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令和2年7月9日、最高裁第1小法廷において、将来介護費用のみならず、後遺障害逸失利益について定期金賠償方式によることが認められました。
比較的定期金賠償が認められやすかった将来介護費用に比して、後遺障害逸失利益の定期金賠償に関しては下級審判決でほとんど否定されてきましたが、今回の最高裁判決によって、重篤な後遺障害が生じた場合の逸失利益についても、定期金賠償が認められる余地が飛躍的に高まり、被害者側にとって賠償額が著しく増額される可能性がある極めて重要な最高裁判決となります。
以下、本最高裁判決の内容や一時金賠償との損害額の違い、定期金賠償によることのメリットとデメリット等について説明いたします。


最高裁判所平成30年(受)第1856号損害賠償請求事件令和2年7月9日判決(全文は裁判所HP参照)の内容


事案は、道路横断中の事故当時4歳の子(被上告人・症状固定時10歳)が道路を横断中に大型貨物自動車に衝突され、脳挫傷及びびまん性軸索損傷の傷害を負い、自賠法上の後遺障害等級別表第2第3級3号に該当する高次脳機能障害の後遺障害を残したとのもので、本最高裁第一小法廷判決は、一時金賠償によるべきとの加害者及び保険会社側(上告人)らの主張を排斥した第一審(札幌地裁平成29年6月23日判決・自保ジャ2003号)及び控訴審判決(札幌高裁平成30年6月29日判決・自保ジャ2028号)を維持しました。

この判決により、被害者は後遺障害逸失利益として、100%の労働能力を喪失したことを前提として、月額35万3120円を労働開始年である18歳から労働可能年限とされる67歳までの49年間受け取れることになりました。
なお、月額収入の算定根拠は、症状固定年である平成24年の賃金センサス男性学歴計全年齢平均額529万6800円を月割りした額に、被害者の過失相殺率20%を減じた額になります。

また、本判決のその他の画期的な点は、仮に被害者が67歳に至るまでに死亡したとしても、その後は判決の変更申立てによる一時金賠償に変更される可能性があることを留保したうえで(小池裕裁判官の補足意見参照)死亡の事実は考慮しないとした点と、被害者の定期金賠償の求めがない限り、裁判所は定期金賠償を認定できないとされた点です。


本件での定期金賠償と一時金賠償との受領金額の差額は1億4000万円以上です


本事案で定期金賠償と一時金賠償では被害者が受け取れる金額は、以下の計算式のとおり定期金賠償の方が1億4251万7290円も高くなります(一時金賠償の遅延損害金は考慮していません)。

【定期金賠償】
毎月35万3120円を18歳から67歳までの49年間受け取れるのですから、以下の計算式のとおり2億0763万4560円となります。
¥353,120×12×49=¥207,634,560

【一時金賠償】
これまでのほぼすべての判例のとおり、後遺障害逸失利益を一時金賠償で算定した場合、以下の計算式により6511万7270円となります。
・基礎収入:¥5,296,800
・労働能力喪失率:100%
・労働能力喪失期間:49年(18歳~67歳)
 症状固定時10歳 
 中間利息控除・ライプニッツ係数(中間利息5%):12.2973=18.7605-6.4632(57年(67歳~10歳):18.7605、8年(18歳~10歳):6.4632)
・計算式:¥5,296,800×100%×12.2937=¥65,117,270


なぜ定期金賠償と一時金賠償ではこのように受領額に大きな差が生じるのでしょうか。


これは一時金賠償では「中間利息控除」がなされるからです。
中間利息控除とは、本来は将来受け取るべきお金を前払いしてもらう場合に,将来にわたって発生するはずの利息分を差し引くことをいい、令和2年3月31日までに発生した事故では年利5%が中間利息として控除されます(その場合の算定の数値を「ライプニッツ係数」といいます)。
要するに、今一時金として受け取った金額を運用すれば、本来受け取れる時点まで年利5%で運用できるから、その利息分は差し引かれるという考え方です。

この年5%の利息は民法で定められた法定利息として長年不変でしたが、昨今の低金利時代にそぐわないとのことで、平成29年の民法改正で令和2年4月1日からは年3%に減じされ、以降3年ごとに見直しがなされることになりました(民法404条2項、3項)
なお、本事案で中間利息を3%で計算しても1億0663万0904円ですから、定期金賠償とはなお1億円以上の差額が生じます。

