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交通事故の人身賠償に関するとんでもない噂を耳にし、これが事実としたら交通事故被害者を愚弄し食い物とする大変な事態となりますので、まさかとは思いますが、注意喚起のために念のためお伝えしておきます。

その噂とは、「ある保険会社と、人身賠償につき基準額から相当額減額した金額(例えば慰謝料を赤本基準の6割など)を一律に支払う代わりに、訴訟をしないという協定を結んでいる法律事務所がある」というものです。
なお、「協定」といっても、物損で修理会社と保険会社が修理内容について合意する「協定」とは全く違いますので、誤解しないようお願いします。

一般の方にはあまり知られていませんが、実は過払金全盛から末期に差し掛かりつつある平成20年以降に、サラ金と法律事務所が「訴訟をしない代わりに、請求額の6割を一律で支払う」などという協定を結んでいたことが良くあったことは、一定年数の実務経験がある弁護士であれば周知の事実です。

このスキームは、過払金返還請求が著しく増大したことで、サラ金が交渉での返金を次第に拒否するようになり、訴訟を提起しないと十分な額の返金が受けられなくなってきた時期に、弁護士にとっては手間と時間がかかる訴訟をせず楽に多数の事件を回していける、サラ金にとっては本来の支払額より大幅に減額した金額を支払うだけで済むという、弁護士・サラ金双方にとってメリットがあり、他方、依頼者にとっても、解決まで時間がかかるのであれば減額されても早く受け取りたいというメリットもあったのではないかと思われます。

ただ、一番の被害者は、何も知らされないまま、今も知らないまま、本来受け取れるべき過払金を減額して示談させられていた依頼者です。
依頼者が、事前に本来受け取れる額から一定額減額される代わりに早期に解決できると知らされ、これを真に理解してそのような解決を望みその事務所に依頼をしていれば何の問題もありませんが、そのような事務所が、サラ金と協定を結んでいることを依頼者に事前に知らせていたのかは疑問があります。

同じことが、交通事故人身賠償の世界でも起こっているのでないかという噂です。
確かに、大量受任・大量処理をして画一的に事件を回転していくことを望む法律事務所や弁護士であれば、訴訟を提起する手間が省けるこのような協定を結ぶメリットはあるでしょうし、保険会社にとっても基準額よりも安く早期に解決できるメリットはあります。
また、近時、あの頃の過払金返還請求事件のように、珠玉混合の法律事務所が交通事故被害事件に大挙として押し寄せ、多額の広告費と人件費を使い交通事故被害者を奪い合い、保険会社にとっても、被害者側の弁護士対応が増え、支払う保険金が増大しつつある状況ですので、交通事故人身賠償の世界でもこのような協定が結ばれる素地は十分あると思われます。

しかし、本来賠償されるべき金額が大きく減額されることを知らないまま、示談させられ、弁護士と保険会社に「食い物にされる」交通事故被害者の方がでてきてしまうことは、被害者専門弁護士として断じて許すことはできません。

多くの交通事故被害者の方にとって、一生で一度限りの事故であり、正確な比較対象をもたないので、何が正しいのか、誰を信用していいのかわからないところに、交通事故賠償の一番の難しさがあります。
そのような難しさを手玉に取り、交通事故被害者を食い物にするような法律事務所が存在しないこと、「人身賠償の協定」があくまでも噂に過ぎないことをを心から願うばかりです。


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