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愛知県弁護士会国際委員会が毎年実施しております、韓国光州弁護士会との親善交流会の共同セミナーにおいて、令和7年11月3日、光州弁護士会館大会議室において、弁護士丹羽が本年度愛知県弁護士会側の講師として、日本の交通事故賠償実務について講演を行いました。
光州弁護士会からは、キム・セムイ先生から韓国の交通事故賠償実務について講演をいただき、日韓の交通事故賠償実務について意見交換が行われました。

韓国の交通事故賠償実務は、自賠法の規定内容で日本と類似する部分も大変多いのですが、日本とは異なる面も多々あり大変興味深いので、以下キム先生の講演内容を基に、日韓の交通事故賠償実務の違いをまとめます。


第1 自賠法及び対人賠償Ⅰ・対物賠償(義務保険)


1 責任の内容及び範囲

韓国でも1963年に自賠法が制定され、運行供用者の無過失責任や運行供用者の範囲については同様に解されているようです。


2 義務保険の内容


自賠法により対人賠償Ⅰ(日本の自賠責保険に相当)への加入義務と日本とは異なり2000万ウォンを限度額とする対物賠償についての加入義務が認められています。
対人賠償Ⅰの補償限度額は死亡で1億5000万ウォン、後遺障害については、日本と同様に1級から14級までの後遺障害類型に分類され、1級1億5000万ウォン~14級1000万ウォンとされています。
なお、日本では傷害部分の自賠責の限度額は等級問わず120万円とされていますが、韓国では後遺障害等級に応じて1級3000万ウォン~14級50万ウォンとされています。


第2 交通事故処理特例法(起訴免除制度)


韓国では、任意保険(総合保険)への加入を促すため、交通事故処理特例法4条により、生命の危険が生じるような傷害や難治の疾病等を負わせた場合等を除いて、任意保険に加入している場合は過失致傷罪での公訴提起をされない(起訴免除)制度があるとのことです。
韓国の任意保険の加入割合は77~78%程度とのことです(日本の2024年3月末時点での加入率は、自家用普通乗用車83.2%、軽四輪乗用車78.1%)。


第3 対人賠償(総合保険)の主な違い


1 保険会社への直接請求

日本では任意保険会社を相手とした保険金の直接請求権は賠償額が判決等で確定した場合や契約者が死亡し他に相続人がいない場合に限り認められていますが(任意保険会社はあくまで「賠償義務者の代行」)、韓国では保険会社に直接請求するとのことです。


2 事故負担金制度


飲酒運転や無免許運転など重大な法令違反により事故を起こした者は、保険金を支払った保険会社に義務保険の限度で事故負担金を支払わなければなりません。


3 損害費目


治療費

後遺障害等級12もしくは14級に該当する傷病の被害者が、事故日から4週を超え治療が必要な場合、鑑定医による診断書所定の治療期間内のみ治療費が支払われるとのことです。


休業損害


韓国では休業損害という概念はなく、後遺障害逸失利益やその他の損害の中で判断されるとのことです。


後遺障害逸失利益


日本と同様に、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間の式で算定されます。
ただ、基礎収入は年収額ではなく、月収×稼働日数で算定され、稼働日数は規定されており、大法院2024年4月25日判決により従前の20日から22日に変更されたとのことです。
また、労働能力喪失率は、日本と同様に自賠法別表に記載されている1級から14級の後遺障害分類にしたがって決まっているようです
労働能力喪失期間については、67歳までとする日本とは異なり、大法院2019年2月21日判決で従前60歳までとされていたのが65歳まで引き上げられたとのことです。
中間利息控除は日本が採用する複利計算であるライプニッツ係数ではなく、単利計算であるホフマン係数を採用しているとのことです。


第4 過失割合


今回の講演では過失割合についての定め方や基準の説明は特になかったのですが、最近韓国ではドライブレコーダーの映像から過失割合を当てるテレビバラエティー番組(JTBCバラエティ番組『ハン・ムンチョルのブラックボックスレビュー』)が人気とのことです。


第5 損害査定士


韓国には「損害査定士」という保険業法で定められた国家資格があり、中立的な立場で損害額や過失割合を定めているとのことです。


第6 運転者保険


日本でも加害者となり刑事処分の対象となった場合の弁護士費用を保障する弁護士費用保険が販売され始めてきましたが、韓国では被疑者の弁護士費用だけでなく、被害者に支払った示談金や罰金等を填補する運転者保険があるとのことです。


まとめ


以上のとおり、日本と韓国の交通事故賠償実務では、自賠法の規定内容や後遺障害等級など共通点は非常に多いのですが、日本と違って韓国では損害の算定は損害査定士という専門家が行うことが大きく異なり、賠償費目や算定方法でも若干の違いが見られます。
また、韓国でも日本と同様に軽微事故での損害の拡大や整骨/接骨院(韓国では「韓医学病院」)の施術費の問題も起こっているとのことで、韓国側のように軽微受傷事案で一定期間を超える治療については鑑定医の診断書を要するとの扱いは参考になろうかと思います(ただ、鑑定医の診断書の乱発も併せて問題になっているとのことです)。
そして、被害者側弁護士という立場からは、加害者に一定の重大な過失がある場合に保険会社に求償させる制度は、日本でも問題となっている飲酒や無免許、スマホながら運転行為を抑止するという観点から日本でも検討に値すると考えますし、韓国では交通安全という視点で保険制度をうまく利用しているなという感想を抱きました。
他方で、日本でもインフレの進行により保険金額の見直しの議論が生じ始めていますが、名目GDPや物価が近接してきた日本と比較しても、韓国の保険金額はかなり低額という印象を受けました。

弁護士丹羽が今回特に興味深かったことは、バラエティー番組で過失割合を扱っているという点です。
テレビのバラエティー番組で実際のドライブレコーダーの交通事故映像から過失割合を扱うのはとても斬新ですし、以前「過失割合から考える安全運転」とのブログ(こちら)を公開しましたように、過失割合の内容を一般の方々にもに広く知ってもらい、もらえるお金が少なくなる過失割合を意識して運転すれば一般の方々の交通安全意識も飛躍的に高まると思いますので、日本でも早期に実現してもらいたいと願っています。

今回のセミナーの開催以外にも光州弁護士会の先生方には、親善交流会として昼食会から始まり、裁判所・法律事務所見学、レセプション、二次会まで盛大なおもてなしと数々の記念品をいただきました。
この場を持ちまして、講演の機会を与えていただきました、光州弁護士会現会長ハ・ジェウク先生を始めとした理事者の皆様やご出席及びご準備をいただいた皆様、そしてご準備や手配に奔走いただいた愛知県弁護士会国際委員会の皆様にこの場を借りて改めて感謝を申し上げます。



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