被害者側交通事故専門弁護士によるブログ
健康保険利用の際の自賠責様式の診断書及び診療報酬明細書の作成について
健保使用の場合の自賠様式の診断書類の記載を病院から拒否された事案
当事務所では、これまで相手方保険会社からの治療費の打切り後、健康保険に切り替え通院を継続し、症状固定と診断されたケースで、健康保険を使用中の期間についても、自賠責様式の診断書及び診療報酬明細書の作成を病院にお願いし、病院にご協力をいただきその作成を拒否されたことはありませんでした。
しかし、今回、名古屋市内の病院で、健保使用期間中の自賠責用診断書の作成を拒否された事案がありました。
このような場合にいかなる対応が必要かをいかに説明します。
なお、交通事故の治療について健康保険を使用することは認められており(厚生省昭和43年10月12日保険発第106条)、被害者の方にも過失割合が認められる場合や、相手方任意保険会社からの治療費内払いの打切りがあった際などに広く利用されています。
また、ここでいう「経過診断書」とは、症状固定時点での症状内容を記載する後遺障害診断書とは異なり、上の画像のような、病院が保険会社に毎月提出している通院中に通院の経過や事実を示す診断書をいいます。
自賠責保険に対する被害者請求時に、自賠責用診断書や診療報酬明細書は必須なのでしょうか
結論から申しますと、自賠責用の診断書や診療報酬明細書ではなくても被害者請求は受け付けられます。
病院所定の経過診断書に、少なくとも「診断名」、「打切り後症状固定までの通院の事実」が記載されていれば、自賠責も受け付けると思われます。
また、病院所定の普通様式の診断書を後遺障害診断書として用いる場合には、少なくとも「事故日」、「症状固定日」、「入/通院期間」、「傷病名」、「自覚症状」、「障害内容の増悪・緩解の見込み」は必須事項であり、その他、残存症状が関節可動域制限であれば関節可動域の記載、骨折後の骨の変形であれば部位と変形の程度、醜状障害であればその部位と面積・長さなどの残存症状に応じた記載をしていただくことになります。
経過診断書や後遺障害診断書の記載内容で、追加で必要な事項があれば、自賠責もしくは調査事務所から直接追記指示があるので、その際、病院に追記していただければ宜しいかと存じます。
また、診療報酬明細書(レセプト)については、病院から健保請求用の診療報酬明細書の写しをいただくか、領収証及び診療明細書を添付すれば自賠責保険も被害者請求を受け付ける取り扱いをしています。
病院様式で経過診断書を記載いただく際の注意点
相手方任意保険会社から治療費の内払いが打ち切られ、その際まだ治療による症状の改善傾向がみられ、主治医の先生もまだ治療費が必要と判断している場合、打切り後健康保険に切り替えた時点ではまだ症状固定に至っていません。
にもかかわらず、この点を混同され、後遺障害診断書に治療費の打ち切りの時点を症状固定日と記載するケースが散見されます。
ですので、健康保険切替え後、主治医の先生に普通様式の経過診断書の記載をお願いする際は、後遺障害診断書に打切り日を症状固定日と記載しないようご注意いただくことが大切です。
そして、打切り後健康保険を利用した時点から症状固定と診断された日までの通院の事実を経過診断書に記載していただくことになります。
主治医の先生方が自賠責用の診断書類の作成を拒否される実益はあるのでしょうか。
確かに、健康保険を使用して通院している場合には、治療費を自賠責(任意保険会社への一括対応)に請求しているのとは異なりますので、自賠様式の診断書を記載する義務はなかろうかと思います(羽成守監修(2015)『Q&Aハンドブック交通事故診療 全訂新版』(株)創耕舎・89頁参照)。
ただ、いずれにしても医師の先生方には、医師法19条2項で原則として診断書作成義務が認められています。
そして、自賠責に対し被害者請求をする場合には、普通診断書であっても上記のとおりの記載をしていただく必要があるので、結局、記載内容は自賠様式の診断書を作成いただくのとさほど変わりはありません(その記載まで拒否されるとのことであれば、患者様の自賠責保険金の支払いを受ける権利が阻害され、患者の利益を著しく害することになります)。
また、自賠様式であっても必ずしもすべての項目を記載しなければならないわけではありません。
さらに、普通様式で作成いただいた診断書類に不備があるとして、自賠責保険から追記や修正を求められた場合、再度ご対応いただかなければならず、先生方に二度手間をおかけしてしまうリスクもあります。
医師の先生にフリーで同じ内容を普通診断書に記載いただくよりは、記載様式があらかじめ定まっており、そこを埋めていくだけの自賠様式の診断書を作成いただいた方が、結局のところ、医師の先生方の手間を省くことにつながるのではと個人的には思っています。
交通事故賠償実務では、医師の先生方に診断書類や意見書類の作成のお願いをすることが多々あり、何より大切な患者様の治療という本業の合間を縫って、大変なお手数をお掛けしていることを、本当に申し訳なく、また、有難く感じています。
交通事故賠償に関わる弁護士としても、できるだけ医師の先生方にご負担をお掛けしたくありません。
これからも、医師の先生方を始めとした医療従事者の方々に、できるだけ負担をお掛けしない方策を模索していければと考えています。
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