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近時高齢の方々が被害者となる死亡事故が目立って増えてきており、当事務所でも多数ご相談や委任をいただいておりますが、高齢年金受給者の死亡逸失利益の算定にあたっては注意が必要です。

通常、年金受給者の死亡逸失利益の算定方法は、以下のとおりと説明されています。

「年金額×生活費控除率×平均余命までのライプニッツ係数」

しかし、実は自賠責保険での年金受給者の死亡逸失利益の算定方法によると、この一般的な算定方法よりも高額になることが多いことはあまり知られていません。
そして、自賠一括対応を行う相手方任意保険会社は自賠責基準を下回る算定はできないので、高齢年金受給者の死亡事故では、訴訟を提起した場合、相手方任意保険会社との示談交渉で提示された死亡逸失利益の額を下回る恐れがありますのでご注意ください。
以下、具体的に説明します。


自賠責保険の年金受給者の死亡逸失利益の算定方法は?


自賠責保険に対し被害者請求をした際に支払われる自賠責保険金は、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年2月21日金融庁国土交通省告示第1号)にしたがい算定されます(以下「自賠責支払基準」といいます)。
そして、自賠責支払基準第4・2(2)では、年金受給者の死亡による逸失利益の算定方法について、以下のとおりとしています。

『(1)にかかわらず、年金等の受給者の逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)を乗じて得られた額と、年金等から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における平均余命年数のライプニッツ係数(別表 Ⅱ-2)から死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を差し引いた係数を乗じて得られた額とを合算して得られた額とする。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。』

つまり、自賠責では年金の逸失利益のほか、就労可能年限までの平均賃金(73歳以上月額・男性¥282,000、女性¥236,500)を基にした逸失利益が認められることになります。ただし、年金の逸失利益は就労可能年限以降となります。


算定方法の違いでいくら変わるのか?


例えば、死亡当時の年金額200万円の被扶養者がいない78歳男性が死亡した場合の例で考えます。
(労働可能年限や平均余命、生活費控除率(被扶養者なし50%・支払基準第4・2(3))、ライプニッツ係数は自賠責支払基準にしたがうものとします。

自賠責支払基準では、78歳男性の就労可能年限は6年(係数5.417)とされ、平均余命は10年(係数8.530)とされており、78歳男性の平均賃金は月額¥282,000とされています。

上記の自賠責支払基準にあてはめて算定すると以下のとおりとなります。


自賠責支払基準前半の算定


自賠責支払基準前半の「年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)を乗じて得られた額」は、以下の算定になります。

¥282,000×12×50%(被扶養者なし)×5.417=¥9,165,564


自賠責支払基準後半の算定


後半の「年金等から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における平均余命年数のライプニッツ係数(別表 Ⅱ-2)から死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を差し引いた係数を乗じて得られた額」は、以下の算定になります。

¥2,000,000×50%×(8.530-5.417)=¥3,113,000


自賠責支払基準と一般の算定方法との金額の差は?


以上の1及び2を合算した金額である1227万8564円が自賠責支払基準での死亡逸失利益となります。
 
他方、訴訟を提起した場合、1を請求するためには就労可能年限まで就労可能性があることを証明しなければならず、年金生活をされている高齢者の方は今後就労する見込みがないことが通常ですので、1の就労を前提とした逸失利益は認められず、以下のとおり計算式のとおり死亡時から平均余命までの年金分の逸失利益853万円のみになります。

¥2,000,000×50%×8.530=¥8,530,000

以上の例では、高齢年金受給者の場合一般的な賠償基準額と自賠責支払基準では自賠責支払基準の方が1.5倍近く上回ることになります。


示談で解決するか訴訟を提起するかは十分な吟味が必要です。


以上説明してきましたとおり、自賠責基準を下回ることがない相手方任意保険会社との示談交渉では、受給していた年金額がよほど高くない限り死亡逸失利益については自賠責基準のとおりとして自賠責支払基準額で請求した方がかなり有利になることが多いのです。

そして、示談交渉が決裂した場合、訴訟を提起することになりますが、裁判所は自賠責支払基準には拘束されませんので(最判平成18年3月30日・民集60巻3号1242頁)、就労見込みがなかったとのことであれば、労働による得られる平均賃金を基にした逸失利益は認められず、年金分の死亡逸失利益しか認められません。

高齢年金受給者の死亡事故での死亡逸失利益については、相手方任意保険会社との示談交渉時は自賠責支払基準にしたがって請求し、示談に応じるか訴訟に移行するかは、訴訟を提起した場合、年金分の逸失利益しか認められない可能性も考慮して判断すべきだと考えています。


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