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局所的な痛みやしびれ感などの神経症状については、交通事故後の後遺障害として最も多くみられますが、交通事故賠償実務では「単なる自覚症状にすぎない」として軽視され、十分な賠償が受けられないのが現実です。
粉砕骨折や開放性骨折などの重度の骨折や変形癒合が生じた場合や、MRI画像で明らかな外傷性の半月板・靭帯損傷などの軟部組織の損傷が認められるなど、神経症状を生じさせている原因所見が得られてようやく12級13号が認められる程度で、ほとんどの局所的な神経症状の後遺障害等級は14級9号止まりで、後遺障害非該当とされる場合も多くみられます。

しかし、医学界に科学的根拠に基づく医療の概念が浸透し、かつ、医療機器の開発や利用方法の研究が進み、これらの神経症状を他覚的な検査所見により捉えることが可能になってきました。
例えば、従来から広く実施されてきた上下肢や顔面部等の神経障害を電気信号により捉える針筋電図検査神経伝導検査だけでなく、近時では四肢のみならず脳や脊髄、視・聴神経の異常を調べる誘発電位検査なども実施されるようになってきました(詳しくはこちらをご覧ください。)。

これらの検査に加えて、ペインクリニック分野を中心に、痛みの強さや程度を客観的に捉えるペインビジョン(Pain vision・ニプロ㈱)を用いた電流知覚閾値検査が徐々に広がりつつあります。

従来痛みの強さや程度は、強さを10段階のどこに当たるかを示す視覚的アナログ疼痛スケール(VAS)が広く実施されてきましたが、あくまでも患者さんの主観的な評価にすぎませんでした。
ところが、ペインビジョンでは、患者さんに電気刺激を与え、感じる最小の電気刺激量(「電気知覚閾値」:CPT)と、感じている痛みに対応した電流量(痛み対応電流値:PCC)を測定することにより、客観的な「痛み度(pain degree:PD)」を測定することができます。

ペインビジョンによる電流知覚閾値検査は、上記の神経伝導速度検査や誘発電位検査と違い、神経症状の原因やその内容を客観的に裏付ける検査ではなく、あくまでも患者さんが自覚している痛みの程度を調べる検査であり、また、標準純音聴力検査と同様に患者さんが自ら停止スイッチを押すことで知覚電流値が定まる点で、患者さんの主観に基づく点があることは否めません。
しかし、患者さんの主観や心理的影響に左右されるVASに比して、電気刺激や電流を基にしている検査という点や患者さんの恣意的・意図的な操作がある程度排除できる点(複数回検査でばらつきを排除できる)で科学的・客観的な検査であるといえます。

ペインビジョン検査は比較的新しい検査であり、ペインクリニック分野以外ではルーティン検査とはいえませんので、交通事故賠償実務上、ペインビジョンによる検査が、患者さんが自覚する痛みに対してどこまで医学的な他覚的所見と認められるかは、まだまだ未知数ではあります。
しかし、客観的な証拠が極めて重要視される交通事故賠償の面からも、痛みをある程度客観的に定量化・数値化できる検査として、ペインビジョンによる電流知覚閾値検査は、今後広く利用されるべき検査として弁護士丹羽は注目し期待しています。


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