交通事故により、頭部等を打撲すると、内耳神経や脳幹・小脳などに障害が生じ、耳鳴りを生じたり、失調・眩暈(めまい)などの平衡機能障害が生じることが多々あります。
また、いわゆるバレー・リュー(Barré-Liéou)症候群として知られるように、むち打ち損傷などの頚椎疾患でもこれらの症状が生じることは多々あります。
バレー・リュー症状の原因ははっきりしませんが、頚部交感神経の緊張や椎骨動脈循環障害などを原因としているといわれています。なお、むち打ち損傷によるこれら症状は、受傷後2~4週間以後に発症することが多いとされています。
さらには、脳脊髄液減少症軽度外傷性脳損傷(MTBI)でもこれらの症状を発症することがあります。

【後遺障害認定のポイント】
これらの症状は、独立して後遺障害等級評価の対象となりますが、いずれも、

  1. 後遺障害認定の主治医の先生にその症状を詳しく説明して記録化していただくこと
  2. 各種検査により、これらの症状が発症していることを他覚的に裏付けることが必要です。
  3. 症状を自覚した時点ですぐに主治医に症状を訴え、事故から時間が経過しているからと諦めないこと

まず、耳鳴り・めまい等の症状は、他人にはわからない症状ですし、また、多種多様な症状を呈し、その症状により原因がある程度特定できるので、まずはご自身の症状を、下記に挙げた症状の分類にしたがって、具体的に特定することが大切です。

また、これら症状を後遺障害等級認定の対象とするためには、各種検査により、その症状を他覚的に裏付けることが最も重要です。

これら検査は、神経耳鼻科や神経内科等で検査をしてもらうことになりますので、特に頚椎捻挫・外傷性頚部症候群等の診断名で整形外科のみに通院されている方は、主治医の先生に症状を訴えて神経耳鼻科や神経内科の専門医を紹介していただいて下さい。

特に頭部に外傷がある場合は、脳神経外科等で、頭部CT・MRIの施行を行っていただくことはもちろんですが、脳波やPET・SPECT、誘発電位などの検査を施行していただくことも有用な場合があります。


耳鳴り(耳鳴・じめい)の後遺障害認定のポイント


耳鳴りの後遺障害等級

12級相当 耳鳴に係る検査により難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるもの
具体的には、ピッチマッチ検査およびラウドネスバランス検査により、耳鳴が存在すると医学的に評価できる場合を指します。

14級相当 難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるもの

なお、ここでいう「難聴に伴い」とは、後遺障害等級認定上の「難聴(40Db以上)」を指すものではなく、「耳鳴を生じている高さの聴力が、他と比較して低下していること」を指しますのでご注意ください。


耳鳴りの種類


以下の耳鳴り症状内容の各項目にしたがって、ご自身の耳鳴りの症状を把握し、症状内容を適切に主治医の先生にお伝えすることが大切です。

1 耳鳴りの部位

右耳・左耳・両耳・頭皮上・頭蓋内

2 耳鳴りの種類

右耳 一種類・二種類・三種類以上
左耳 一種類・二種類・三種類以上
頭部 一種類・二種類・三種類以上

3 耳鳴りの音

ピーピー、シャーシャーなど、聞こえる音を具体的に。

4 耳鳴り音の高低

  • 高い音
  • 低い音
  • どちらともいえない

5 耳鳴り音の清濁

  • 澄んだ音
  • にごった音
  • どちらともいえない

6 耳鳴りの大きさ(5段階で)

  • とても小さい
  • 小さい
  • 中くらい
  • 大きい
  • とても大きい

7 耳鳴りの持続(5段階で)

  • ほとんど鳴らない
  • たまに鳴る
  • 鳴ったり止まったり
  • たまに止まる
  • ほとんど鳴っている

8 耳鳴りの気になり方(5段階で)

  • ほとんど気にならない
  • 仕事中は忘れている
  • 仕事中も時々気になる
  • 気になるが仕事はできる
  • 気になって仕事が手につかない

9 その他の特徴

  • 脈打つ うつことがある・うたない
  • 音色が変わる 変わることがある・変わらない
  • 大きさが変わる 変わることがある・変わらない
  • 耳鳴りのため眠れない 眠れないことがある・眠れる

