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むち打ち損傷とは何か

むち打ち損傷とは、簡単に言うと、追突の際の衝撃などで、頚部が振られたことにより、頚部・肩甲部・上肢等に痛みや痺れをもたらすもので、頚部捻挫、頚部挫傷、外傷性頚部症候群などと診断名が付されたものを指します。むち打ち損傷に伴い、頭痛・吐気・めまい・耳鳴り等の、いわゆるバレーリュー症状が生じることもあります。
腰部捻挫等で、腰部・臀部痛、下肢痛や痺れ等を生じる場合も、症状及び発症原因の共通性から、便宜的にここに含んで説明します。
むち打ち損傷等の場合、認定される後遺障害等級は、12級及び14級ですが、実際に認定されるのは、14級であることがほとんどです。また、後遺障害に該当しないとされる非該当の判断がなされることもあります。

当事務所で平成28年9月までに取り扱った156件のむち打ち損傷の事案を分析した後遺障害認定結果や認定のための詳細な要件については、こちらの「むち打ち損傷における自賠責保険での後遺障害等級認定の実情」をご覧ください。

重篤な症状が生じることもある

なお、「頚・腰椎捻挫」などの診断がなされた場合であっても、事故態様が重大な場合、まれに、重度の痛みやしびれ、麻痺、膀胱・直腸障害、視覚・聴覚・嗅覚・味覚障害、嚥下障害などの身体性症状や、記憶・認知能力の低下・性格の変化などの高次脳の機能障害が生じることがあります。この場合、脳(びまん性脳損傷、MTBI等)や脊髄(中心性脊髄損傷)に損傷を負っている場合がありますので、このような症状がみられたらすぐに専門医に相談して下さい。
詳しくは、軽度外傷性脳損傷脊髄損傷のページをご覧ください。
また、単なるむち打ちと診断されても、脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)を発症していることもあります。


12級・14級の一般的認定基準


自賠責保険では、以下の基準により、むち打ち損傷の等級の認定を行っています。

12級の認定基準は「局部に頑固な神経症状を残すもの」

12級の基準とはすなわち、症状が神経学的検査結果画像所見などの他覚的所見により、医学的に証明できるもの。
具体的には、「本件事故に起因する外傷性の変化や症状と整合する脊髄・神経根への明らかな圧迫所見が認められること」になります。

14級の認定基準は「局部に神経症状を残すもの」

14級の基準とはすなわち、受傷時の状態や治療の経過などから連続性・一貫性が認められ、説明可能な症状であり、単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの。

12級、14級それぞれの具体的な認定基準を以下でご説明します。


非該当とされる主なケース(後遺障害等級の認定が否定される場合)


どうすれば12級・14級の認定を獲得できるかを説明するために、まず「どのような場合で認定が否定されるか」をご理解ください。
次のようなケースでは、後遺障害等級の認定が否定されることがあります。
それぞれについて認定の対策を解説していきます。

  • 1.事故態様が軽微
  • 2.通院実績に乏しい
  • 3.症状の一貫・連続性がない
  • 4.症状の重篤性・常時性がない
  • 5.その他

1 事故態様が軽微であると認定されない場合がある

極めて低速度で追突をされた場合など、事故態様が軽微な場合、症状が発症していたとしても、非該当とされる場合があります。追突を受けたとしても、加害車両の速度が低速度で、ご自身の車両にほんの少し傷が付いた程度であった場合などでは、後遺障害等級の認定が否定されることがあります。

では、どの程度の損傷状態であれば軽微損傷といえるでしょうか。
損傷状態の程度については、修理費の多寡が一つの判断要素になるところ、車種や損傷部位によっても大きく異なるので一概にはいえませんが、当事務所では、経験則上修理費が20~30万円以下に留まる事故の場合、後遺障害認定が否定される傾向にあると考えています。
例えば、追突事故の場合、被追突車のバンパーカバーの交換だけでなく、「修復歴あり」とされるトランクフロアやリアサイドメンバーまで波及する程度の損傷であれば軽微とはいいがたく、少なくともリアバンパーリインホースメントまでの波及は必要であると思われます。

なお、被害者請求を行った場合であっても、必要に応じて自賠社からの求めにより、相手方任意保険から等級認定の意見の提出と併せ、必要に応じて車両の損傷状態や修理費及び修理内容を示した物損調査報告書等が提出されますので、自賠責調査事務所ではこれらの資料も併せて損害調査がなされます。


