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当事務所は、脳挫滅・脳挫傷・びまん性軸索損傷等の重症頭部外傷や重症脊髄損傷等を負った方のご家族から、早期にご相談に来ていただくことが大変多くございますが、その際、しっかりとした治療を受け早期の回復を目指すとともに、適正かつ公正な賠償を受けるためにとても重要な初期対応についてお話をしています。

重症案件では、特に当初からしっかりとした対応を取らないと、重大な症状が見逃されたり、適切な治療を受けられず、本来もっと回復できたはずの被害者に重い症状が残ったり、適正な賠償を受けられないという取り返しのつかない事態に陥ることが多々みられます。
そのような事態に陥らないために、重傷頭部外傷や重症脊髄損傷を負った方に当事務所で相談の際に普段お話ししている重要な初期対応について以下記載します。


意識喪失を生じている場合


脳への適切な刺激を与えてあげること

重傷頭部外傷を負い意識喪失が生じている場合、ご家族にとって最も大切なのは機能回復のために脳への適切な刺激を与え、一刻も早く意識を取り戻してもらうことです。
常に声をかけてあげたり、タッチング等の身体をさすったり触れてあげることなどは意識回復のために大変重要なこととされていますが、昨今では面会時間が限られ、宿泊を伴う付添いも認められず、常時の付添いができないことがあります。

常時の付添いができないような場合、当事務所では、ICレコ―ダーにご家族や友人・職場の方々などにメッセージを録音してもらい、被害者の方に聞かせてあげることをお勧めしています。
その際、代わりのメッセージを吹き込んだり電源の補充のため、2台用意しておかれると良いと思います。
その他、タブレット端末で思い出の動画や好きな音楽・映画等を流してあげるということも有用だと考えています。


スマートフォンのロックについて

昨今では、スマートフォンのセキュリティが高まり、また、スマートフォン一つで他者への連絡すべてをまかなえるため、所有者が意識障害に陥った場合、突然連絡が取れなくなり心配しているであろう被害者の交際相手や友人らに連絡がつかない、貴重な画像や動画データが取り出せない、意識回復後本人もパスワードを忘れてしまったなどの事態が良く起こります。

そのような場合に業者に依頼しても、スマートフォンのパスワード等は容易に解析・解除出来ないのが現状です。
本来このような事態に備えて、通信事業者もしくはスマートフォンメーカーが、厳重な管理下及び要件で、家族らがロック解除できる方法を法やガイドライン等できちんと整えておくことが望ましいのですが、個人情報管理やセキュリティー保護の観点から難しい問題が生じます。
そこで、事前対策にはなってしまいますが、ご家族でパスワードを伝え合うか、指紋認証にしておくことなどが考えられます。


症状を早期に医師や病院に伝えること


症状は見逃されがちです

すべての症状でいえることですが、一般に、患者さんは、医師の先生が自らすべての症状を見つけて治療してくれると思いがちですが、実際には必ずしもそうとは限りません。
痛みやしびれなどの自覚症状や視覚・聴覚等の異常は本人が訴えない限り医師の先生にはわかりませんし、特に、生命にかかわる症状を負った場合、当然のことながら病院では救命措置が最優先されますので、生命維持に必要な機能以外の症状は見逃されがちです。

そこで、最も大切なのは、被害者の意識が回復次第、ご家族が被害者から、「見えにくかったり聞こえにくくないか」、「痛みや痺れ等の症状がないか」、「動かしにくかったり力が入りにくい部分はないか」等を丁寧に聞き取り、また、すべての身体の部位を触れて感覚の異常がないか確認してあげて、おかしいと感じられる点についてはすぐに医師の先生や看護師さんに伝え、すぐに適切な検査や治療を受けていただくことが重要です。

また、意識の回復の状況を問わず、できる限り早期に傷跡や内出血等の外表上の損傷痕は、当該部位を受傷したことを示す大切な資料となりますので、損傷痕が消えてしまわないうちに画像で撮影しておくことも大切です。


頭部外傷後に気を付けるべき症状


重症頭部外傷後には医師の先生が気づきにくい多様な症状が生じることが多いので、以下、頭部外傷後に十分気を付けていただくべき症状を挙げます。
被害者の方が意識を回復され次第、下記症状が生じていないか常に確認いただくようご留意ください。
なお、下記の症状の後のカッコ書き内は、その症例を担当する一般的な診療科になります。

1 高次脳機能障害(脳神経外科/内科、神経外科/内科、リハビリテーション科)
 記憶力・集中力・判断力・注意力・言語能力等の低下、怒りっぽい、幼児化等の性格変化(高次脳機能障害についてはこちらもご覧ください。)
2 頭痛(脳神経外科/内科、神経外科/内科)
3 めまい・ふらつき等平衡機能障害(脳神経外科/内科、耳鼻咽喉科)
4 視力低下・視野狭窄・複視等眼症状(眼科)
5 聴力低下・耳鳴り等聴覚障害(耳鼻咽喉科)
6 嗅覚脱失・減少等嗅覚障害(耳鼻咽喉科)
7 味覚障害(耳鼻咽喉科)
8 四肢麻痺・しびれ・上下肢脱力感・巧緻能力低下(整形外科、脳神経外科/内科、神経外科/内科)
9 醜状痕(傷跡)(形成・皮膚科)
10 てんかん発作(脳神経外科/内科)


