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骨折後の後遺障害の対象は、骨の短縮・変形・偽関節化、人工関節置換術の施行等で、その内容は明らかであり、また、レントゲンやCTで癒合の状況などを経時的にとらえていくことがほとんどなので、短縮・変形障害等の骨折自体に伴う後遺障害の認定に際しては、問題になることはさほど多くはありません。

しかし、骨折後癒合が十分得られたにもかかわらず、骨折部周辺の関節可動域の制限が生じたり、痛みや痺れが残存した場合、可動域制限・痛みや痺れによる後遺障害の認定を受けるためには困難が生じます。
なお、関節可動域制限での後遺障害認定の基礎知識についてはこちらをご覧ください。

例えば、骨折部周辺の関節の可動域に制限が生じたとしても、骨折の程度がさほど重篤ではなかったり、骨の癒合が十分得られ、骨の構造上、関節可動域に影響がない場合は、拘縮つまりリハビリ不全として後遺障害とみなされないことが多々あります。

ところが、実際には、単なるリハビリ不全ではなく、骨折部周辺筋腱類などの軟部組織や神経が骨折に伴い損傷されたことで、関節可動域に制限が生じたり、痛みや痺れを生じていることもあります。

そこで、交通事故により骨折した場合、骨の癒合が完全に生じ、骨の変形等による直接の後遺障害の認定は受けられなくても、関節可動域の制限や痛み・疼痛などの神経症状等で12級以上の後遺障害等級の認定を受けられるか検討することが必須です。


脊椎圧迫骨折


圧迫骨折と等級認定基準

脊椎を構成する椎体に軸圧がかかり圧迫されて損傷が生じた椎体骨折をいいます。
脊椎の急激な屈曲力により椎体前方(anterior column・前柱)のみが損傷され、楔型状を呈した椎体骨折を、破裂骨折と区別し特に圧迫骨折という場合もあります。
圧迫骨折は、自動車同士の追突で脊椎に強度の衝撃を受け、急激に屈曲位(前屈位)が強制された場合にも生じる可能性がありますし、骨強度が低下した高齢者の場合、事故による軽微な衝撃でも生じることがあります。
交通事故では下位胸椎や腰椎によく見られます。

圧迫骨折等の椎体骨折については、後弯と側弯の程度に応じて、自賠法の後遺障害等級実務上「脊柱の変形障害」として、下記の等級が定められていますが、圧迫骨折が生じレントゲン等で確認できる場合、それだけで11級7号の認定が受けられます。

6級5号「脊柱に著しい変形を残すもの」 
① 2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し後弯が生じた場合、すなわち、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個あたりの高さ以上のもの
② 圧迫骨折により前方椎体高が減少し後弯が生じた場合、すなわち、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であり、かつ、コブ法による側弯度が50度以上となっているもの

8級相当「脊柱に中程度の変形を残すもの
① 圧迫骨折により前方椎体高が減少し、後弯が生じた場合、すなわち、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であるもの
② コブ法による側弯度が50度以上であるもの
③ 環椎(第1頸椎)または軸椎(第2頸椎)の変形・固定により、次のいずれかに該当するもの
 ア 60度以上の回旋位となっているもの
 イ 50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位となっているもの
 ウ 側屈位となっており、エックス線写真等により、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸  椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの

11級7号「脊柱に変形を残すもの」
① 圧迫骨折が生じ、そのことがエックス線写真等で確認できる場合
② 脊椎固定術が行われたもの
③ 3個以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの

圧迫骨折は見逃されやすい

よほど重大な事故態様や重篤な症状が生じていない限り、背中や腰が痛むという程度では、当初の病院ではレントゲンしか撮影されないことがほとんどですが、圧迫骨折は、骨折により脆弱化した椎体に軸圧が加わることにより徐々に圧壊が進行することがあり、その場合、当初のレントゲン撮影だけでは、圧壊が進行しておらず見逃されることが良くあります。

また、画像上加齢性の変化が圧迫骨折のように見えることがあるため、椎体の圧壊が単なる加齢性の変性としてとらえられてしまうこともあります。

例えば、下記画像①は胸椎に明らかな圧壊が生じている場合で、②は単なる加齢性の変性とされた場合です。
なお、画像①の方は、自賠責保険による異議申立てで8級相当が認定され、②の方は異議申立てを行っても非該当とされ、訴訟でも鑑定まで行いましたが、圧迫骨折は否定されました。
また、画像③は他の椎体と比して椎体高が減少しているため圧迫骨折のようにみえますが、同じ画像の冠状断画像をみると、椎間板が椎体内に侵入するシュモール(Schmorl)結節部を捉えていることがわかります。


圧迫骨折の判断基準

上記画像①のとおり、明らかに椎体の圧壊が生じており、骨皮質の連続性が絶たれているような場合(事故以前から生じていた陳旧性の圧迫骨折の場合、骨皮質の連続性は保たれています。)は上記のとおり問題なく圧迫骨折は認められます。