対策は「証拠を残しておくこと」


相手方保険会社は、各車両の損傷状態を撮影したりするなどの調査をしますが、写真の撮り方や見落としなどで、事故が軽微でなかったことを示す傷や凹みがしっかりと残されていないこともあります。そこで、ご自身側で、車両の修理前に、傷や凹みの写真をしっかり撮影しておくなど事故の態様を示す証拠を残しておくことが重要です。

認定のポイント

事故態様の程度は車両の損傷状態で判断されることが一般的であり、損傷状態が軽微である場合に受傷の程度が軽微であったとして、後遺障害の発生が否定されます。
しかし、自賠責での後遺障害の認定の場面とは異なり、軽微事故であるからといって、必ずしも後遺障害が発生しないとは限りません。

京都地裁平成27年1月7日判決(自動車保険ジャーナル1947号・確定)は、車両の損傷状態と受傷態様の関係について、下記のとおり判示しました。
「車両の損傷の程度と人体への影響との関係は、複雑な要素(車両重量・接触面積・衝突部位の可塑性・車両の緩衝機能・防御意識・頑健さ等)によって影響されるから、単純に車両の損傷の程度が小さいから人体への影響も小さいとは評価できない」

また、例えば、東京地裁平成9年9月18日判決(交通事故民事裁判例集30巻5号1404頁、自動車保険ジャーナル1261号・確定)は、被害車両にわずかな凹み痕を残し時速5乃至10キロメートル程度で追突を受け、頭痛・頚部痛等の症状を残した被害者に対し、1年2か月間(実通院日数285日)の治療費すべての相当因果関係を認めたうえで、14級相当の後遺障害を認めています。

さらに、後遺障害は残存しなかったものの、事故と受傷との因果関係が問題となった名古屋地裁令和元年11月6日判決では、「本件事故によって生じたX車及びY車の損傷状態から、Xの受けた衝撃の強さを科学的に推認することは困難である。また、追突車が低速度であったとしても、無防備な状態で追突をされれば、追突をされた車両の運転者の人体には相当な衝撃が加わる場合があることは否定できない。さらに、・・・Xは、本件事故によってX車は前方に押し出されたと供述しており、Yのみの立会による上記見分状況書に基づいて、X車が衝突後に前方に押し出されていないと認定することは困難である。以上によれば・・・本件事故によってXが受けた衝撃が軽微であったと認定することは困難であり、本件事故によってXが受傷したとの認定を覆すには足りない」と認定しています。

すなわち、被害車両の損傷の軽微性が問題とされた場合、異議申立てや訴訟の場面では、上記判例を引用し、丁寧にあてはめを行ったうえで、「車両の損傷状態は軽微かもしれないが、〇〇の点から、被害者に加わった衝撃の程度は軽微とはいえない。」旨を主張していくことになろうかと存じます。

運転姿勢も重視されます

近時の裁判では、受傷が問題となっているようなケースでは、受傷時の運転姿勢等も重要視される傾向にあります。
「停止中にカーナビを右手で操作するため、上半身を左方向に捻り顔を左下に傾けていたという不自然な体勢であり、正常の運転姿勢よりも受傷しやすい体勢であった」などの運転姿勢の不自然さをもって、難治性の症状であることを認めるなどされています。
また、追突など、事故に備え身構えることができない不意な事故であったことも受傷を認める理由として挙げられています。

この点の供述内容が曖昧だったり、供述が変遷していたり、車両の損傷状態から考えられる事故態様と、被害者が主張する事故時の身体の動きや受傷部位などが大きく食い違う場合などでは、被害者の証言は信用性に欠けるとして、受傷自体を否定されるケースも散見されるので注意が必要です。

そのため、記憶が鮮明なうちに、ご自身が事故に遭ったときに体勢や事故の瞬間の身体の動き(上半身が後方から跳ね上げられ、下から突き上げられるようにシートから前方に腰が浮いて、頚が前後上下に強く大きく揺さぶられた)などをメモして残しておくことが肝要です。


2 通院実績に乏しいと認定されない場合がある


後遺障害の等級認定を受けるためには、受傷直後から症状固定まで、整形外科等の医師の治療を継続して受けることが必要です。ですので、例えば、受傷直後から1か月近く全く通院していなかったり、事故直後から2週間に1回程度の通院であったり、整骨院での施術が中心で病院への通院が僅少な場合、非該当となることがあります。


対策は受傷当初から最低でも週1回程度は病院に通院すること


受傷後しばらくして症状が重くなることもありますので、事故後痛みや違和感を感じたら、決して我慢せず、すぐに医師の治療を受けてください。また、受傷後少なくとも3か月程度は、あまり通院間隔を空けずに、症状の程度や医師の指示にしたがい、少なくとも週に1回程度は通院することをお勧めします。
当事務所では、当初の3か月程度は週3回程度、その後は週2回程度の通院・リハビリ頻度であれば、過剰診療にもならず、通院実績上も問題ないのではと考えています。

