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家事従事者の休業損害の相場

主婦や主夫などの家事従事者であっても休業損害(いわゆる「主婦休損」)が認められ、その基礎収入として女性の平均賃金を採用することは多くのホームページなどでも取り上げられ、良く知られていますが、実際に示談交渉や裁判所により認められる金額はいくらくらいなのかはあまり知られていません。
そこで、平成30年10月までに当事務所で取り扱った、家事労働者に休業損害が認められた61件(13級以上・5件、14級・37件、非該当・19件)の事案を分析し、家事労働者の休業損害の平均額などを示しました。

これによりますと、13級以上の後遺障害が認められた事案の平均額は128.4万円14級の後遺障害が認められた事案の平均額は86万3243円後遺障害なしもしくは非該当事案の平均額は58万9474円となりました。

家事労働の休業損害は、事故により生じた症状の内容や程度、家事労働に対する支障の程度、家族構成、従事する家事の内容等により大きく異なりますが、本分析により家事労働者に認められる休業損害の額の大まかな金額がわかると思いますので、ご参考にしていただければ幸いです。


13級以上認定事案


事案数5件
最高額199万円(30代・通院期間:18か月)、最低額82万円(30代・通院期間9か月)
平均休業損害額 128.4万円
平均通院期間約12か月


14級認定事案


事案数37件
最高額165万円(50代・通院期間:18か月)、最低額7万円(30代・通院期間7か月・同居の母との家事分担割合を2割とした)
平均休業損害額 86万3243円
平均通院期間約10か月


後遺障害なしもしくは非該当事案


事案数19件
最高額116万円(40代・通院期間:7か月)、最低額13万円(40代・通院期間3か月未満)
平均休業損害額 58万9474円
平均通院期間約6か月


家事労働者の休業損害の算定方法


では、実際にどのように家事休損を算定するのでしょうか。
家事労働に対する支障を金銭的に評価することは非常に困難であるため、交通事故賠償実務では、ある程度家事労働に対する支障をモデル化して算定することが一般的ですので、まず、家事労働の基礎収入額に触れたうえで、当事務所で用いている3つの算定方法を紹介します。


家事労働者の基礎収入


一般に家事労働は家事従事者が男性・女性であるかを問わず、全女性の平均賃金と同価として評価されます。
すなわち、事故が発生した当時の「女性・学歴計・年齢計」の平均賃金額(平均賃金は、厚労省「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)に基づきます。)を年収とし、これを365日で除した額が家事労働の日額給与額になります。
例えば、平成28年の事故ですと、平成28年の女性・学歴計・年齢計の平均賃金額は376万2300円になりますので、これを365日で除した1万0308円が家事労働の日額給与額になります。

ただし、家事労働といっても千差万別ですので、子はすべて独立した高齢者夫婦で無職の夫のためだけに家事をされている方などでは、基礎収入額は下がりますし、(年齢別の平均賃金を採用したうえで、さらにその何割かに減額されることもあります)、お子さんのための家事のほか、親の介護を行っている方では、基礎収入を増額することも考えられます。

なお、家事労働の他、パート等で賃収入を得ている方については、賃収入の年収と家事労働の基礎収入額との高い方で休業損害が算定されます。
すなわち、当初パートを休業したとして、パートの休業損害を支払ってもらっていたとしても、パートの年収が全女性の平均賃金を超えていなければ、家事労働者としての休業損害との差額を請求することが可能です。

【夫婦間で家事分担がなされている場合】
~①家事分担割合による減額の可能性~
女性の社会進出が進む現在の状況下においては、共働き世帯の急増により、夫婦で家事を分担しているケースが急増しています。
応用的な問題になりますが、このような家族形態の変化に伴い、家事労働の金銭的評価である基礎収入の見直しを図る必要性が高いと思われますので、以下説明します。

まず、一般に、一つの家族で家事分担がなされている場合、家事分担割合を算定して、その割合に従った家事労働に対する対価が認められます。
すなわち、母と同居する主婦が、他の同居する家族のために母と主婦それぞれ同等の家事をこなしているとすると、主婦の家事労働の対価は上記年額376万2300円の5割である188万1150円と認定されることが一般的です。
同じように、夫婦間で家事労働を分担している場合、夫婦の家事労働の分担割合を定め(夫3割、妻7割)、これに応じて家事労働の対価を応分した額が、当該夫婦の家事労働に対する対価(夫:¥3,762,300×0.3、妻:¥3,762,300×0.7)になると考えられます。