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重傷頭部外傷後の好発症状をまとめた書面です


転院・退院の際は特に注意が必要


重傷頭部外傷や脊髄損傷では、急性期を脱した後に救急搬送先の病院から転院することは非常に良くありますが、転院の際には特に注意が必要です。
転院と介護の問題については、こちらもご参考にしてください。

独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)の療養施設への入所時期について

独立行政法人自動車事故対策機構(以下「NASVA」といいます)では、交通事故で脳損傷を生じ重度の遷延性意識障害を負った方向けの療護施設を全国12か所の医療機関において運営(委託)しております。

NASVA療養施設の概要についてはこちらをご覧ください(NASVAのHPへのリンクです)
パンフレットについてはこちらです(同上)

NASVAの療護施設では、最長3年にわたる長期入院が可能となり、その間、極めて専門性の高い検査・治療・リハビリや手厚い看護が受けられますので、当事務所では、重度の遷延性意識障害を負った方は可能であればできるだけ早期にNASVAの療護施設への入所を手配いただくようご案内しております。
NASVA療養施設への転院(入所)時期についてですが、通常急性期治療が終わり回復期治療を行うためにリハビリ病棟に転院する際になりますが、愛知県に所在する藤田医科大学病院(委託病床10床)に限り、原則急性期の入院になり(令和6年2月現在)、回復期での入院については断られる可能性がございます。
そのため、藤田医科大学病院のNASVA委託病床に入院を検討されている方は、事故後すぐに転院を試みる必要があります。

脊髄損傷の場合の最先端医療について

脊髄損傷治療の分野では、幹細胞やiPS細胞移植による脊髄の再生、電気刺激やロボットを利用したリハビリなど先進的な治療が急速に進んでいます。
ただ、通常の総合病院ではこのような先進医療を実施したり勧めてくれることは非常に稀です。

他方、例えば、札幌医科大学附属病院で実施されているステミラック注による再生医療は受傷後31日以内の患者しか受け付けておらず、また、慶応義塾大学医学部脊髄損傷治療研究グループ等が実施している肝細胞増殖因子(HGF)による治験では受傷後60時間以内に該当医療機関への搬送が必要とされているなど、これらの先進医療は早期に実施されなければ受けられなかったり、効果が薄くなってしまうものも多々あります。

そこで、回復可能性の時機を逸しないよう、重度の脊髄損傷が生じた場合、救急搬送先の病院でできるだけ早期に先進医療について脊髄専門医の先生に相談し、場合によってはご自身で調べて医師の先生に助言をいただくことも必要になります。
脊髄損傷に関する先進医療についてはこちらのページをご覧ください。

転院先のリハビリ態勢は十分か

当然のことながら、病院によって治療やリハビリの内容は大きく変わってきます。
そこで、症状に見合った治療やリハビリがしっかり受けられるかはとても重要です。

脊髄損傷では、一般的な理学療法を超えた電気刺激やロボットを利用した先進的なリハビリが受けられるかはとても重要ですし、高次脳機能障害を生じた場合には、運動機能回復のための理学療法のみならず、高次脳機能の回復や病状の適切な評価のため、作業療法士(OT)による作業療法、言語聴覚士(ST)による言語療法、臨床心理士(CP)による心理療法も大変重要になってきます。
そのため、高次脳機能障害を生じた場合、これらのリハビリをしっかりとしてもらえる病院に転院することがその後の症状の回復に大きく影響します。

ただ、ここで注意いただきたいのは、認知症の高齢者を対象とした作業・言語療法を中心に実施しているリハビリ病院も多く、これらの病院に若年や青年の被害者が転院した場合、リハビリの内容に大きなギャップが生じてしまうことになります。
高齢認知症患者と若年・青年高次脳機能障害被害者とは、障害評価や作業・言語療法の内容も全く変わってきます。
また、学校や勤務先との連携も必要になりますが、高齢認知症患者を対象とした病院の場合、そのような連携を実施したことがない、してもらえないことも良くみられます。

重症頭部外傷もしくは脊髄損傷を負った被害者の方々の転院先につきましては、上記問題点をしっかりと認識していただいたうえで、病院内の医療ソーシャルワーカーとよく相談して、出来る限り最良のリハビリを受けられる病院に転院することが大切です。

転院先に症状が適切に伝わっているか

一般の患者さんにとって、紹介先から転院先にはすべての情報が適切に伝わっていると思いがちですが、実は全くそうではなく、通常紹介先からは紹介状や画像のみで患者さんの情報が伝えられるだけです。