事故翌日1日通院、その13日後から通院を再開し、6か月の通院期間中、整形外科に14日のみ通院し、異議申立てにより14級9号の認定を受けたケース

追突事故で頚椎を捻挫し、事故翌日に1日通院しただけでその後13日間は全く通院をせず、症状固定日までの6か月間の通院期間中、病院に14日間のみ通院したケースで、異議申立てにより14級9号の認定を得ましたのでご紹介します。
認定のポイント
・被害者は40代の会社代表者の男性ですが、業務が極めて多忙なためやむなく通院ができなかったこと、その間も症状が連続しており、これに対し症状緩和措置を自ら講じていたことなどを報告書に詳細かつ具体的ににまとめ、異議申立時に提出しました。
・上肢の神経症状を呈しており、MRI画像上もこれを裏付ける所見が得られていました。
・症状固定後も病院や鍼灸院に自費で通院を継続していました。

本ケースは、頚椎捻挫の診断名で、186日間の通院期間中病院への通院日数は14日ですし、しかも事故後1日通院したのみで事故当初より12日間の通院中断期間がありますので、本来ですと通院実績が乏しいとして非該当になるケースですが、異議申立時に上記点を強調したことで何とか14級9号の認定を受けることができました。

コロナ禍で通院が十分にできなかった場合の対策

令和2年から発生したコロナ禍の下では、病院でクラスターが発生したり緊急事態宣言が相次いで発令されるなど、十分に通院ができないという方も多数見られます。
その場合、局部の神経症状の後遺障害認定の場面では、通院実績がないとして後遺障害等級非該当とされる恐れが非常に高まっています。

その対策として、当事務所では、被害者請求時に以下の内容を記載した報告書を提出することにより、通院の必要性があったにもかかわらずやむを得ず通院が十分できなかった事情を自賠責調査事務所に説明する必要があると考えています。

1 通院できなかった事情
2 この間の症状経過
3 この間、症状の緩和のために努めていたこと

(例)
・ 病院で多めに薬を処方してもらい、または、薬局で購入した痛み止めを服用、患部に湿布薬を貼付していた
・休業する、休日も外出を控えるなどして安静にしていた
・病院で指導された症状の緩和措置(ストレッチやマッサージ)等を都度実施していた
・医師の指導の下、自費で症状を緩和する器具・装具等(低周波治療器、サポーター、マッサージ器具等)を購入し使用していた


3 症状の一貫・連続性がないと認定されない場合がある


受傷直後から症状固定まで、症状が一貫・連続していることが必要です。ですので、例えば、カルテの記載上、事故当初は、左項頚部の痛みのみで右項頚部の症状は訴えていなかったのに、事故後3か月後から右項頚部の症状を訴えたと記載されていたり、事故直後は左頚部の可動域に問題はなかったのに、事故から数か月後から左頚部の可動域が制限されたり、いったん痛みが消え回復したと言ったのに、1か月後再度痛みがぶり返したと訴えたような場合が、一貫・連続性がないとされ、非該当となることがあります。


対策は「医師に長期的な症状を伝えること」


カルテ等に記載がないものは症状がないものとみなされますので、まず、事故直後の痛みや痺れ、関節の動かしにくさなどは、必ずすべて医師に訴えて、カルテに記載してもらうことが大切です。そして、頚や腰の可動域に問題があれば、可動域を測定してもらい、これもカルテに記載してもらってください。 また、症状に気づいたら、遠慮せずにその都度、医師に訴えることが必要です。
痛みや痺れ等の症状は、日によって軽くなったり重くなったりします。ですので、診察日その日だけたまたま痛みがなかった場合でも、医師に、軽率に「治った」「調子がいい。」などと言うのではなく、ある程度長期的な症状を伝えることが肝要です。

診断書中に症状が「軽減」と記載された場合の問題点

事故当初症状を自覚しておらず、また、医師に症状を伝えていなかった場合等の問題点


4 症状の重篤性・常時性がないと認定されない場合がある


そもそも、後遺障害といえるためには、残存した症状がそれなりに重いことが必要です。
例えば、頚部の「コリ」、「違和感」、「だるさ」、「張り」などの症状では、後遺障害として認められない可能性が高いです。
また、基本的に、後遺障害は常にある症状が基本となります(常時性)。
例えば、普段は症状が発症しないが、雨の日や寒い時、仕事をした後、長時間歩いた後などの特定の条件下で発症する場合も、後遺障害として認められない場合があります。