耳鳴りチェックシート


耳鼻咽喉科学会では、耳鳴障害度問診票(THI)により耳鳴りの重篤度を測定することを提唱しています。
問診票をチェックしてご自身の耳鳴りの重篤度をチェックしたうえで、必要であれば、主治医の先生に提出して下さい(下の画像をプリントアウトしてお使い下さい)。



耳鳴りの検査


〈自覚的聴力検査〉

ピッチマッチ検査

125ヘルツから8000ヘルツまで7種類の音の聞こえを検査

ラウドネス・バランス検査

耳鳴りの音の高さや音色を調べる検査

遮蔽検査(マスキング検査)

耳鳴りの音の高さを調べる検査

純音力検査

耳鳴りの音が消えるか、どの大きさで消えるかを調べる検査

〈他覚性聴力検査〉

ABR(聴性脳幹反応)検査

聴覚神経を刺激し得られた脳波をコンピューターで聴力の状態を解析する検査。
意識や睡眠状態の影響を受けにくい。

音響インピーダンスオージオメトリ検査

① 中耳の状態を見るチンパノメオリー
② 音に対しての神経反射を見るアブミ骨筋反射検査

OAE(耳音響放射)検査

蝸牛(カギュウ)の外有毛細胞の異常を調べる検査


失調・めまい等平衡機能障害の後遺障害認定のポイント


失調・めまい等平衡機能障害の後遺障害等級

3級 生命の維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の失調または平衡機能障害のため
に労務に服することができないもの
5級 著しい失調または平衡機能障害のために、労働能力がきわめて低下し一般平均人の1/4程度しか残
されていないもの
7級 中等度の失調または平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の1/2以下程度に明らかに低下
しているもの
9級 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状が強く、かつ、眼振その他平衡機能検査
に明らかな異常所見が認められ、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
12級 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状があり、かつ、眼振その他平衡機能検査
の結果に異常所見が認められるもの
14級 めまいの自覚症状はあるが、眼振その他平衡機能障害検査の結果に異常所見が認められないもの
の、めまいのあることが医学的にみて合理的に推測できるもの


めまいの種類・特質


めまいの具体的症状は、その原因によって、大きく以下にわけられます。

①定型性めまい(末梢性障害・内耳性めまい)

症状
回転感が主体 周囲がぐるぐる回る、床が傾く、壁が倒れるなど

特質
眼振(眼球の不随意な異常な動き)の程度は軽いが持続が長く、
注視の方向によって眼振の方向も変化する。 
耳鳴り・難聴などを伴わず、他の脳神経障害を示すことがある。

②非定型性(偽性)めまい(中枢性障害)

症状
身体の不安定感 ふらつく、宙にういた感じ、目の前が暗くなる

特質
いずれの方向を注視しても眼振の方向が決まっている。
めまい感を伴うことが多く、頭位の変換によりめまいが増悪することが多い。
めまいの程度は強く、耳鳴・難聴を伴うことが多い。


まず、ご自身のめまい等の症状が上記のどちらの分類に近いか確認したうえで、以下の症状内容の類型により、ご自身のめまい等の症状がどのような症状であるか特定して、主治医の先生に適切に伝えてください。

  • 難聴、耳鳴り、悪心・嘔吐などの随伴症状の有無、
  • めまい等の時間的経過、持続時間、
  • 反復するか否か、
  • 起立時・頭頚部の位置を変えると生じるか、その位置(回転・屈曲・伸展)等

めまいの検査


めまいの症状の場合、眼振検査を受けることは必須ですが、下記の検査はあくまで一例であり、すべての検査を受ける必要があるわけではありません。めまい等の症状に応じて主治医の指示にしたがってください。


