被害者側交通事故専門弁護士によるブログ
被害者請求に必要な準備と時間について
自賠責保険での後遺障害等級認定の方法として、被害者が直接自賠責保険に申請する被害者請求(自賠法16条に基づく請求なので、賠償実務上「16条請求」ということもあります。なお、相手方任意保険会社が申請する事前認定は「15条請求」ということもあります)で行うことが一般化しつつあります。
その理由としては、被害者側で必要な資料を吟味して提出できる、認定された時点で自賠責保険金が支払われる等の被害者にとって大きなメリットがあるからで、当事務所では設立以来、全件被害者請求で申請しています。
一方で、事前認定と違い、被害者請求の場合、必要な書類をすべて被害者側で揃えなければならないので、資料収集のに手間と時間がかかります。
弁護士に後遺障害診断書を送ったのに、後遺障害申請までなぜそんなに時間がかかるんだろうと疑問に思われる方も多いと思います。
そこで、被害者請求にあたって弁護士がどのような準備をして、結果が出るまでどのくらいの時間がかかるか以下詳しくご説明します。
なお、後遺障害申請後であれば、調査を担当している自賠責調査事務所担当者に電話をして確認すれば、現在どのような状況であとどの程度時間がかかる見込みかを教えてもらえます(弁護士に委任している場合は弁護士を通じてお願いしてください)。
必要な時間は事案によって全く異なりますので、あくまでも一般論として捉えていただければ幸いです。
被害者請求申立前の準備期間
必要な期間:症状固定日から申請まで1か月乃至6か月(概ね2乃至3か月程度)
後遺障害診断書の作成期間
まず、後遺障害認定には、自賠責後遺障害診断書が必須です。
当事務所では、症状固定近くになったら、主治医の先生宛に当該事案に即した留意事項を記載した書面を送付して、後遺障害診断書を作成いただいています。
主治医の先生によっては症状固定時点ですぐに記載いただける場合もありますし、数か月経ってもなかなか記載いただけない先生もいますので、後遺障害診断書を作成いただくまでの期間分の時間がかかります。
後遺障害診断書の修正期間
当事務所では、いただいた後遺障害診断書を隅々までチェックして、問題があるような場合、主治医の先生に修正をお願いすることになります。
良くある修正依頼内容は、症状固定日や自覚症状、所見や検査結果の記載漏れや不適切記載、関節可動域の不適切測定(必要な運動の測定方法漏れ、測定方法の誤りや左右差の記載ミス)、症状の緩解欄等の不適切記載等になり、修正や加筆をお願いすることも多々あります。
その修正のための期間分時間がかかります。
必要な検査の実施期間
症状固定とされ後遺障害診断書が作成されていたとしても、後遺障害認定に必要な検査を実施いただいていない場合があります。
その場合、改めて検査を受けていただき、その結果を診断書類に記載いただく時間も必要になります。
(経過)診断書・診療報酬明細書取付期間
相手方任意保険会社が治療費を支払っていた場合、病院から保険会社に毎月自賠責用の(経過)診断書と診療報酬明細書(レセプト)が送られています。
被害者請求にあたっては、すべての病院の全入通院期間分の(経過)診断書と診療報酬明細書(健保通院の場合は領収書と診療明細書で足ります)の写しが必要になりますので、相手方任意保険会社からこれら書類の写しをいただかなくてはなりません。
ただ、当月分の書類は当月末日以降に保険会社に送付されますので、書類が相手方保険会社に届くのは、早くても症状固定日の翌月になります。
また、大きな病院では、これら書類の送付に数か月かかることもあります。
他方、書類がそろっているにもかかわらず、相手方保険会社担当者が送付を忘れていることも間々あります。
健保や労災などの社会保険を利用した通院の場合、経過診断書が作成されていないことも多く、その場合は被害者側で直接病院に作成をお願いすることになります。
また、相手方保険会社から送付いただく診断書や診療報酬明細書の写しが初診時から症状固定日までしっかりと繋がっていないことは良くありますので、その場合も追加送付依頼をしたり病院に作成を依頼することになります。
このように相手方保険会社や病院からの(経過)診断書や診療報酬明細書の取付に時間がかかることがよくあります。
画像や検査結果の取付期間
被害者請求申立後に調査事務所から追完指示がありますので、申立時にすべての画像や検査結果をそろえる必要はありませんが、当事務所では、事前に画像や検査結果をチェックするために、できる限り事前に画像や検査結果を取り付けたうえで、被害者請求を行います。
各病院に画像や検査結果の送付依頼を行いますが、対応が遅かったり、診療記録の開示に当たり細かな書類を徴求する病院もありますので、その分時間がかかります。
被害者請求から結果が出るまでの期間
必要な期間:簡易な事案で1乃至3か月
難易度の高い傷病や重傷事案、既往症事案等で3乃至6か月
長いと1年近くかかることも
以上のような準備期間を経て、すべての書類がそろったら自賠責保険宛に被害者請求を行います。
窓口となる自賠責保険では形式的な書類の審査を行い、問題なければ各地の自賠責調査事務所に書類を送付し、自賠責調査事務所で後遺障害認定を行います。
簡易な打撲・捻挫事案などでは、早いと1乃至2か月程度で結果が出ますが、書類の追完や修正が必要だったり、調査事務所が事故調査や医療調査を行ったり、難易度が高い事案では地区調査事務所から本部調査事務所に移管される場合などに時間を要することになります。
特に医療調査を行う際に、医療機関の回答が遅く時間がかかる場合が良くみられます。
最近では、新たな診断書の作成や検査が必要で時間がかかる場合、自賠責保険での被害者請求の受付を取り消され、書類がいったん返却されることもあります。
なお、忘れている調査担当者も中にはいますが、調査に時間がかかる場合、1乃至2か月程度に1度調査状況が記載された書面が届きます。
また、傷跡等の醜状障害の後遺障害では、原則として自賠責調査事務所での醜状面談が実施されますので、その分時間がかかります。
調査事務所での後遺障害認定調査が終わると、自賠責保険に結果が送られ、自賠責保険から被害者側に対し、認定等級やその理由が記載された後遺障害等級認定票(非該当の場合は支払い不能通知)が送付され、認定された後遺障害等級にしたがった自賠責保険が支払われます。
被害者請求から異議申立てまでに要する時間
概ね2乃至6か月程度
被害者請求の結果に不服がある場合は、異議申し立てを行うことになりますが、そのための準備期間が必要です。
当事務所では、弁護士が異議申立ての理由を詳細に記した異議申立書を作成しますが、詳細な医療記録の分析、新たな資料や医師の意見書等を必要としない場合、概ね1乃至2か月程度で異議申立てを行います。
他方、被害者請求の結果によっては、診療記録を取り寄せ詳細な内容の検討が必要になったり、新たに検査をしたり、医師面談や医師の意見書や鑑定書を作成いただく必要があります。
その場合はこれらの調査や検査、意見書等作成のために相当程度時間が必要になります。
異議申立てから結果が出るまでに要する時間
概ね3乃至6か月程度
異議申立ての場合、専門部会で審査され、ほとんどの事案で医療照会が行われますので、被害者請求よりも時間がかかることが一般的で、少なくとも結果が出るまで3か月程度はかかります。
自賠責調査事務所での異議申立ての調査結果が出ると、被害者請求時と同様に認定等級と理由が記載された後遺障害等級認定票(もしくは非該当通知(自賠責保険支払不能通知))が自賠責調査事務所に送付され、後遺障害が認定もしくは上位等級が認定されると自賠責保険金が支払われ、認定票や支払不能通知が送付されてきます。
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