対策は「正確な症状をハッキリと医師に伝えること」


虚偽の症状を述べることは絶対にしてはいけませんが、
症状の重篤性の観点から、主治医の先生に症状を伝える際には、あいまいな表現はせず、痛みなら「痛み」、しびれなら「しびれ」と、はっきりと症状を伝えるべきです。
また、症状の常時性の観点から、天候が悪い時や仕事後・長時間の歩行後など特定の条件下で、症状が強くなると感じられるのであれば、「雨の日などの天気が悪い時は、症状が強くなる/重くなる。」など、正確に症状の変化を伝えることが重要です。

5 その他 後遺障害認定が否定される場合

(1) 事故直後通院していない場合

事故当日に通院していなかったり、事故後しばらくして通院を開始した際などは、事故直後通院が必要ではなかった、すなわち、症状が軽微であるとして、後遺障害認定が否定される場合があります。
また、事故直後1日のみ通院して、その後しばらく通院しなかった場合も同様です。

もちろん、事故日が休日や祝日で、平日まで通院できなかったなどの事情はよくあることですし、事故当日は緊張状態で症状を自覚していなかったが、翌日から症状を自覚し始め、徐々にひどくなっていったとの症状経過はよくあります。

しかし、それでも後遺障害が残存する程度の症状が生じた場合であれば、事故後3日程度すれば、より明確に症状を自覚すると考えられますので、事故後少しでも症状を感じるのであれば、我慢せず、すぐに通院し、ある程度通院を継続した方が宜しいかと存じます。

(2) 人身事故扱いにしていない場合

警察に事故があったことは届けたが、診断書を提出せず、人身事故扱いにしていない場合であっても、事故により症状が生じていれば、相手方保険会社から治療費等の支払いは受けられます。
ただし、人身事故扱いにしていない場合、「症状が軽いから人身事故にしていないのだろう」と判断され、症状が軽微とみなされ、後遺障害が否定されることがあります。

人身事故扱いにしていない場合、交通事故証明書の最も右下の欄は「人身事故」ではなく「物件事故」と記載され、自賠責への後遺障害認定の申請の際、交通事故証明書のほか「人身事故証明書入手不能理由書」を提出することになりますが、その書面中の理由で、「症状が軽微」であると記載されますと、後遺障害認定が難しくなります。
ですので、人身事故扱いにしていない場合、「人身事故証明書入手不能理由書」を相手方保険会社から入手した場合は、症状が軽微であることが理由とされていないか必ずチェックすることが必要です。

(3) 既往症がある場合

今回の事故前に、もともと頚や腰などに症状があり、通院歴があるような場合、その部位での後遺障害認定が否定される場合があります。

なお、自賠責後遺障害診断書には「既存障害」として「今回以前の精神・身体障害の有無」を記載する欄が設けられていますが、その記載の方法からしますと、いわゆる「精神・身体障害」に当たらない程度の事故前の症状は、記載する必要はないのではと考えられます。

事故以前に症状があり、通院歴があったとしても、事故前には症状が治癒していたのであれば、その旨を説明する書面をつけて後遺障害申請をされれば宜しいかと存じます。

(4) 同一部位で後遺障害認定を受けている場合

自賠法上の後遺障害とは、将来において回復不可能な症状をいいますので、以前の交通事故で、同一部位で後遺障害認定を受けている場合(例えば頚の症状で14級9号)、今回の事故で、同じ部位(頚)を痛め後遺障害が残存したとしても、同じ等級での認定は受けられません。
この場合は、今回の事故の後遺障害が、上位等級に該当する場合(例えば12級13号)のみ、加重障害として再度後遺障害認定を受けられます。

なお、交通事故賠償実務上、後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間が、14級相当の局部の神経症状の場合5年程度、12級相当の場合10年程度に制限されます。
そのため、別の事故で同一部位を受傷し、後遺障害の程度が従前の等級を上回らない程度であったとしても、訴訟を提起して、「以前の後遺障害は症状固定後5年で治癒し、今回の事故で新たに発症した」、前回の労働能力喪失期間中に症状固定を迎えた場合であっても、「今回の事故で、労働能力喪失期間がさらに伸長した」などと主張して、裁判所に新たな後遺障害を認定してもらうということも可能です。

近時の裁判例でも、16年前の事故で頚部痛で14級9号の認定を受けその後軽快したものの、新たな事故で同一部位を受傷し頚部痛等が再発したという事案につき、被害者請求・異議申立て・紛争処理申請のいずれも後遺障害等級非該当とされたものの、「いわゆるむち打ちによる14級の神経症状の残存期間は一般に3~5年程度と考えられており、前回事故による神経症状は数年程度で完全に消失していた」などとして、同一部位の再度の14級9号を認定しました(京都地裁令和3年5月18日判決・自保ジャ2100・91)。