これまで、有職者の夫がいる夫婦で、妻が家事をしていれば比較的問題なく妻の100%の家事労働者性が認められてきましたが、今後は、夫が家事を分担しているかによって、場合によっては、その分担割合にしたがい妻の家事労働の対価(基礎収入)が減額される可能性があることに注意が必要です。

~②基礎収入は男女計の平均賃金によるべき~
一方で、従前と異なり、男性が家事を行うことが一般化した状況下であっても、家事労働の対価を全女性の平均賃金とすることの合理性は認められるでしょうか。
家事労働の対価が全女性の平均賃金とされたのは、一般に家事は女性が行うことが多かったとの社会的事情から、家事を担う主婦の稼働能力は同じ女性の有職者の稼働能力と同等と評価されることに基づくと考えられます。

そうしますと、社会情勢の変化により、現在のように男性も家事を行うことが一般的となり、当該夫婦も夫が家事を分担している場合であれば、家事労働は夫である男性の稼働能力と妻である女性の稼働能力のそれぞれ一部を用いて行っていることになりますので、当該夫婦の家事労働は、男女計の平均賃金(平成28年・489万8600円)とすべき余地はあるのではないでしょうか。
また、家事労働に対価性が認められる根拠の一つは、家事を家政婦等に外注すれば費用がかかるように、本来家事労働も有償であるが、家族間の情誼のため無償となっているだけであると説明されます。
そうであるならば、全ての家事を外注した費用が家事労働の対価と評価されるべきですが、その費用は女性の平均賃金をはるかに超える金額になると思われますので、このことも、全女性の平均賃金よりも高い男女計の平均賃金を採用する根拠にもなろうかと考えます。

応用的な話になってしまいましたが、それでは、以下、交通事故賠償実務上用いられる家事休損の具体的な算定方法をご紹介します。


1 通院日を休業日と擬制する方法


通院した日については100%家事労働に対する支障が生じたと擬制して、日額給与額に通院日数を乗じて算出する方法です。
例えば平成29年の事故で(日額給与額1万0308円)、通院日数が80日だとしたら、家事労働の休業損害は82万4640円となります(¥10,380×80=¥824,640)
自賠責が行う算定方法ですが、自賠責では日額給与額は5700円とされることに注意してください。

当事務所でも、計算の簡明性と相手方保険会社の示談可能性の点から、示談交渉の際には、この計算式で算定することが多いです。


2 支障割合を算出する方法 


現実の家事労働に対する支障の程度に応じてその支障割合を算出して、これを基に算定する方法です。
この算定方法では、より家事労働に対する支障の程度を具体的に反映できますが、ある時期にどの程度の症状が生じており、実際にどのような家事がどの程度できなかったかなどを細かく証明しなければならないので、算定には手間がかかります。
当事務所では、訴訟を提起する際などに、「家事労働についての報告書」を記載いただいたうえで、この算定法により算出しています。

例えば、事故後1か月間は100%、その後の3か月間は50%程度、その後の3か月間は25%程度、家事が出来なかった場合は下記の計算式により101万8957円と算定されます。

¥3,762,300×100%×1/12=¥313,525
¥3,762,300×50%×3/12=¥470,288
¥3,762,300×25%×3/12=¥235,144

イメージとしては、下記の図のとおりです。



3 漸減法による方法


この方法は、損保会社の顧問業務を中心に行っている先輩の先生に教えてもらったのですが、事故当日の支障割合から、症状固定日の後遺障害による労働能力喪失率まで、家事労働に対する支障が漸次減少していくとして算定する方法です。
症状の改善とともに家事労働に対する支障の程度が減少し、症状固定日以降は後遺障害等級に相当する労働能力喪失率の程度で支障が継続するという考え方に合致しており、理屈としても分かり易い算定方法なのではないかと考えています。

すなわち、事故から症状固定日まで6か月(180日)を要し、後遺障害等級12級の認定を受け(労働能力喪失率14%)、事故当初全く家事が出来なかった方ですと、下記計算式から80万3412円と算定できます。
¥10,380×(100%-14%)×180(日)×1/2=¥803,412

イメージとしては、下記図の三角形の面積が休業損害の金額になります。



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