1 眼振検査


眼振(眼球の不随意な異常な動き)をフレンツェル眼鏡、赤外線CCDカメラ、暗所ENG記録により観察する。

注視眼振検査

眼前50cmの指標を30秒以上注視させる。
注視方向性あるいは純回旋性注視眼振の出現は中枢障害を示唆する。

自発眼振検査

非注視下で自発的に出現する眼振を観察する。
めまい発作中に患側向き、発作後に健側向きの水平回旋性眼振を認めると
メニエール病などが疑われる。垂直性眼振は中枢障害を示唆する。

頭位眼振検査

座位・仰臥位・懸垂頭位において観察する。
定方向性眼振は末梢前庭障害が疑われる。
減衰傾向のない上・下眼瞼向き眼振は脳幹や小脳疾患の可能性がある。

頭位変換眼振検査

懸垂頭位から座位およびその逆で、急速に頭位を変換させた際に誘発される眼振を観察する。
方向交代性の垂直・回旋混合性眼振は、良性発作性頭位めまいに特徴的である。
懸垂頭位での下眼瞼向き垂直性眼振は小脳正中部の障害を示唆する。


2 迷路刺激検査


温度、電気あるいは回転刺激を末梢前庭や前庭神経に与えたときに生じる眼振や前庭脊髄反射の異常を調べる検査

温度刺激検査

外耳道へ注水した水の温度と体温の差により水平半規管に内リンパ流動を起こし、眼振を誘発させる。
半規管機能低下(CP)が20%以上あるいは最大緩徐相速度が10°/秒未満の場合を、水平半規管の反応低下をとし、同側の末梢前庭、前庭神経障害が示唆される。

Visual suppression検査

温度眼振反応が最大になった時点で、眼前50cmの指標を固視させると眼振解発が抑制される。
抑制の低下や消失を示すと小脳障害を疑う。

回転刺激検査

水平回転を行うと頭部に加わった加速度によって水平半規管が刺激され、回転中と回転後に眼振が生じる。
前庭機能の左右差を評価し、左右差が有意な場合は末梢性前庭障害が疑われる。

電気刺激検査

耳後部に直流通電することによって得られる眼振や身体動揺を観察する。
反応の減弱や消失がある場合は迷路よりも前庭神経の障害が疑われる。

前庭誘発頸筋電位(VEMP)検査

大きな音響刺激によって誘発される胸鎖乳突筋の反応を計測する。
球形嚢-下前庭神経系の異常を検出するのに有用


3 視刺激検査


視運動性眼振検査:一定方向から眼前を逐次に移動する線条をみた場合、視運動性の眼振が誘発される。
眼振の解発が抑制される場合、中枢障害が示唆される。

追跡眼球運動検査:水平方向に正弦波状で移動する対象物を随意的に追跡したときの眼球運動を記録する。
衝動性眼球運動が混在したり、失調性で円滑な眼球運動がみられない場合は、脳幹・小脳障害が示唆される。


4 体平衡検査


【静的平衡検査】

両脚直立検査

両足を揃えて直立し、開眼と閉眼でそれぞれ60秒間観察する。

Mann検査

両足を一直線上に前後で揃え、開眼と閉眼でそれぞれ30秒間観察する。

単脚直立検査

挙上足の大腿が水平になるように片足で直立し、開眼で30秒間、閉眼で15秒間観察する。

重心動揺検査

重心同様計を用いて、30~60秒間に両脚直立したときの重心の移動を分析する。

【動的体平衡検査】

指示検査

座位の状態で示指を伸ばし上肢を上方に垂直に挙げた位置から水平の高さに下して、前方に示した目標を指示させる。
開眼で10回同じ動作を反復させて指示点より10cm以上の偏示を異常とする。

書字検査

医師にかけて遮眼で4~5文字の縦書きをさせて偏倚角度を測定する。
10度以上の偏倚を異常とする。

足踏検査

両側上肢を水平に挙上して、遮眼で100歩足踏みをさせ、回転角や移行距離を測定する。
回転角91度以上、移行距離1m以上を異常とする。

歩行検査

遮眼で6mの直線上を前進及び後退させ直線上からの偏倚距離を測定する。
前進で1m、後退で1.4m以上の左右の偏倚を異常とする。


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