死亡事故について
検察審査会で不起訴不当の議決が出ました。
当事務所では、重大被害事故での加害者の刑事手続につき、正式起訴された際の被害者参加代理のみならず、不起訴処分とされた場合の検察審査会への審査申立代理等のお手伝いを差し上げておりますが、今回、検察審査会への審査申立で不起訴不当の議決が下されました。
加害者の刑事処分の流れや検察審査会への審査申立の簡単な説明の後、実際の申立書とともに以下お伝えいたします。
加害者の刑事手続はどのように進むか
交通事故被害者の方が交通事故で怪我を負ったり死亡した場合、加害者は刑事手続上過失(危険)運転致死傷罪の被疑者として取り扱われます。
そして、被疑者は刑事手続上、公判請求(正式起訴)、略式起訴、不起訴のいずれかの処分を受け、公判請求されれば、被告人として刑事裁判にかけられ、拘禁刑や執行猶予、罰金刑、場合によっては無罪等の判決が下されることになり、略式起訴がされた場合原則として罰金刑に処せられる一方で、不起訴とされた場合、加害者は刑事裁判や刑罰を受けることはありません。
そして、被疑者につき公判請求するか、略式起訴するか、不起訴とするかは検察官が決めることになり、これを「終局処分」といいます。
交通事故被害者やご遺族の方々にとって、民事賠償では金銭的な補償が受けられるだけであり、加害者を絶対に許すことはできず厳罰に処したいという処罰感情や遺族感情については、私的制裁が禁じられている我が国では刑事裁判でしか果たすことはできません。
そして、多くの被害者やご遺族の方々の気持ちとしては、加害者に被告人として正式裁判を受けさせて、公判廷において、自分が犯した罪に真摯に向き合い、包み隠さず事実を詳らかにし、心からの反省の態度や謝罪の言葉を述べ刑に服させたいというのが本心だと思います。
しかし、危険運転致死傷罪に該当する場合や、被害者側に目立った落ち度は認められず、事故態様が悪質であったり、結果が著しく凄惨であったり、加害者に前科前歴がある場合は別として、過失運転致死傷罪で公判請求されることは、故意犯の場合と比べあまり多くないという印象を抱いています。
また、終局処分を一手に担う検察官としても、交通事故は誰でも犯し得る不注意に基づく過失犯であり、悪質な故意犯に比べて、どうしても公判請求に踏み切りにくいという事情もあるようです。
交通事故被害者やご遺族の方々にとっては、理不尽にも愛するかけがえのない家族を亡くしたり、不自由な体にされてしまった悔しさや辛さ憎しみ悲しみは、加害者の故意だろうが過失であろうが変わりありません。
また、公判請求された場合、被害者の方々は被害者参加をすることにより、直接被害者に質問したり、心情意見でご自身の心情を直接加害者や裁判官に聞かせることができ、被害感情を落ち着かせることが可能です(被害者参加制度の詳細についてはこちらをご覧ください)。
そして、加害者を刑事裁判で裁き判決を受けさせるということは、人を心の底から憎しみ苦しんできた被害者やご遺族の方々にとって、一つの区切りとしての役割を果たすかもしれません。
なお、公判請求や略式起訴された場合は、被告人や目撃者等の供述調書を含めた検察官請求証拠すべての閲覧・謄写が原則として可能ですが、不起訴処分で終わった場合、供述証拠は開示されず、実況見分調書や捜査報告書などの客観証拠しか開示されませんので、被害者の方々が望まれる「なぜこのような事故が起こってしまったのか」という事故の実態を把握することがより困難となってしまいます。
検察審査会への審査申立てとは
このように交通事故被害者の方々にとって、大きな関心ごとである加害者の終局処分については「公益の代表者」としての検察官に一任されていますが、その判断が正当かどうか疑わしい場合も多々見られます。
検察官が不起訴処分をした際にその判断の妥当性を、国民から選ばれた検察審査員が判断するのが検察審査会であり、検察審査会に検察官が下した不起訴処分の妥当性を判断することを求めることを審査申立てといいます(検察審査会の詳細についてはこちらの最高裁HPをご覧ください)。
そして、検察審査会で検察官の不起訴処分が不当であると判断された場合、「起訴相当」という議決がなされ、また、捜査が不十分で不起訴が不当であると判断された場合、「不起訴不当」という判断がなされ、いずれの場合でも検察官は改めて捜査をしたうえで再度終局処分を下します。
ただし、残念ながら、検察審査会への審査申し立てをしたとしても「起訴相当」や「不起訴不当」の議決がなされるのは全体の1割程度で狭き門といえます。
略式起訴されそうな場合に被害者としてできることは?
