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交通事故賠償実務で大変重要な手続である自賠責保険での後遺障害認定の方法については、事前認定と被害者請求の2通りの方法があることは近時良く知られており、当事務所にご依頼をいただいた件については、すべて被害者請求で行っています(各方法のメリット・デメリットについてはこちら)。

被害者請求では必要な書類をすべて被害者側で準備しなければならず大変手間がかかる一方で、事前認定では医師の先生に記載いただいた後遺障害診断書を相手方任意保険会社に送付(病院から直接相手方任意保険会社に送付される場合もあります。)すれば、相手方任意保険会社が自賠責保険に後遺障害申請をしてくれるので、手続としては大変簡便ではございます。

ただ、事前認定の場合、後遺障害診断書を事前にチェックできないという致命的なデメリットがあります。
後遺障害診断書に不備がある場合、例えば、未記載の症状はなかったものとして扱われ後遺障害認定の対象にはなりませんし、記載された症状固定日以降の治療等の賠償を受けることはできません。
そのため、後遺障害認定の場面のみならず、その後の示談交渉や訴訟で大きな不利益を被ることになりますが、事前認定の場合、相手方任意保険会社は自ら積極的に修正等をお願いすることはまずありません。

当事務所では、後遺障害診断の際に記載いただきたい内容をまとめた書面を医師の先生にお渡しして、そのような不備をできる限り避けるようにしていますが、それでも最初から完璧な後遺障害診断書を記載いただけるケースはさほど多くないのが実情です。
後遺障害診断書に不備があった場合、医師の先生に修正や追記を求めることになりますが、今回、冒頭の画像のとおり医師の先生に実際に作成いただいた後遺障害診断書を参照しながら、どの点に不備があるかを具体的かつ詳細に説明して参ります(各項目の記号は冒頭の後遺障害診断書の画像上の赤色記号に対応しています)。

㋐ 左上「症状固定日」欄

症状固定日は原則としてその日までの治療が認められ、休業損害や傷害慰謝料の算定の基準日になりますので、日にちまで記載いただく必要がありますが、日が記載されていません。
また、大変珍しいケースですが、診断書作成日よりも後の月が記載されています。
症状固定日の多くの不備は、治療費打切り後自費で通院を継続したにもかかわらず、打ち切り日を症状固定日とされるケースが良くみられます。


㋑ 左上「傷病名」欄


傷病名欄は、後で述べる③の「自覚症状」欄等に記載された残存症状に対応する傷病名が付されている必要がございます。
本件では、被害者様は他にも腰椎横突起骨折・骨盤骨折後の腰部及び股関節部痛を自覚していますが、これらの傷病名の記載がございません。
また、被害者様は、左胸鎖関節脱臼後の左肩部の症状や右肘及び右手首の症状を自覚していますが、胸鎖関節脱臼や橈骨頚部骨折について左右が明記されていません。
さらに被害者様は左多発肋骨骨折後の骨折部のしびれ感を自覚し、③の自覚症状欄に症状自体の記載はありますが、これに対応する左肋骨骨折の傷病名の記載がありません。


㋒ 左上「自覚症状」欄


ここの記載が最も重要で、かつ一番不備がみられる個所です。
各部位の痛みやしびれ・感覚麻痺などの残存した神経症状の記載がされていないことが大変多く見られ、個々に記載されていない症状は残存しなかったものとして後遺障害認定の対象となりません。
本件でも、被害者様は、左胸鎖関節脱臼後の左肩痛、右橈尺骨開放骨折後の右肘・右手関節痛、腰椎横突起骨折・骨盤骨折後の腰部及び股関節部痛を自覚していますが、これらの記載が全くありませんので、このままではこれらの部位での神経症状第12級13号もしくは14級9号の認定は受けられません。


㋓ 左中「①他覚所見」欄


本件では、各症状や可動域制限等について、靭帯損傷や癒合不全等の画像上の原因所見を記載いただけるとありがたかったのですが、画像自体は自賠責(損保料率機構)が確認しますし、意見書レベルの話になり多忙な医師の先生にそこまでのご負担を負わせるわけにはいきませんので、この欄はこの程度の記載でやむを得ないかと思います。


㋔ 右上「⑦醜状障害」欄


事故や切開・手術によって生じた身体外表上の傷跡が残存した場合も後遺障害の対象となりますが、その場合この欄の記載は必須です。
ただ、整形外科の先生に後遺障害診断書の作成をお願いする際にはこの欄の記載は見逃されがちです。
本件の被害者様は、他にも眼科底及び下顎骨骨折等顔面等への受傷があり後遺障害第9級16号の対象となる顔面部の醜状痕やその他多数の身体の痕跡がありますので、この欄の記載は必須です。


㋕ 右上「⑨体幹骨の変形」欄


この欄も特に記載をお願いしない限り医師の先生が自ら記載いただけることは少ないのですが、本件の被害者様は左肩鎖関節脱臼後、裸体になっても明らかにわかる左鎖骨の前方偏移がみられます。
体幹骨の変形障害は第12級5号の等級が認められますので、この点について記載いただく必要がございます。


㋖ 右下「関節機能障害」欄


関節可動域に制限が生じた場合後遺障害認定の対象となりますが、この欄に記載される数値により、後遺障害認定を受けられるか、何級に当たるかを破断しますので、大変重要になります(関節可動域の後遺障害認定ついてはこちら)。
そこで、まず記載された数値が概ね合っているかの確認は必須です。
また、特に肩や股関節で不備がみられることが多いのですが、後遺障害認定の判断の対象となる主要運動の他動値がすべて記載されているかも確認が必要です。
本件では、左肩関節の外転運動の可動域制限で第12級6号の認定基準を満たしていると考えられますが、主要運動である内転運動の記載がありませんので、再測定いただき追記をいただく必要がございます。

以上のとおり、ざっとみてもこれだけの不備がございます。
本件は、複数部位を受傷する重傷事故で多数の後遺障害を残したケースで、当初から完全な後遺障害診断書を作成いただけることは大変難しいのですが、もしこのまま後遺障害申請をしてしまうと、多くの後遺障害が等級の判断の対象となりません。

ここまで不備があるケースはそこまで多くはありませんが、自賠責後遺障害診断書には多かれ少なかれ等級認定に影響する不備が多々見られ、その後の賠償交渉や訴訟で取り返しのつかない大きなデメリットが生じますので、十分注意が必要です。


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