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事故車両が修理不能(物理的全損)もしくは修理費が車両損害額を超える場合(経済的全損)、事故車両の時価額(同種同等の車両の市場での再調達価格・市場価格)が賠償の対象になります。
その時価額の算定方法について、近時ではインターネットで各条件を絞り込んだ中古車価格が容易に調査できること、またこれまで一般的であったいわゆるレッドブックの価格と中古車市場での価格との乖離により公平さを欠くことが目立ってきたことから、最近ではインターネットで検索した同種同等車両の時価額が参考にされることが増えてきました。

今回の事案で、弁護士丹羽はインターネットで検索した全国で販売されている同種同等車両の価格の平均額を事故車両の時価額として請求したところ、三井住友海上火災保険㈱名古屋損害サポート部第三保険金お支払センターの担当者から、以下の主張がなされました。

『中古車市場の検索結果は、東海三県に限定しましたか。
通常、当社ではその地域、名古屋であれば東海三県、場合によっては静岡県も含め、検索結果を絞り込んだ結果を基に時価額を算定しています。』


弁護士丹羽は、裁判上も賠償実務上もそのような主張をこれまで聞いたことがなく、三井住友海上からも同様の主張をされたことがなかったので、当然のように全国での検索結果に基づき車両価格を算定していました。

確かに、感覚的には地域ごとに車両のニーズは異なり車種による中古車価格の地域差はあるように思われますし、また、インターネットでは地域ごとに絞り込んだ検索も可能ですので、三井住友海上の主張もそれなりに傾聴に値すると思われます。

しかし、基本的にはどの地域からも中古車は購入できますし、当然のことながら販売されている地域によって中古車自体に個体差があるわけではないので、その地域に絞り込む必然性に欠けると思われます。
また、例えば雪国であれば四輪駆動車が、一家で複数の車を所有することが多い地域であれば軽自動車の需要が高いことは何となく想像はできますが、地域によってどの車種にどの程度の金額の差が生じるのか一般・類型化はできず立証もされていませんので、地域を絞り込むことでより適正な車両時価額が算定できるのかも不明です。
東海三県といっても名古屋市のような都会もありますし、岐阜の山間部で雪が多い地域もありますので、「東海三県」という区切りでどこまで地域性を反映できているかもわかりませんし、他方で、名古屋市中区に住んでいるから中区で販売されている車両に限るという限定が本当に公平なのかもよくわかりませんので、どの範囲で絞るのかも明確ではありませんし、事故後転居した場合も、どちらの地域で算定すべきなのかもわかりません。

さらには、売主の属性にまで「市場価格」の範囲を広げるとするなら、事故車はディーラーで購入したものであるから、検索対象をディーラーが売主の中古車に限るべきだなどの細かい主張が出され、示談解決が困難になるという支障も生じかねません。

国産車は同じ車種によっても多岐にわたるグレードがありますし、車両価格を安くし販売手数料で利益を出すという販売店もありますので、中古車価格は地域差よりも、対象範囲を全国に広げ同じグレードや同等の装備品・走行距離などでサンプルを増やした方が、より価格を「市場」価格に近付けられると考えられます。
したがって、弁護士丹羽は、従前どおり中古車「市場」とは国内全体の市場を指すと解したほうが、より車両時価額を適正かつ公平に算定できると考えています。


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