連WP29の183回会合で採択された「事故情報記録装置に係る協定規則(第160号)」では、以下のデータを記載することが定められ、令和4年7月1日の本邦の改正道路運送車両の保安基準でも、乗車定員 10 人未満の乗用車及び車両総重量 3.5t以下の貨物車の新型車に同じ内容のEDRデータを記載することが規定されます(こちらを参照ください)。
・速度変化量、表示車速、加速度、シートベルト着用有無、ロール角等
・先進安全技術に関する作動情報(衝突被害軽減ブレーキ、自動操舵機能、事故自動緊急通報装置等)

そして、イベント記録としてEDR内でデータの消去がロックされる場合として以下の条件が規定されています。
・縦方向又は横方向の速度変化が150ミリ秒以下の間隔で時速8㎞以上
・エアバッグ等が作動した場合等

ただ、既に市販されている車両のEDRでは、これよりも多いデータ項目が記録されていることもあります。

CDR機種の種類(CANPlusとCDR900)


現状でEDRデータを抽出・可視化するためには、BOSCH社が開発・販売するCDR(クラッシュデータリトリーバル)を利用する他ありませんが、現在、CDRは2機種販売されており、上記画像の左が「CANPlus」で右が「CDR900」です。
CANPlusは20年ほど前に開発されたもので、古い車種や日産車に対応しています。
CDR900は令和2年から運用されている新しい機種です。

CDRの活用事例は、BOSCH社のYouTube動画をご覧ください。


どのようにして、CDRにより自車のEDRデータの抜き取りが可能かを調べるか


BOSCH社では、CDRソフトウェアの中で、車種・製造年・地域によって、CDRでのデータ抜き取りが可能か、いずれの機種が対応しているか、記録されているデータ項目を調べられます。
CDRソフトウェア自体はライセンス取得者でなくても上記のBOSCH社HPの「Current CDR Software Release」からダウンロードでき、上記事項を閲覧できます。

具体的には、上記ソフトウェアのHelpページの「Supported Vihicles」から、メーカー・車種・年式を選択すれば、英語にはなりますが、CDRでのデータ抜き取りが可能か、いずれのCDR機種を利用するか、記録されているデータの種類が示されます。
なお、「Mkt」で示される国・地域番号で、[ 7 All markets the vihicle is sold] もしくは[9 Japan]しか、本邦のCDRで対応しないことに十分注意をしてください。

例えば2021モデルイヤーの日産セレナを調べると、「9  2021 Nissan Serena ACM Data CANplus」と出てきますので、国内モデルであればCANPlusでEDRデータの抽出が可能になり、Dataをクリックすると保存されているEDRデータの一覧が示されます。


どのようにして、EDRデータを抽出するのか

EDRデータは車載ACM(エアバッグ・コントロール・モジュール)に記録されますが、CDRを利用してEDRデータを抽出するためには2つの方法があります。

1 DLC(データリンクコネクタ)/OBD(オンボードダイアグノスティクス)から抽出する方法
DLCは外部から容易にアクセスできますし、DLCは汎用性があるので、専用ケーブルを必要とすることなくCDRにより比較的容易にデータ抽出が可能です。
ただし、DLCが生きていることが必要ですし車両からの電源供給が必要なので、重大事故などでDLCが損傷している場合はDLCからのデータ抽出はできません。

2 ACMから直接抽出する方法
DLCが損傷・破損している場合、ACMから直接データを抽出することになります。
ACMは各車種や年式により異なりますので、専用のACMケーブルが必要になります。
また、ACMは外部から容易にアクセスできない場所に設置されているので、フロアカーペット等の着脱等の分解作業が必要です。
ACMに電源供給がされている場合、ACMに衝撃が加わると、データが記録されるので細心の注意が必要になります。


なお、テクニシャン認定トレーニングでは、このデータ抽出作業を中心にトレーニングします。
他方、アナリスト認定トレーニングでは、得られたEDRデータによる事故態様の解析のトレーニングが中心になります。


DLCからのデータ抽出(Crash Data Group社YouTube「Bosch CDR 900 Upgrade for the Bosch CDR Tool」より抜粋)


抽出したEDRデータはどのようにして可視化(レポート化)するか


CDRアナリストもしくはテクニシャン有資格者がCDRソフトウェアを利用してEDRデータの抽出に成功すると、PC画面上に抽出したEDRデータ(CDR-Xデータ)を表や文に変換した上の画像のようなCDRレポートが表示されます。

ただし肝心なのは、テクニシャン資格者では、右の画像に示された肝心の車両運行データは表示されません。
事故態様の解明に必須な車両運行データは、改めてアナリスト資格者に抽出したEDRデータを提供し完全なCDRレポートを作成してもらう必要があります。

このように、テクニシャン資格はあくまでCDRを使ってEDRデータを抜き取るだけの資格であることがわかりますが、EDRデータは時間の経過により失われてしまう可能性がありますし、複数のイベントがあると当該事故のデータがいずれかが不明になる可能性もありますので、事故後できるだけ早期にEDRデータを抜き取って保全することはとても重要です。
わが国でもアナリスト資格よりも簡易に取得できるテクニシャン資格者が増え、早期にEDRデータの抽出が可能となり、米国のように当たり前のようにEDRデータを事故態様の解明に活用できる基盤が整えば、事故態様の争いは激減すると考えられます。

また、事故態様の解明だけでなく、EDRデータを利用し中古車市場での事故歴の有無や走行距離の妥当性などを調査することで、中古車市場での透明性の確保につながる可能性も秘めています。
さらに、BOSCH社は、一般社団法人日本自動車車体補修協会(JARWA)と共同して、EDRデータにより車体の損傷度を判定することで、修理金額の推定を行い、迅速かつ客観・公正な修理費用の算定や保険料の支払いに役立てる取り組みを開始するなど、EDRデータの利用価値は無限に広がりを見せています(令和4年4月25日からテクニシャン資格に車両計測データの取得カリキュラムを追加したトレーニングが開始されます・詳しくはこちら)。

当事務所でEDRデータの抽出業務を開始いたします。

今回弁護士丹羽がCDRテクニシャン資格を取得したことを受け、当事務所ではご自身の車両のDLC/OBDポートからのEDRデータの抽出業務を3万3000円(税込)の費用で実施いたします。

弁護士費用特約を利用する場合は、保険会社からEDRデータ抽出費用が支払われる場合がありますので、ご加入の損保会社にご確認ください。
また、相手方に対する賠償請求の際に、EDRデータ抽出費用についても損害賠償請求関係費用として請求できる場合があります(東京地裁平成30年3月28日判決参照)。

なお、損害賠償請求事件として当事務所に正式にご依頼いただいた場合は、弁護士費用特約に加入されている場合を除き、EDRデータ抽出費用は特に不要です。
また、CDRレポートの作成もしくはACMからのデータ抽出については、CDRアナリスト有資格者に別途依頼し、費用が発生しますのでご了承ください。


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