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交通事故により頭部を受傷し、認知・記憶・注意力、遂行機能障害、性格変化等の高次脳機能障害を生じることはよく知られており、当事務所でも大変多くの高次脳機能障害を生じた交通事故被害者の方々からのご依頼をいただいております。

今回、愛知県高次脳機能障害支援マップが更新されたことを受け、高次脳機能障害が生じた場合のリハビリの重要性や、どの医療機関にかかるべきか、症状に応じたどのような検査・リハビリ方法があるかについて詳しく説明します。
その他、従前より当事務所のHPでも繰り返し交通事故による高次脳機能障害についての問題点を多々ご紹介しておりますので、宜しければ以下の記事もご覧ください。

高次脳機能障害の基本的事項と自賠責後遺障害認定のポイントはこちら
高次脳機能障害の自賠責後遺障害等級該当性の判断方法についてはこちら
交通事故賠償上の高次脳機能障害についての誤解についてはこちら
重傷頭部外傷を負った方の重要な初期対応についてはこちら
重傷後遺障害を負った方の入院・退院上の問題についてはこちら

高次脳機能障害のリハビリの重要性について

高次脳機能障害を負った場合、
①高次脳機能障害の診断を受けること
②諸検査によりどのような症状が生じているか正確に把握すること
③その症状に応じた専門的かつ適切なリハビリ・訓練を受けること

が症状の回復や賠償の場面で非常に大切になります。

にもかかわらず、病院で高次脳機能障害が見逃されることはまだまだ多く、仮に高次脳機能障害と診断されたとしても、高次脳機能障害について適切に診断できる専門医の先生や、その症状に応じた資格を有する作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、臨床心理士(CP)等の各専門家によるリハビリ体制を整えている医療機関はまだまだ少ないので、適切な治療を受けられることは稀です。

重傷頭部外傷を負い高次脳機能障害が疑われたとしても、『頭を強く打っているのでしばらくは記憶があいまいなのは当然だ』とか、『日常生活がリハビリだ』と言われ、入院中適切な診断や治療をしてもらえなかったり、退院後、『次は3か月後に経過観察で脳神経外科に来て』と言われるなどして、全く高次脳機能障害の治療がなされないケースが大変多く見られます。
『うちはしっかりとリハビリします』といって転院した病院であっても、実態は就学や就労支援が必要な若年者に対しても老人向けの認知症ケアしかしていない病院もみられます。

以下に詳述するとおり、近年、高次脳機能障害に対するリハビリ/訓練方法は目覚ましく発展しこれらの効果も実証されつつあります。
弁護士丹羽の経験則上、外傷により衰えた高次脳機能は、適切な時点でその症状に沿った専門的かつ適切な治療やリハビリが実施されれば、若年者であるほど目覚ましい回復はみられますし、適切な訓練により日常生活能力を回復することは良くあります。
他方、受傷当初に高次脳機能障害が見逃されてしまうと、因果関係や病状の評価などでその後の賠償上も大きな問題が生じ、適切な賠償を受けらない可能性も非常に大きくなります。
加えて、高次脳機能障害に理解のある医療ソーシャルワーカーや支援員の方がいる医療機関では、精神障害者認定等の社会福祉制度の案内やご家族に向けて適切な介護体制の構築、学校や勤務先と連携した就学・就労支援が受けられますが、そういった支援も受けられません。

では、高次脳機能障害が疑われる場合、どの病院に通院したら良いのでしょうか。

令和6年4月17日「愛知県高次脳機能障害支援マップ」が更新されました

ここ愛知県では、なごや高次脳機能障害支援センター様が、愛知県内の高次脳機能障害に対応できる医療機関の一覧を作成し公開していますが、令和6年4月17日に更新されました。

愛知県高次脳機能障害支援マップはこちら

このマップでは、高次脳機能障害について対応できる愛知県内の医療機関が、地域ごとに入院/通院リハビリが可能か、自賠責/労災、精神障害診断書作成に対応が可能か等について分類されまとめられております。

高次脳機能障害が疑われる場合、まずはここに記載してある医療機関を受診することが必須となりますが、ここに掲載されている病院は、治療実績ではなくアンケートの回答結果に基づき記載されているに過ぎませんので、すべての掲載医療機関で適切な治療やリハビリ、支援が受けられるとは限りませんので注意が必要です。

愛知県内の高次脳機能障害で信頼できる専門医療機関は

これまでの弁護士丹羽の経験では、ここ愛知県では、やはりなごや高次脳機能障害支援センターが設置されている『名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院』(名古屋市瑞穂区)、もしくは、この地域で最も信頼できる日本リハビリテーション医学会臨床認定医の深川和利先生がセンター長を務められている『大同病院・だいどうクリニックの高次脳機能障害センター』(名古屋市南区・現在新規の患者の受付を停止しています)で、最も手厚い専門的治療・リハビリが受けられると考えています。