しかし、骨内部を損傷し徐々に圧壊が進行していく圧迫骨折の場合、経時的な画像撮影により、事故直後の椎体と比して明らかに椎体の変化(楔状・魚状・扁平化)を捉えていくことが重要となります。

例えば、下記画像の第3腰椎は、事故当日に撮影されたXp上(画像④)、前縁椎体高34.91㎜、中央椎体高27.08㎜だったのが、事故3か月後には(画像⑥)前縁椎体高30.29㎜、中央椎体高25.67㎜まで減少しています。
なお、この方は自賠責の1度目の認定で11級7号の認定を受けています。

したがって、当初レントゲンを撮影して「骨に問題はない」と言われたとしても、背中や腰などの脊椎部周辺の痛みが継続するようでしたら、少なくとも再度レントゲンを撮影して、痛みが生じている部分の椎体に変化が生じていないか確認していただくことが肝要です。
なお、経時的な圧壊型の圧迫骨折は、概ね3乃至6か月間圧壊が進行するとされています。

また、レントゲンでは、骨内部を損傷する骨挫傷像を捉えきれませんので、早期にMRIを撮影して、椎体の圧壊の原因となる骨挫傷が生じていないか確認することが必要になります。
下記画像③では、MRI画像上、第3腰椎椎体上方に輝度変化が生じており、圧迫骨折が進行する骨挫傷が生じていたことがわかります。

なお、日本骨形態計測学会外6学会による椎体骨折評価委員会が作成した「椎体骨折評価基準」が平成24年(2012年)に改訂されました。
改訂版では、①従前の前縁・中央・後縁椎体高を測定するQM法の他、椎体高の低下と椎体面積の減少の程度により判断するSQ法により椎体骨折を評価する方法を追加した他、②Xp画像ではX線の入射方向により椎体終板ラインが変化するので、椎体高の計測には十分な注意が必要なこと、③MRI矢状断T1強調画像で、椎体に限局する一部の帯状もしくは椎体全部の低信号を呈する場合椎体骨折と評価する点が追記されました。
交通事故賠償実務でも、今後はこの基準にしたがい、圧迫骨折を評価していくことが求められます。


圧迫骨折による逸失利益が認められるためには

上記のとおり、圧迫骨折が生じた場合、後遺障害等級自体は認められ、後遺障害慰謝料は認められます。
しかし、後遺障害逸失利益については、痛みや可動域制限等が生じた場合とは異なり、圧迫骨折があるからといってそれだけで直ちに労働能力が喪失したとは認められず、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率(6級-67%、8級-45%、11級-20%)が減じられたりするケースがみられます。

圧壊の程度がさほど大きくない圧迫骨折の場合、直ちに脊柱の支持性や安定性を損なわず、現時点で労働に支障が出る程度の症状を呈しないこともあり、遅発性・進行性の脊柱変形により、将来的にこれらの機能を喪失し円背の進行や腰痛・疲労感の原因となるなど症状が悪化する可能性があります。
ところが、賠償の場面では現在の状態をもって判断されるので、これら不確定な将来の労働能力低下の可能性は評価の対象にはなりにくく、現時点で労働能力の喪失を生じるような症状を呈していないとして逸失利益が減額されてしまいます。

近時の裁判例では、8級相当の圧迫骨折が認められたにもかかわらず、「原告の自覚症状は、腰のつっぱり感というものであり、原告は、30分以上歩くのがつらく、ハイキング等ができなくなったり、下を向くのがつらく、風呂掃除に支障があったりすると供述するものの、逸失利益を発生させるほど労働能力を喪失させるものとは認められない。」と認定し、家事労働についての逸失利益が否定されたケースもあります(大阪地裁令和元年11月20日判決(確定)・自保ジャ2064号33頁)。

8級以上の圧迫骨折の場合、これまで労働能力喪失率が否定されることはほとんどなかったので、上記判決は被害者側にとっては極めて厳しい内容です(裁判所の認定事実を基にすれば、逸失利益を否定されても仕方がないとは思いますが・・・)。
後遺障害逸失利益は賠償額の中では多額になることが一般的ですので、これが否定もしくは減算されてしまうと賠償額は大きく減額されてしまいます。

圧迫骨折での逸失利益の算定の場面では、圧迫骨折自体の有無や程度ではなく、これに伴う痛みや関節可動域制限の発生・程度などの随伴症状が極めて重要になりますので、これらの症状を合併している場合、都度医師に訴え、併せて具体的かつ現実的な労働に対する支障を訴えていくことが極めて重要です。

