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自賠責後遺障害等級認定実務においては、日整会方式の可動域測定法にしたがい、せき柱の可動域は、頚椎部と胸腰椎部に二分して評価されています。
そして、頚椎部の可動域制限の原因は頚椎部の損傷に、胸腰椎部の可動域制限の原因は胸腰椎部の損傷にそれぞれ求められます。
そのため、上位胸椎に損傷が生じその結果として頚椎可動域制限が生じたとしても、従前より胸椎は頚椎運動への関与はないとされていますので、頚椎可動域制限の原因は認められないとして原則として後遺障害非該当となってしまいます。

上位胸椎が損傷した場合、胸椎の可動域は腰椎の可動域と併せて評価され、胸腰椎の可動は主に下位胸椎や腰椎が担っているため、後遺障害認定基準(第8級の2:屈曲/伸展・参考可動域の1/2)を満たすほどの胸腰椎の可動域制限が生じることはさほど多くないのが実感です。
他方、例えば上位胸椎の骨折により固定術が実施され、頚椎可動域が制限されることはしばしばみられますので、本当に胸椎は頚椎運動への可動に関与していないのか疑問を感じておりました。

その折、『頸椎運動に対する上位胸椎の関与 頸椎動態解析による検討』(鷲見 正敏,田中 洋,二宮 裕樹,信原 克哉.整形・災害外科(0387-4095)55巻11号 Page1315-1321(2012.10))において、健康成人の頚椎の最大屈曲位と最大伸展位の間の動きをX線シネ動画として撮影し動態観測を行った結果、頚椎はそれ自体が独立して動くわけではなく、上位胸椎が小さくとも動くことで頚椎の動きと連動していることを示唆し、頚椎の屈曲伸展運動には上位胸椎も関与している可能性がある旨結論付けています。

また、『背臥位における15mmの頭部並進運動が頸椎・上位胸椎動態に及ぼす影響』(山崎 博喜, 毛利 祥大.理学療法科学(1341-1667)32巻3号 Page365-369(2017.06))において、MRIにより若年女性の頭部並進運動前後の第3頸椎から第5胸椎の各椎体の回転角度、並進運動距離を動態観察したところ、頭部並進運動によって頚椎から第5胸椎まで連動して動きがみられたとして、頭部並進運動においては頸椎のみならず胸椎まで考慮する必要性があると結論付けています。

以上のとおり、現在の画像を用いた動態観察により、上位胸椎も頚椎運動に関与していることが示唆されていますので、自賠責後遺障害認定実務においても、頚椎の可動域制限(少なくとも屈曲・伸展運動)の原因を、頚椎損傷のみに求めるのではなく、上位胸椎損傷の可能性も考慮すべき時期が来ているのではないかと考えています。


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