入院中のご家族のお見舞いや通院の煩を考え、せめて各地域で一つでも高次脳機能障害について専門的な診断・治療が可能で安心してご紹介できる総合病院があればと切に望んでいます。

高次脳機能障害の検査・リハビリの例

先に述べたとおり、高次脳機能障害に対しては、なるべく早い段階から適切な専門的リハビリを実施いただくことが大変重要ですが、症状ごとの検査・リハビリ例を以下に挙げます。
各医療機関によって実施される検査やリハビリ/訓練は違いますし、独自に訓練方法を用いている医療機関もございますので、あくまで一例として捉えてください。

1 注意障害に対して

評価方法

・標準注意検査法(CAT: Clinical Assessment for Attention)
 2006年日本高次脳機能障害学会により開発された評価法
・仮名ひろいテスト
 比較的よく実施されている評価法
・行動評価尺度(RSAB,MARS等)
 作業療法士が患者の訓練場面を観察し評価する評価法

有意なリハビリテーション

・APT/APT-Ⅱ
 難易度に応じた課題を繰り返し行う訓練
・適切なドリル、ゲーム、パズル等による訓練
・TPM:time pressure management
患者自らが情報処理速度の遅れを自覚しその補償手段を得る訓練

2 記憶障害に対して

評価方法

・ウエクスラー記憶検査(WMS‐R)
 国際的にもっともよく用いられている検査で日本でも標準化されており、記憶の各側面を評価できる総合的検査
・リバーミード行動記憶検査(RBMT)
 日本でも標準化されており、日常生活に酷似した状況下の記憶の検査を実施できる

有意なリハビリテーション

・視覚イメージ法、PQRST法、間隔伸張法等の各種記憶検査の実施
・記憶補助具の習得と活用

3 失語症に対して

評価方法

・標準失語症検査(SLTA:Standard Language Test of Aphasia)
・WAB失語症検査
それぞれ失語症の代表的な検査で、失語症の有無、重症度、タイプを診断できる検査


有意なリハビリテーション


・語彙・意味、音韻、構音動作、読字・書字、仮名文字、文レベルの各訓練課題、失語症者のコミュニケーションの有効性増進法(PACE)の実施


4 半側空間無視に対して


半側空間無視とは、損傷した大脳半球の反対側の刺激に対し注意が向かなくなる症状です。


評価方法


・BIT行動性無視検査日本版
 抹消/模写/描画試験の通常検査と写真/硬貨/地図・トランプ課題の行動検査により行う評価法


有意なリハビリテーション


・プリズム順応課題
 プリズム眼鏡により視覚的に一方に傾いた視野内で到達運動を繰り返す訓練
・視覚走査訓練
 無視側に目線を向けさせる訓練


5 視覚的失認に対して


視覚的失認とは、対象物体を見ただけではわからないが、触ったり音を聞いたりするとわかる症状です。


評価方法


・標準高次視知覚検査(VPTA:Visual Perception Test for Agnosia)
 日本失語症学会により標準化された検査で、視覚機能全般を広範囲にカバーしている検査


有意なリハビリテーション


・模写訓練、属性の学習訓練、書称訓練
繰り返し、様々な物体を示して模写し、呼び名を覚え書き起こす訓練


6 失行に対して


失行とは、手足の麻痺や不随意運動はないにもかかわらず、しっかりとした運動ができない状態をいいます。


評価方法 


・標準高次動作性検査(SPTA:Standard Performance Test for Apraxia)
顔面・上下肢・手足の動作を詳細にテストして、誤反応を分類し、麻痺、失調、異常運動などの運動障害の種類や程度を把握する検査


有意なリハビリテーション


苦手なことの練習、苦手なことに対する代償・補填する訓練、支援環境の構築


7 遂行機能障害に対して


評価方法

・ウィスコンシンカード分類検査(Wisconsin Card Sorting Test)
世界的に最も汎用されている前頭葉機能検査
・BADS(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome)
日常生活上の遂行機能に関する問題点を描写する遂行機能の総合的検査
・その他各種検査(ヴィゴツキー・カテゴリー検査、ストループテスト、流暢性テスト、TMT、迷路学習テスト、ハノイの塔課題、ティンカートイ・テスト、FAB等)


有意なリハビリテーション


日常生活に直結する機能であることから、教育的アプローチ、問題行動を減じるための行動療法、行動促進の手がかりの提供、自己教示法、問題解決訓練、目標管理訓練、時間活力管理法、外的補助具の利用、包括的支援という観点から、段階的に机上・作業活動・日常生活動作・職業生活・グループでの作品制作・社会生活課題を実施していく。


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