略式起訴された場合は、検察審査会への審査申立ができません。
略式起訴の場合は、法廷での裁判は開かれず非公開の書面審査のみで被告人に罰金が下され、略式裁判では被害者の方々の関与は認められません。
また、捜査段階で警察官または検察官により作成された定型的な被害者・遺族調書のみでは裁判官に十分被害感情を伝えることはできないのが現状です。
そこで、略式起訴がなされる可能性がある場合、被害者側としては、終局処分前に担当検察官からの事情の説明を求め、検察官に被害感情を直接訴えたり、終局処分前に検察官に心情意見書を提出して裁判所に証拠請求することを求めるという方法で、検察官に公判請求を求めたり、また万が一略式手続とされたとしても、裁判官に被害者の意見を届けることが可能になります。
今回の事案について
事案の概要
晴天の日中、制限速度時速50㎞の片側2車線の見通しのよい直線道路を自転車で横断していた高齢の被害者を、軽自動車を運転していた加害者が第2車線上で跳ね飛ばし被害者を死亡させたという事案で、検察官は加害者を不起訴処分としました。
しかし、ご遺族の方々は、不起訴後開示された客観証拠から、加害者が幅のある歩道から第1車線を横切り第2車線に進出してきた被害者に気付いたのは被害者が目前に迫ってからであり、著しい前方不注視があったのではないか、被害者や自転車が跳ね飛ばされた距離から加害者には相当の速度超過があったのではないかと考え、不起訴はおかしいとして検察審査会への審査申立てを希望されました。
申立の理由と実際の申立書
弁護士丹羽は、加害者に著しい速度超過があったと考えられること、前方左方不注視の程度が著しいこと、結果が凄惨であること、加害者の再犯の可能性が高いこと、遺族の方々の処罰感情が甚大であることを理由とする審査申立書を作成し、ご遺族を代理して管轄検察審査会に審査申立てをいたしました。
実際の申立書は以下のPDFファイルのとおりです。
申立ての結果(議決内容)
審査の結果は、「本件不起訴処分は不当である。」との議決が下されました。議決書では、不起訴不当の理由として、加害者に①速度超過の疑いがあること、②前方不注視の疑いがあること、③自動車の運転手として極めて基本的なハンドル・ブレーキ操作などの回避措置を講じておらず回避義務違反の疑いがあることを挙げて、これらの点についての捜査が尽くされていないと指摘しました。
まとめ
今回、検察審査会で不起訴不当の議決を得られましたが、起訴されるかは再度検察官の判断に委ねられることになります。
ただ、ご遺族の方々にとっては、「被害者の命が軽じられた」、「突然の事故で被害者や遺族は本当に辛く悲惨な目に遭わされたにもかかわらず、加害者は何の変わりもない日常を送ることになり絶対に許せない」といった被害感情を検察審査員の方々に理解いただいたことで、暗澹たるお気持ちが少しだけでも晴れたのではないかと思います。
当事務所では、設立当初から、被害者やご遺族の方々に被害者参加制度を利用した積極的な刑事手続への関与をお勧めし、被害者参加代理人として被害者参加の全面的なお手伝いをさせていただいているほか、不起訴処分の場合の検察審査会への審査申立代理や、略式起訴が見込まれる場合の検察官との打合せや心情意見書の作成など、刑事手続の場面でも交通事故被害者の方々に全面的なお手伝いを差し上げております。
民事事件をご依頼いただいた場合は、これらの刑事事件での代理については原則無償で対応しておりますので、一度当事務所の無料相談でご相談ください。
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