また、平成13年の事故で頚部痛、両前腕しびれ、両手部痺れ等で14級9号(旧10号)、平成21年の事故で頚部受傷後の右手痺れ感で14級9号の認定を受けた被害者が、平成30年の事故で再度、頚部痛、両前腕痺れ、両手痺れの症状を残した事案(自賠責非該当)につき、前回事故から既に8年余りが経過しており、前回事故後半年程度通院したもののそれ以降通院しておらず本件事故時に前回事故の症状を自覚していなかったとして、再度14級9号を認定しました(神戸地裁令和4年5月19日判決・自保ジャ2132.36)。


14級認定を獲得するためには


上記でみた【非該当とされるケース】をすべてクリアしていれば、14級の認定が受けられることになります。
すなわち、次のような状態なら認定が受けられます。

  • 1.事故態様が当該症状を発生する程度であること
  • 2.事故当初から病院への通院を継続していること
  • 3.事故当初からの症状の訴えが、連続・一貫していること
  • 4.症状がそれなりに重篤であり、常時性が認められること

以上4条件のすべてを満たせば、14級の認定が受けられることになります。
また、症状固定後も自費で通院を継続していることも認定を受けるために有利な事情として考慮されます。
これら4条件に加えて、
5.症状に整合する他覚的所見
が存在すれば、14級の認定がさらに受けやすくなります。


他覚的所見とは主に以下のものをいいます。

他覚的所見とは何か

14級の認定を獲得しやすくするための「他覚的所見」とは、次の2つです。

  • 1.画像所見
  • 2.神経学的検査結果

近時、14級9号の後遺障害においても画像所見は重視されています。(R2.10.28)

自賠責保険に対し異議申立を行っても十分な後遺障害等級が認められない場合、自賠責保険紛争処理機構に対する紛争処理申請を行い、後遺障害等級の認定を受けることがあります。
その紛争処理申請でも、むち打ち損傷後の局部の神経症状につき、近時、紛争処理機構は以下のとおりの理由を挙げて、症状の原因となる画像所見がないことをもって後遺障害非該当であると判断しています。

「ところで、通常、自動車事故による頸部挫傷等に伴う神経系統の症状は、受傷当初が最も重篤で、時間の経過により徐々に軽快することが一般的であり、症状の軽快を阻害する医学的要因が認められない限り、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難く、・・・後遺障害には該当しないものと判断する。
 まず、当委員会において、画像を確認したところ、外傷性の異常所見や脊髄(馬尾神経)・神経根への圧迫所見は認められなかった。
 次に、神経学的所見についてみると、・・・被害者が訴える上記症状を裏付ける神経学的異常所見は認められなかった。
 一方、被害者の症状経過等についてみてみると、初診時から終診時までの推移は「軽快」とされているところ、上記ののとおり症状の軽快を阻害する医学的要因は認められないことから、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難く」

以上のとおり、神経症状の14級9号の認定場面では「症状の軽快を阻害する医学的要因」、これは多くの場合、MRI画像で脊髄・馬尾神経もしくは神経根の圧迫所見になりますが、これらの画像所見が認められない場合、14級9号の神経症状でさえ否定されることが明らかとなってきています。

したがいまして、頚・腰椎の捻挫・打撲等のむち打ち損傷であっても、早期の頚・腰椎部のMRI画像を撮影することはとても大切です。

以下で詳しくご説明します。


1.画像所見とは何か


レントゲン・MRI画像等で、症状の原因となっている病変が捉えられていることです。

頚部由来の症状であれば、頭頚部・肩部・背部・上肢等に、腰部由来の症状であれば、腰臀部、下肢等に痛みや痺れ、感覚麻痺等の症状が生じることがあります。
これは、各背骨(椎体)間のクッションである椎間板が後方に膨隆・突出したり(椎間板ヘルニア)、背骨(椎体)が変形・骨棘が形成されるなどして、脊髄又は神経を圧迫・干渉することがその主な原因となっています。

