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東京海上日動メディカルサービス株式会社(以下「TMS社」といいます。)は、その名のとおり東京海上日動火災保険株式会社(以下「東京海上日動社」といいます。)の子会社であり、同社のHPの「サービス一覧」には明記されていませんが、交通事故賠償実務では、東京海上日動社を任意保険会社とする事案で、東京海上日動社の依頼により後遺障害等級認定を行ったり、同社側の主張の根拠となる意見書を作成することで良く知られています。

この度、TMS社が事前の後遺障害認定サービスにより上肢の肩関節機能障害第12級6号を認定したにもかかわらず、一転して訴訟では後遺障害非該当とする意見書を提出し、TMS社の判断内容に一貫性がなく疑義を生じさせる事案が生じましたので報告します。

事案の概要

事案は自転車同士の事故で、依頼者である被害者は右鎖骨遠位端骨折を生じ、右肩関節につき4分の3以下の可動域制限及び右前胸部から右上肢尺側部、第4、5指にかけてのしびれを残存したというものです。

相手方は東京海上日動社の自転車保険に加入しており、東京海上日動社は被害者の後遺障害についてTMS社に後遺障害等級認定を依頼し、その結果TMS社は「提出された医証等により検討の結果」後遺障害等級第12級6号を認定しました。


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実際の認定結果はこちら

その後本件は訴訟に移行し、今回相手方はTMS社の意見書を提出し、「画像所見などの他覚的所見は認められない」として後遺障害等級は非該当であると主張しました。


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実際の意見書はこちら

TMS社の判断や意見書の信用性に疑いが生じた理由

そもそも、意見書で新たに検討された資料はカルテと訴訟で提出された資料のみであり、事前の後遺障害認定サービスで検討された画像や診断書類は全く同じにもかかわらず、同じTMS社の判断が、なぜこのように真逆になるのか不可解です。

また、通常医師の意見書や鑑定書については、その内容の専門性を担保するため経歴や略歴が記載されるのが通常であるにも関わらず、この意見書には医師の氏名のみが記載され、経歴は全く不明です。
そこで、経歴を調査したところ、この医師は確かに日本整形外科学会に所属はしているものの、交通事故外傷とは無関係なかなり特殊な分野を専門としているようで、本件のような鎖骨骨折や骨折後の神経症状にどこまで精通しているか疑問が生じます。

また、意見書の内容についても、「整形外科専門医であれば、肩の可動域は簡単な目視で計測しても5度単位で計測可能と考えます」「日整会方式の測定方法は、可動域測定になれていないものが測定する場合の方法を述べているに過ぎず、ある程度の経験のある理学療法士や整形外科専門医であれば、そのような方法をとらなくても正確な可動域は測定できます」など、日整会で定められた測定方法を軽視しその信用性に疑義を抱かざるを得ない内容が散見されます。

特に、「リハ後の可動域が最も状態のよい可動域であることは明らかなので、後遺障害はこの最善の可動域で判断するのが医学的に妥当です」としている点は、リハビリ効果を見る医学上の見解は措くとして、賠償実務の観点からは問題だと思います。
弁護士丹羽は、賠償実務上も日整会でもこの医師のような「リハ後の最も良い可動域を測定すべき」などとしていませんし、賠償実務上の後遺障害は労働及び日常生活上の支障の内容及び程度という観点から判断されるものであり、当然のことながら労働及び日常生活は毎回リハビリ後に行うものではないので、リハビリにより一時的に改善された可動域で判断すべきではないと考えます。

何より、この意見書やTMS社の姿勢に疑義を呈しざるを得ないのは、この意見書が「画像所見、・・・などの他覚的所見は認められません」としている点です。
TMS社の後遺障害認定サービスでは、「提出された医証等により検討の結果」、可動域制限の原因が画像上も認められることから第12級6号を認定したにもかかわらず(可動域制限を生じる画像上の根拠がないなら第12級6号の認定はされません)、この意見書では画像所見を否定しています。
なお、相手方弁護士は訴訟において、TMS社の後遺障害認定サービスではカルテを検討していないために、誤って後遺障害を認定したと主張していますが、繰り返しになりますが、事前の後遺障害認定サービスでも同じ画像で判断していますし、カルテには特に画像所見について疑義を生じさせるような記載はありません。
弁護士丹羽には、同じ画像で判断しているにもかかわらず、このような真逆の主張を平然とするTMS社に公平性や中立性を感じ取ることはできませんし、本件のような事案で後遺障害なしとの意見書を作成した医師の医学的誠実性にも大いに疑問を感じています。

余談にはなりますが、この意見書では、「正中神経」を「正中新駅」、「烏口突起」を「烏江突起」、「屈曲」を「国曲」、「Ulnar」を「UInar」と記載するなど整形外科専門医であれば到底考えられない誤字が散見されており、本当に整形外科専門医が作成したのかとの疑いまで頭によぎらざるを得ませんでした。


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