被害者側交通事故専門弁護士によるブログ
傷害部分の先行示談について
傷害部分の先行示談とは
交通事故の損害は、症状固定時に確定する傷害部分の損害(治療費・交通費・休業損害・入通院(傷害)慰謝料等)と、後遺障害が残存した場合に認められる後遺障害部分の損害(後遺障害逸失利益・後遺障害慰謝料等)の二つに大きく分けられます。
そして、交通事故により後遺障害が残った場合、自賠責保険に対し後遺障害等級認定を申請しますが、その際、相手方任意保険会社担当者から、先に傷害部分の損害の示談をしませんかと打診される場合があります。
また、先発事故の症状が症状固定を迎える前に、後発事故により同一部位を受傷した場合、後発事故以降の治療費等の傷害部分の損害は後発事故の相手方保険会社から内払いされますが、その際、先発事故の任意保険会社担当者から、先発事故の傷害部分の示談をしませんかと打診されることが良くあります。
これらの場合に、傷害部分の先行示談に応じる問題点を以下指摘します。
東京高裁令和4年2月16日判決(自保ジャNo2122p138)にご注意ください!(令和4年12月23日追記)
本ブログは平成29年当時に記載したものですが、令和4年2月16日に東京高裁において、極めて重要な判決が出されましたので、改めて今一度、傷害部分の先行示談の危険性について注意喚起いたします。
事案は、傷害部分の損害につき先行示談をする際の免責証書(承諾書)に浮動文字で通常明記される「自賠責保険で後遺障害が認定された場合を除き、裁判上裁判外を問わず一切の異議・請求の申立を行わない」という文言の有効性が争われたもので、東京高裁は明確にその効力を認め、自賠責で後遺障害認定を得られなかった(非該当)本件では、訴訟で後遺障害部分の損害を請求することができないと判断したものです。
後遺障害等級は自賠責保険(損保料率機構)でも認定を受けられますが、争いがある場合には最終的には裁判所において判断されます。
にもかかわらず、傷害部分損害の先行示談の際に、上記のとおりの文言があると、自賠責で後遺障害非該当の場合、訴訟において後遺障害を認めてもらうことは不可能となり、そのことが今回の東京高裁の判決でも明らかにされてしまいました。
今回の高裁判決を受け、改めまして以下のブログの記事を通読いただくとともに、後遺障害申請を行う場合、傷害部分の先行示談においては免責証書の文言について、十分注意いただくようお知らせいたします。
後遺障害認定前の傷害部分の先行示談について
傷害部分の先行示談をする際には、まず、その提示額が裁判基準額に照らして適切かどうかを確認することは当然のこととして、自賠責保険に対する後遺障害等級認定前に傷害部分のみの損害を先行示談する際には、その示談の効力が後遺障害部分の損害にも及ばないようにすることが最も重要です。
例えば、保険会社の担当者が、「後遺障害が認定されたら、その分は支払いますので大丈夫ですよ。」と話し、傷害部分の示談書に「ただし、自賠責で後遺障害等級が認定された場合は、別途示談する。」との文言が記載されている場合、傷害部分の示談をしても問題は生じないと思われるでしょうか。
このような示談文言では、「自賠責で後遺障害が認定されなかった場合」、訴訟を提起して後遺障害部分の損害を請求する余地が封じられてしまう恐れがあります。
上に実際の示談書を挙げましたが、私が担当した事件でも、あいおいニッセイ同和損保岐阜サービスセンターの担当者から「本件事故に起因して、自賠法施行令2条別表に該当する後遺障害が発生した場合には、自賠責保険金をもって損害賠償額とする」との内容の傷害部分の示談書を取られており、被害者は自賠責で14級の認定を受けましたが、あいおい損保担当者は、示談文言どおり自賠責保険金の75万円しか支払わないと主張したので、訴訟を提起したことがありました(訴訟では、当方の錯誤無効の主張がとおり裁判基準での逸失利益と慰謝料を認めた和解が成立しました)。
以上のとおり、傷害部分の先行示談をする際には、示談文言に十分気を付けないと、後遺障害が残存しても後遺障害部分の損害が認められないとの結果になってしまいます。
ただ、一般の方が、細かな示談文言の意味を十分理解して傷害部分の先行示談を行うことは不可能ですし、保険会社の担当者でさえもその意味を十分理解せず、示談書を作成することもあります。
被害者の方々には事故により経済的に困窮され、一部でも先にまとまった額を得たいと思われる方も多くいらっしゃると存じます。
そのため、傷害部分の先行示談をする必要性は十分あると思います。
そこで、先行示談をする際は、「本示談には、後遺障害部分の損害は含まないものとする。」との単純な文言をいれておけば宜しいかと存じます。
先発事故の傷害部分の示談について
先発事故(第1事故)の症状が症状固定に至る前に、後発事故(第2事故)により同一部位を受傷した場合(このような場合を損保実務では「異時共同不法行為」といいます。)、損保実務においては、後発事故の相手方任意保険会社が、後発事故発生以降の治療費等の傷害部分の損害を内払いすることになります。
そのため、後発事故が生じた場合、先発事故の任意保険会社担当者から、後発事故発生前の傷害部分について示談しませんかと必ず打診されます。
これに応じても問題はないのでしょうか。
まず、保険実務とは異なり、このようなケースでは法律上の「共同不法行為」にあたるとされれば、後発事故以降の傷害部分や後遺障害部分の損害は、先発事故・後発事故いずれにも全額請求できます(民法719条)。
しかし、両事故の時間的・場所的近接性などがなく「共同不法行為」にならない場合では、寄与度による認定がなされます(例えば、先発事故3割、後発事故7割の範囲で責任を負うなど)。
また、先発事故が重大で後発事故が軽微な場合などでは、後々、後発事故の保険会社担当者から、後発事故は軽微であり、後発事故では後遺障害が残るはずはなく、すべて先発事故のせいであるなどとして、後遺障害部分の支払いを拒否されることもあります。
これは、後発事故以降の傷害部分の支払いをした後発事故任意保険会社担当者が、自賠責に事前認定をかけたら、意外にも後発事故の因果関係が否定された場合によく見られます。
先発事故の関係で示談してしまっている場合であっても、後発事故保険会社が全額を支払ってくれたり、争いになっても裁判所が共同不法行為を認め、後発事故に損害を全額請求できれば問題はありません。
しかし、異時共同不法行為の場合、法律上の「共同不法行為」と認められる要件は厳しいですし、裁判所で共同不法行為が否定され、寄与度による割合的認定がなされた場合や、後発事故が免責された場合などでは、先発事故が示談されていると、全部の損害の賠償が受けられなくなる恐れがございます。
かなり専門的でわかりにくくなってしまいましたが、異時共同不法行為の場合、示談は必ず先発事故と後発事故同時に行うようにし、先発事故保険会社担当者の勧めに応じて、先発事故の傷害部分のみを先行示談しないよう十分気を付けてください。
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