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診療記録の重要性


交通事故賠償実務では、自賠責保険による後遺障害等級認定・示談交渉・訴訟のいずれの場面においても、被害者の方が事故当初からどのような症状を訴え、これに対し医師がどのような治療を行ってきたのかは、「症状の一貫・連続性の有無」として非常に大きな問題となります。
これを証明するための資料としてカルテ(診療録)等の診療記録の記載がとても重要になることは言うまでもありません。

交通事故被害者側代理人弁護士としても、自賠責保険による後遺障害等級認定が適切か、訴訟で請求額がどの程度認められるかなど、事件解決の見通しを立てるため、診療記録の事前の検討は大変重要です。


診療記録の開示手続


ほとんどの病院では、診療記録を開示して欲しいと申し出れば、身分証明書の提示、申出書の作成等の簡単な手続きと手数料や複写費用を支払えばこれに応じてくれるところがほとんどです。
診療録の開示手数料は1000~3000円程度(手数料不要の病院もあります。)、複写費用は10~30円程度が一般的であろうように感じますが、なかには高額な費用を請求する病院もございますので、必ず事前に病院に確認してください。
しかし、個人病院を中心として診療録の開示手続きに応じない病院もあり、当事務所でも、名古屋市天白区のある個人病院で、患者様本人からの診療記録開示請求に対し、「法的な手続きを取らない限り開示しない。」と回答し、これを拒否した事案がありました。
岐阜県内のある市民病院においてでさえも、患者さん本人の画像開示請求に対し、「弁護士を通してでないと開示しない。」として、拒否した事例もありました(平成29年7月)。
そこで、この病院の対応の法的な問題点を以下述べていきます。


診療記録開示の指針・根拠法令


診療情報の提供等に関する指針・平成15年9月12日(平成22年9月12日改正)厚生労働省医政局医事課
診療情報の提供に関する指針(第2版)・平成14年10月日本医師会


指針の内容


平成15年9月12日(平成22年9月12日改正)厚生労働省医政局医事課が発令した「診療情報の提供等に関する指針」では、7条1項で診療情報の開示に関する原則を以下のとおり規定しています。
 医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。

そして、医療従事者等が開示を拒否できる場合として、8条に以下の理由が具体例を付して挙げられています。
①診療情報の提供が、第三者の利益を害するおそれがあるとき
②診療情報の提供が、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき

また、7条3項では、申立ての理由を尋ねることは不適切である、とし、7条4項では、その費用は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内の額としなければならない(平成22年9月12日改正)とされています。

そして、日本医師会でもこれに対応して、平成14年10月「診療情報の提供に関する指針(第2版)」を定め、「日本医師会のすべての会員は、この目的を達成するために、この指針の趣旨に沿って患者に診療情報を提供する」とし、3条の3で「医師および医療施設の管理者は、患者が自己の診療録、その他の診療記録等の閲覧、謄写を求めた場合には、原則としてこれに応じるものとする。」と定めています。
なお、開示拒否理由として、厚労省指針の上記理由の他、日本医師会指針では、「診療情報の提供、診療記録等の開示を不適当とする相当な事由が存するとき」(3条の8)が付加されています。

指針に反する場合の争い方

この病院では、患者本人の診療記録の開示請求に対し、「法的な手続きをとらなければ診療記録の開示に応じない。」とこれを拒否し、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれも全くありませんので、この病院の対応は、明らかに上記厚労省指針に反しています。
そこで、このような病院に対する争い方として、下記の方法が考えられます。

1 病院に厚労省指針・日本医師会指針の内容を伝え、文書などにより改めて診療記録の開示を求め、開示を拒否するなら、その理由を書面により回答することを求めること

 厚労省指針の拒否事由に該当しない限り、この方法で、ほとんどの病院が開示に応じるはずです。
2 それでも開示に応じない場合(1と同時でもいいですが)、各都道府県や一部市町村に設置されている医療安全支援センター(愛知県 http://www.pref.aichi.jp/soshiki/imukokuho/0000024491.html)や、各都道府県医師会の医療安全センター(愛知県医師会 http://wwwinfo.aichi.med.or.jp/kenmin/kujou/index.html)に苦情処理申立てを行うことになります。


個人情報保護法


病院が、取り扱う個人の数の合計が過去6か月で1日でも5000人を超える場合(個人情報の保護に関する法律施行令)、個人情報保護法の「個人情報取扱事業者」として、同法の適用の対象となります。

個人情報保護法では、個人情報取扱事業者たる病院が、患者等からカルテ等の診療記録の開示を求められた場合、除外事由にあたらない限り、書面(施行令6条)により遅滞なくこれを開示しなければならないと定めています(25条1項)。
除外事由は以下のとおりです。
 ①本人・第三者の生命・身体・財産等権利利益を害する場合
 ②業務に適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
 ③他の法令に違反することになる場合

そして、個人情報取扱業者たる病院が、診療情報の開示請求にしたがわない場合は、主務大臣(厚生労働大臣)による是正勧告・命令(34条1項、3項)がなされる場合があり、さらに病院が命令に従わない場合、6月以下の懲役や30万円以下の罰金に処せられる場合もあります(同法74条)


カルテ開示義務と慰謝料請求


患者からの正当な診療記録の開示請求に対し、病院や医師が正当な理由なくこれを拒んだ場合、慰謝料を請求できる場合があります。

そもそも医師は患者に対し、「診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として、特段の支障がない限り、診療経過の説明及びカルテの開示をすべき義務」(東京地裁平成23年1月27日判決)、「民法上の顛末報告義務の一環として診療記録開示義務」(福岡地裁平成23年12月20日判決)を負っているとされています。
そして、両判決では、被告は上記義務に違反したとして、それぞれ30万円、22万円の慰謝料が患者に認められました。


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