交通事故賠償上頻繁に問題になっているのが、紹介状に傷病名や症状の漏れがあり、転院先の病院に傷病名や症状が伝わっておらず、転院先の病院で漏れがあった傷病や症状についての治療を実施してもらえなかったり、事故との因果関係について認めてもらえないという事態が多発しています。

賠償上、当初の傷病名や事故当初からの症状の訴え、当該部位等に対する治療等は非常に重視され、事故から時間が経って訴えられた症状や治療ほど事故との因果関係が否定されがちになります。

特に重傷頭部外傷や脊髄損傷事案では、転院先で症状が明らかになることも良くみられます。
そこで、転院先で改めてすべての症状を医師の先生に伝え、転院先で症状に気付いた場合にはすぐに伝えて、転院先でも引き続きすべての受傷部位に対して治療・リハビリを実施いただくことはとても重要です。

退院後にもしっかりと通院することが大切です。

幸いにして症状が回復し、回復期病棟を退院できた後、通常は施設もしくは自宅での介護が実施されることになります。
その際、初診時の病院に定期的に診察を指示されることもありますが、その場合も3か月に1回程度に過ぎない場合も良くみられます。
また、通院が指示されず、そのまま医師の診察を受けないまま、時間だけが過ぎてしまうこともあります。
場合によっては、入所する施設が提携する医師の内科的な診察のみ終わってしまうこともみられます。
医師の先生によっては、退院後は日常生活がリハビリだとしてリハビリ治療に消極的な方もいらっしゃいます。

しかし、回復期病棟を退院してからも、理学・作業・言語・心理の等の専門的なリハビリにより十分機能回復が見られることもよくあります。
何より、この段階で一度医師や病院から離れてしまうと、回復期病棟を退院した時点が症状固定時期とされ、その後の賠償が十分受けられないどころか、適切な後遺障害認定を受けられないことも良くみられます(通院頻度が空いてしまうと、相手方保険会社からの治療費の内払いが打ち切られます)。
リハビリ期病院では「自分たちはリハビリしただけだから」として、最終的な後遺障害診断書を書いていただけないことも良くありますし、その場合、初診時の病院に診断書の記載をお願いしても、「退院後の状況はわからないから」として記載を拒否され、結局誰も後遺障害診断書を書いてくれないという最悪な事態に陥ることもあります。

そのような事態に陥らないために、回復期病棟を退院する時期になったら、施設もしくは自宅の近隣の整形外科もしくは脳神経外科・内科、神経内科等の専門クリニックを探し、事前に事情をお話ししたうえで通院の了解を得たうえで、紹介状をいただいて、退院後も定期的に受診し、可能であればリハビリを実施してもらうことが、患者様の症状の回復及び適正な賠償を受けるためにとても大切なことです。

急性期の医師の先生が定期的に受診をしてくれるとのことであれば、診察は急性期の先生+リハビリはクリニックでという退院後の理想的な治療体制は整います。

要するに、『急性期入院⇒回復期入院⇒退院後の通院』という、すべての病院・クリニックが事故から症状固定まで一貫して患者様の外傷症状を理解して診察・治療・リハビリを行っていただくということが、患者様の回復にも賠償上とても重要になります。

回復期病棟を退院する際には社会保障の利用を

回復期病棟を退院した場合、自宅介護が可能であれば自宅介護、困難とのことであれば施設介護を実施することになります。
症状の状態により施設への入居費用や自宅の介護費用は相手方保険会社に請求することはできますが、必ずしもしっかりと払われるとは限りません。
また、施設入所する場合も、介護保険や障害/精神者認定を受けてないと入所できる施設は極めて限られてしまいます。

そこで、社会福祉制度の利用による費用の軽減を図り、また、入所できる施設の選択肢を増やすため、回復期病棟を退院する時点で、65歳以上であれば介護保険(交通事故では第2号保険者に該当しません)の認定、もしくは身体/精神障害者認定を受けておくことも重要です。
最近では医療ソーシャルワーカー(SW)から社会福祉制度の利用について提案があることも多いですが、退院後の介護体制を整えるためにはSWの方々の協力は不可欠ですから、回復期病棟に転院した際には、早めにSWと面談し心配事を相談しておくと宜しいかと存じます。

付添看護費用について

最後に賠償プロパーの細かい問題になりますが、ご家族が病院に駆付けたり、看護や病状の説明のためなどに付き添った場合の費用も請求できます。

ただ、その場合、いつ・だれが・どこに・なんのために付き添ったかが後でわかるようにしていただくことが必要になりますが、ご家族はそれどころではなく、後でわからなくなってしまうことが良くみられます。
そこで、「いつ、だれが、どこに、どのような交通手段で、何のために」付き添ったのかを記録しておき、タクシー領収書などの交通費がわかる資料を残しておくことが必要です。
当事務所では、「付添い一覧」という書式を作成して相談に来ていただいた方にお渡ししていますが、こちらでも紹介していますので、ご覧ください。


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