ところで、脊髄の各部分(髄節)及び各神経は、身体の特定の場所につながっています。そのため、痛みや痺れなどの症状が生じている部位に対応する脊髄又は神経を圧迫・干渉する病変が、レントゲンやMRI画像で捉えられていれば、症状の原因となっている病変が、画像上捉えらているとして有意な画像所見ありと認められることになります。
ただし、椎間板や椎体の変性は、加齢によって生じることがほとんどで、身体への侵襲度が高くない限り、交通事故によって画像上捉えられるほどの椎間板や椎体の変性が生じることはさほどありえないと言われています。
しかし、交通事故によって当該病変が生じたとは必ずしもいえなくても、もともと生じていた病変部に、交通事故による身体への衝撃が加わり、当該症状が発症したといえれば、14級は認定されます。

画像所見の詳細につきましては、12級13号認定・画像所見の実例ページもご覧ください。

症状の原因となる加齢性変化について

一般的に成人を迎え、もしくは成長期に激しい運動経験がある方では10代のうちから、脊柱の経年性変化が生じるといわれています。
その代表的なものが、椎間板ヘルニアや椎体上下縁の骨棘形成、黄色靭帯の肥厚による脊柱管狭窄症、脊髄・神経根症等が挙げられ、時には椎体分離・すべり症、後縦靭帯骨化症(OPLL)等もみられ、これらは脊椎や上下肢の痛みやしびれ等の神経症状の原因とされています。
これらの脊柱の加齢性変化はMRI画像で捉えることができます。

変性が事故によって生じたか

交通事故の被害者の方々がよく誤解されるのが、交通事故後MRIを撮影したところ、これらの加齢性変化が見つかり、『事故前は症状がなかったのだから、変性は事故によって生じたものだ』とか、『医師が事故とは関係ないといわれて困っている』という点です。
確かに、脊椎の衝撃が強度な場合やもともと変性が生じ弱くなっていたところに事故による衝撃が加わって変性が生じた(悪化した)という外傷性のヘルニアは起こりえます(外傷性ヘルニアの見極め方については、下で詳しく説明します)。

しかし、上記の加齢性変化はいわば「茹でガエル」のように、長年ゆっくり時間をかけて変性していき、徐々に神経等を圧迫していくので、変性が生じていたとしても症状を自覚していないケースが多く見られます(「無症候性の加齢性変化」)。
そのような状態で、事故による衝撃が加わり圧迫されていた神経を刺激状態にすることで、症状を発症させこれを難治化させていると考えられます(このような考えを「トリガー説」といったりします)。
ただ、この場合であっても、事故と症状との相当因果関係は問題なく認められ(既往症減額の問題は別に生じますが)、こういった加齢性変化があれば後遺障害第14級9号の認定可能性は高まります。

外傷性変化と経年性変化の発症機序をモデル化すると以下のとおりです。

外傷性変化 ①事故⇒②変性⇒③症状
経年性変化 ①変性⇒②事故⇒③症状


症状を生じさせる加齢性変化の例~椎体軟骨終板部の浮腫性変化・Modic変性

右の画像は50代男性の頚椎MRI(T2W1)画像ですが、矢印部のとおりC5及びC6椎体軟骨終板部前方やC6/7椎間板部を中心に高信号が認められています。
これは骨髄の浮腫性変化(Modic typeⅠ)とみられ、椎体終板や椎間板の破壊を伴うため局所痛の原因となりえます。

対策は「早期のレントゲン・MRI撮影をすること」

他覚的所見である「画像所見」を得るため、なるべく事故直後にレントゲン・MRI画像を撮影してもらいましょう。
また、症状の原因となっている病変の多くは、MRI画像で捉えられますが、精度の低いMRIでは画像が荒く、病変を捉えきれない可能性があるので、なるべく制度の高いMRIでの撮影をお勧めします。なお、日本脊髄脊椎ドック協会では、1.5T以上のMRIでの撮影を推奨しています。


2.神経学的検査結果とは何か


症状を発症させている病変は、画像以外にも各種検査によって捉えることが可能です。
以下、各種検査の一例を挙げます。

関節可動域測定 関節の可動域を調べるテスト
Jackson・Spurling・SLR・テスト 椎間孔を圧迫し、痛みが生じるかをみることで、神経根症を確認するテスト
徒手筋力テスト 各神経が掌っている筋肉の筋力の低下の程度を確認するテスト
知覚テスト 皮膚の触覚・痛覚の程度を確認するテスト
腱反射テスト 各神経の該当箇所を叩き、反射の程度をみることにより、脊髄・神経の異常を確認するテスト

そして、これらテストで症状に一致する陽性反応が出れば、他覚所見ありとされます。 なお、これらテストのうち、患者の意思に左右されにくい、腱反射テストは重視されます。