圧迫骨折11級7号の近時の裁判例における逸失利益


上記の計算書のとおり相手方任意保険会社は、11級7号脊柱の圧迫骨折の場合未だに後遺障害逸失利益を全額否定してきます。

しかし、以下に示しましたとおり、平成26年以降の近時の裁判例22件をみると、わずかに1件後遺障害逸失利益を否定した判決があるものの(静岡地裁H27.9.25)11級7号の脊柱の圧迫骨折でもほぼすべてのケースで後遺障害逸失利益を認めており、ほとんどが逓減法も含めて14%以上の労働能力喪失率を認めています。
なお、後遺障害逸失利益を否定した上記静岡地裁H27.9.25判決(自保ジャ1961号109頁)は、会社代表者の収入を全額後遺障害により影響を受けない配当収入と認定し逸失利益を否定したものであって、圧迫骨折であるから労働能力に支障がない、と認定したものではないことに注意が必要です。

特にH28以降の過去5年間に限ると、京都地裁H29.10.31判決で労働能力喪失率10%とした判決がみられますが、全ての判決で14%以上の労働能力喪失率が認められていますので、今後は、特段の事情がない限り、「脊柱の圧迫骨折であるから逸失利益は認められない。」との主張はいささか乱暴なものであると考えられます。

労働能力喪失率20%を認めた判例:12件
神戸地裁H31.1.16、さいたま地裁H30.10.24、水戸地裁H29.3.14、名古屋地裁H28.3.18、神戸地裁H28.6.22、横浜地裁H27.4.13、東京地裁H27.3.19、東京地裁H26.4.23、名古屋地裁H26.4.22、京都地裁H26.3.7、東京地裁H26.1.29、横浜地裁H26.1.20

労働能力喪失率につき14%を認めた判例:3件
福岡地裁H29.10.17、大阪地裁H29.1.31、大阪地裁H27.3.3

労働能力喪失率につき逓減法を採用したもの:3件
さいたま地裁H30.2.23(当初5年・20%、残り13年・14%)、金沢地裁H28.7.20(当初10年・14%、残り10年・5%)
東京地裁H27.12.22(当初10年・14%、残り5年・5%)

労働能力喪失率につき10%以下を認めた判例:3件
京都地裁H29.10.31(10%)、京都地裁H27.3.19(9%)、大阪地裁H26.11.25(5%)


CRPS


骨折後に灼熱痛や知覚過敏、皮膚温差、浮腫・発汗変化などが生じ、これらが持続するようであれば、CRPS(複合性局所疼痛症候群)を発症している可能性もあるので、このような症状がでれば、すぐに主治医に症状を訴え、然るべき処置を行ってもらってください。

対策


1 レントゲンだけでなくCTやMRI画像の撮影


関節可動域の制限や神経症状が生じやすい関節内骨折や関節に近位の骨折の場合は、骨折部周囲の軟部組織への損傷の可能性を確認したり、関節内の微小骨片の存在を見落とさないために、レントゲンだけではなくCTなどを事故直後に撮影することが必要です。また、肩付近を骨折した場合であれば腱板や関節唇、膝付近を骨折した場合であれば半月板や靭帯、手足関節付近を骨折した場合であれば靭帯等など、関節の可動のために必須な軟部組織が損傷していないかを確認するため、事故直後にMRI画像を撮影してもらいましょう。
骨折自体が軽微な場合、近位関節のMRIまでは撮影されずに、これらの軟部組織の損傷は見逃されることがありますので、注意が必要です。


2 神経伝導速度検査・筋電図検査の施行


骨折部周辺もしくは遠位に痛みや痺れ等の神経症状が生じている場合、骨折に伴い神経が損傷されていることがあります。そこで、神経損傷の有無を調べるため、神経伝導速度検査や筋電図検査を施行していただきましょう。 これらの検査は、基本的に「治療する」ための検査ではありませんので、医師から積極的に勧められることはありません。そのため、患者側から主治医に対し、事情を説明して検査をお願いしてください。ただし、一般の病院ではこれらの検査を行う施設や専門家がいないことがほとんどですので、紹介状をもって大学病院などで検査を受けることが一般です。
筋電図検査・神経伝導速度検査の詳細につきましては、こちらのページをご覧ください。


3 症状の原因の後遺障害診断書への記載


関節可動域の制限や痛み・痺れ等の原因が、骨折に由来する場合、その旨を後遺障害診断書に記載してもらうことが必要です。例えば、症状内容や骨折の部位・程度などから、ある神経の損傷が疑われる場合、その旨をなるべく具体的に後遺障害診断書に記載してもらいます。


4 脊柱圧迫骨折の場合の労働能力の喪失


脊柱の圧迫骨折の場合、労働能力喪失率を争われることが多いので、事故後、労働能力をどれだけ喪失したか、例えば、「事故前は○○の業務が可能であったが事故後できなくなった。」などの事情を、事故直後からできるだけ具体的に記録化しておくことが大切です。


CRPSの検査


CRPS様の症状を生じている場合は、症状をカルテ等に記載してもらったえうえで、発汗テスト、サーモグラフィー、骨シンチグラムなどの検査をしてもらい、確定診断を得ることが必要です。


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