法定利息の改正がなされたとしても、現状では一時金を今後49年間年3%で運用していくことはほとんど困難でしょうから、一時金の場合この中間利息として控除される利息が高額過ぎるという点が、一時金賠償によると定期金賠償に比して大きく減額される点になります。

また、被害者が労働始期に達していない児童であることも、一時金の場合大きく減額される要素となります。
つまり、本件の被害者は症状固定時10歳でしたが、実際に就労し始め収入を得るのは18歳からになり、その間の8年間も中間利息は差し引かれます。
そして、ライプニッツ係数(5%)は、例えば当初の0年目から8年目の8年間に対応する係数は6.4632ですが、同じ8年間でも9年目から17年目の8年間の係数の増加数は4.1663となり、最後の41年目から49年目になりますと0.8743しか増加しなくなるとおり、起算日に近いほど大きく、先になればなるほど減少していきます。
そうしますと、本件では、10歳から67歳までの57年間のライプニッツ係数18.7605から就労するまでの直近の8年間分のライプニッツ係数6.4632が差し引かれてしまいますので、当初8年間の期間で57年分の係数の3分の1が差し引かれてしまうことになります。

要するに、一時金賠償では、特にまだ就労していない若年者でさらに大きく減額されてしまいますので、定期金賠償での後遺障害逸失利益が認められたことは、就労前の若年者にとって非常に大きな利点となります。


定期金賠償でのデメリット


一時金賠償では、判決後の事情の変化による賠償額の変更は行われませんが、定期金賠償では、判決後の事情の変化による判決の変更が認められますので、例えば、定期金賠償での後遺障害逸失利益が認められた場合、医学の発展による症状の軽減などにより判決後に被害者が労働能力を回復したなどの事情があれば、民訴法117条1項に基づく支払い義務者からの申立てにより、支払い額が減額される恐れがあります(もちろんその逆も考えられますが、判決後労働能力をさらに喪失したと主張としても、事故との因果関係の問題が生じます)。

また、永続的な支払い能力の問題もあります。
加害者に任意保険が付保されている場合、実際の損害の支払者は損保会社ですが、万が一損保会社が破綻した場合、それ以降の支払いが受けられなくなる恐れがあります(その場合であっても加害者に十分な資力があり、任意に支払ってくれれば問題はありません)。

さらに、本件のように、被害者が就労前の若年者であった場合、就労可能年に達するまで逸失利益が支払われないという問題もあります。


どのような場合に後遺障害逸失利益の定期金賠償が認められるのでしょうか


本最高裁第一小法廷判決は「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときに、同逸失利益は、定期金賠償の対象となるものと解される」としています。
そして、本判決がいう「上記目的及び理念」とは、不法行為に基づく損害賠償制度の理念及び目的を指していますが、どのような場合に定期金賠償が認められるかは、本判決に照らせば、「将来、その算定の基礎となった後遺障害の程度、賃金水準その他の事情に著しい変化が生じ、算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きなかい離が生じることもあり得る」場合であると解されます。

すなわち、定期金賠償での後遺障害逸失利益は、被害者が定期金賠償を求めている場合で(被害者が一時金で請求しているにも関わず裁判所が定期金賠償を命じることはできません。)、将来の収入状況が不確定な若年者であり(平成25年赤い本下巻講演録で小河原寧裁判官は、将来介護費用の定期金賠償の場面で「せいぜい20代か30代まで」と具体的年齢に触れています)、将来の収入の変動が、逸失利益の金額に大きくかかわる重度の後遺障害を負った事案の場合に認められるのではないかと考えられます。

さらには、脊柱の圧迫骨折のように、現時点では労働能力の喪失は軽微であるもの、将来円背が生じたり疼痛が生じるなどして重篤な労働能力の喪失が生じる可能性が高いような場合も、定期金賠償に馴染むようにも思えます。

注意すべきは、すべての後遺障害逸失利益の認定の場面で定期金賠償が認められるわけではありません。
また、定期金賠償によれば中間利息が控除されませんので、最終的な受取額は大きくなる可能性はありますが、将来の事情の変更により減額される可能性もあるので、最終的に必ず一時金に比べ増額されるかは不確定ですし、支払い義務者の支払い能力の問題も生じます。

どのような場合に定期金賠償での後遺障害逸失利益が認められるかについては、本最高裁判決の調査官解説や今後の下級審判例の集積が俟たれます。


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