神経学的検査の詳細については、神経学的異常所見ページをご覧ください。

対策は「充分かつ適正な神経学的検査の施行とその記載」

適切な方法により、充分な神経学的検査を実施していただき、異常所見が得られれば、その結果を必ず後遺障害診断書に記載していただいて下さい。
 ただし、神経学的検査は被検査者のその時の状態や検査者の技術力等により、結果に大きく差が出ることがあり、経時的な検査結果に変動がある場合も多く見られます。その場合、「検査結果に一貫性がない」として、後遺障害が否定される理由とされることがあります。
 そこで、検査結果の経時的な変動が生じることを避けるため、症状固定時のみ神経学的検査を施行していただくか、最終の検査結果のみ後遺障害診断書に記載していただくなどの工夫が必要です。


12級を獲得するためには


上記の要件をクリアしていても、むち打ち損傷・腰部捻挫等の診断名では、ほとんど14級にとどまることが実情です。
その中でも、症状が重篤な場合、まれに12級の認定を受けられることがありますので、以下、12級の認定を受けるためのポイントを説明します。

1.画像上、神経圧排所見が明確に捉えられること

症状の原因となる病変(多くはヘルニア等による脊髄もしくは神経根の圧排所見)がMRI画像で明確に捉えられていることが必要です。

2.症状に一致する主要な他覚的所見が複数存在し、これらが相互に一致すること

症状の原因となる病変が画像上捉えられており、主要な神経学的検査結果が陽性であり、これらが相互に一致することが必要です。
相互に一致する神経学的検査結果や検査の詳細な内容については、神経学的異常所見のページをご覧ください。

3.病変が外傷性であること

まず、誤解が極めて多いところですが、12級13号の具体的な認定要件が「本件事故に起因する外傷性の変化や症状と整合する脊髄・神経根への明らかな圧迫所見が認められること」とされているとおり、「脊髄・神経根への明らかな圧迫所見」については「外傷性」であることが要件とされていませんので、脊髄等への圧迫所見が加齢性変化であったとしても12級13号の認定を受けられる可能性はあります。

そして、先に述べたとおり、頚部・腰部の由来の症状は、加齢による変性を原因としていることが多く、交通事故により直接に症状の原因となる病変が生じたとは言い難いことが多いのですが、事故の態様が強度で腰部や頚部に対する侵襲度が高い場合、事故によって病変が生じる場合があります。
この場合は、12級が認定される可能性は高くなります。

なお、病変が外傷性であるかは、MRI画像上捉えられる水分量や周辺組織に病変が生じているか、他部位の変性の程度との比較などで、捉えることが可能である場合もあります(いわゆる「新鮮なヘルニア」です)。
ただし、外傷性の病変かが明らかでなくても、病変の程度により12級が認定されることもありますのでご注意ください。
すなわち、外傷性の病変であることは12級認定の可能性が高まりますが、必ずしも外傷性か明らかでなくても、病変の程度が重篤であり、残存した症状が、明らかに画像上捉えられている病変を原因としているといえる場合は、12級の認定を受けられる場合がございます。

実際に12級13号の認定を受けた画像につきましては、12級13号認定・画像所見ページをご覧ください。

外傷性ヘルニアといえるポイント

当事務所では、MRI画像上捉えられた椎間板ヘルニアが本件事故で生じたといえるか、すなわち、外傷性であるかについては、下記により鑑別できのではと考えています。

①突出・脱出部の髄核に水分が保たれているか(T2強調画像で高輝度変化を示しているか)
②突出・脱出部が極限的か
③突出・脱出部の上下椎体に骨棘等の変性が生じていないか
④周辺部に骨挫傷や腫脹・靭帯損傷が生じていないか


なお、頚部椎間板ヘルニアではルシュカ関節が椎間板にかかる軸圧を減少させると考えられるため、外傷性のヘルニアが生じるためには、事故による衝撃で変性部に相当な軸圧がかかることが必要と思われます。

外傷性ヘルニアに関する医学論文と近時の判例

1 外傷性ヘルニアに関する医学論文(整形外科と災害外科2011・60)

医療法人安寿会田中病院整形外科田中寿人医師らのグループが平成23年に発表した「外傷性頚部椎間板ヘルニアのMRI画像による検討」(西日本整形・災害外科学会発行「整形外科と災害外科」60:(3)424~428,2011)では、平成20年に同頚部椎間板ヘルニアでMRI検査をした35例(外傷歴のある外傷群19例、外傷歴のない非外傷群16例)を分析し、外傷群では以下の特徴がみられるとしました。
①椎間板ヘルニアがT2高輝度を示し(変性のないヘルニア)、中には、椎間板内部とヘルニアが連続して高輝度を示す症例もあった
②外力の程度によっては咽頭下軟部組織の腫脹を認め、屈曲損傷型は棘間靭帯部に出血を認めた
上記所見は外傷の関与を強く疑わせる所見と考えられたとしたうえで、「外傷性椎間板ヘルニアといっても明確に区別することは困難であり、外傷と変性の程度により傷害が規定される。外傷性変化の要因が強いものに骨挫傷、棘間靭帯損傷と咽頭下軟部組織腫脹、屈曲位発症、T2高輝度変化があるのであろう」と結論付けました。

2 外傷性頚椎椎間板ヘルニアを認めた判例(さいたま地裁平成29年10月6日判決)

自動車同士の右直事故で直進車両運転者である原告に生じた第5・第6頚椎椎間板ヘルニアが、事故により生じた外傷性のものか、経年性のものか争いになった、さいたま地裁平成29年10月6日判決(自保ジャ2013.105)では、下記のとおり判示して、原告の頚椎ヘルニアが外傷性のものと認めました。

まず、一般論として下記の規範を定立しました。
①椎間板に外力が加わった場合、外傷性のヘルニアを生じ得ること
②外傷性のヘルニアでは、椎間板の限局的な突出が認められることが多く、他方、経年性のヘルニアでは、左右対称で広い範囲の膨隆がみられることが多いこと
③ヘルニアで断裂した椎間板から漏出した髄核の水分は、数カ月ほどで変性して水分がなくなること
④これらの診断には、MRI検査が最も有効なこと

そのうえで、原告について、「本件事故からほどなくして撮影されたMRI画像によって、第5・6頸椎の正中から右寄りに著明な突出型のヘルニアがみられたというのであって、これは、上記に述べた外傷性ヘルニアの特徴と一致し、また、当該ヘルニアは高輝度(白色)で水分に富んでいたというのであるから、本件事故によって生じたものと考えても、何ら不自然な点はない。」


12級を獲得するための具体的な対策3つ


対策1「事故後なるべく早期のレントゲン・MRI撮影をする」

新鮮なヘルニアは、事故直後のMRI画像で捉えることが可能です。
出来る限り早期に精度の高いMRIの撮影をしていただきましょう。

対策2「後遺障害診断書への有意な画像所見及び神経学的検査結果の記載」

後遺障害診断書に、有意な画像所見や神経学的検査結果を記載していただきましょう。
主治医の先生に、上で説明しました「外傷性ヘルニアのポイント」を挙げて、この観点から「ヘルニアが今回の事故で生じたか」を確認して、その可能性があると仰れば、その根拠とともに、その旨を後遺障害診断書に記載していただいてください。

対策3「慎重な神経学的検査の実施をする」

神経学的検査結果については、症状固定時の結果だけではなく、事故当初からの一貫した経過を求められます。
つまり、症状固定までに複数回検査が実施されている場合、一貫して異常が認められることが必要となります。
しかし、神経学的検査で特に重視される腱反射・病的反射テストなどを正確に実施いただくためには十分な技能が必要となるところ、
検査の実施に不慣れな医師や理学療法士もおられますし、不十分な検査で問題なしとされたり、
酷い時は検査を実施することなく問題なしとされることもあるようです。
そこで、神経学的検査、特に技術を要する腱反射テストや病的反射テスト等を施行いただく際には、
複数回施行してもらい、本当に異常がないか確認する、経過に矛盾が生じることを避けるため、症状固定時のみ実施していただくなどの対策が必要
です。

むち打ちで9級10号の認定を受けられる場合もある

最近取り扱った事案で、追突による腰部捻挫の事案で、自賠責により、後遺障害等級9級10号の認定を受けた事案がありましたので、紹介します。
 60代男性が追突により、腰部に衝撃を受け、腰痛、両足踵のしびれ、筋力低下、歩行困難、尿漏れ等の膀胱・直腸障害の各症状を生じました。
 画像所見は、MRI画像上、L4/5・L5/S1に脊髄(馬尾)神経の高度の狭窄及び馬尾神経の圧排が認められ、
 神経学的検査結果は、両下肢の腱反射や筋力の低下が認められました。
 
 損保料率機構は、「前記症状については本件事故を契機に憎悪した脊髄(馬尾)症状」であるとし、「神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」として、9級10号を認定しました。
 
ただし、この方は、事故前に腰痛の持病を持っておられたので、既存障害として12級13号が認定されてしまいましたので、9級と12級の差額が自賠責から支払われました。

 このように、むち打ちであっても、広汎で重篤な神経症状が生じ、これに一致する神経圧排所見が画像上得られ、主要な神経学的検査結果が陽性の場合、9級10号の認定が受けられる場合もあります。  


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