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当事務所では、設立以来、数多くの交通事故で重傷頭部外傷を負い高次脳機能障害を発症した方々へのお手伝いを差し上げて参りました。
高次脳機能障害という症例は、交通事故賠償実務側から医学会に働きかけがなされてきたという経緯から、以前は臨床の場面での理解が十分得られず見逃されることも多かったのですが、最近では脳神経外科・内科、神経内科、リハビリテーション科の先生方を中心に少しずつ理解が進んできた感はございます。
そして、本年(令和8年)4月1日からは高次脳機能障害支援法がいよいよ施行されます(令和7年12月16日成立)。

ところが、実際の交通事故賠償実務の現場においては、まだまだ作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士の先生方から総合的に脳機能の改善を図るリハビリテーションを実施いただき、かつ、医療ソーシャルワーカーや生活・職業指導員の方々から社会復帰に向けた支援をいただける体制が整い、高次脳機能障害を負った方が安心して受診できる診療機関は少ないのが現実です。

このように、交通事故で高次脳機能障害を負った方々については、事故後しっかりと症状を評価し、かつ、適切な治療を受けられる診療機関が少ないという点で大変な苦労をされている方々も多くおられます。
また、高次脳機能障害の社会的認知度が低く、また、「目に見えにくい」障害であることから、日常生活上も辛い思いや苦しみを味わわされることも多く見られます。

今回、凄惨な交通事故で重い高次脳機能障害を負い、それでも自分の人生を少しでも取り戻すため必死に前向きに生きようとする最中、社会から突き付けられたあまりにも酷い現実に絶望を感じた被害者の方をご紹介いたします。
高次脳機能障害に苦しむ方の生の現実を知っていただき、高次脳機能障害への社会的な認知度を高め、より多くの支援を受ける途に繋げていっていただければと心から望んでいます。

事故と被害者の方について

被害者の方は進学校に通い国立大学への進学を目指す高校3年生で、通学中青色信号にしたがい横断歩道を自転車で横断している際、右方から赤信号を無視した普通自動車にはねられました。

加害者は自動車部品メーカーへの通勤途中で、対面赤色信号を見落とし時速59キロメートルもの速度で被害者の方を跳ね飛ばしました。
加害者は刑事事件を通じて、一貫して赤色信号を見落とした原因として「ぼーっとしていた」というのみで、19キロメートルの速度超過の認識もなく、また、自ら被害者側に謝罪をしたことはなく、刑事裁判でも、被害者らに対して自分ができることはない、自分や家族のためにまた働きたいと述べるなど、極めて自己中心的かつ身勝手な弁解に終始しました。
また、加害者の勤務先の自動車メーカーでは、定期的に安全運転講習が開催され、この事故の10日ほど前にも参加していましたが、加害者は「毎回同じものが繰り返し使われるので流れ作業になり、しっかりと交通安全について考えられていなかった」と述べました。

他方、被害者の方はこの事故により自転車もろとも10メートルほど跳ね飛ばされ、現場でどうしても見つからなかった片方の靴は、10メートルほど離れた民家の2階の屋根からようやく見つかったほどの凄惨な事故でした。
被害者の方は意識不明の状態で病院に救急搬送され、駆け付けたご家族とはわずか30分ほど面会が許され、医師からは「もう目を開けることはないし、話すことも100%ありません。」と告げられました。
ところが、ご本人の強い生命力とご家族のまさに懸命な介護の甲斐により、事故半月も経過すると徐々に意識が回復し始め、医師からも「奇跡だ」といわれるほど意識を取り戻しました。

被害者の方は、幼少のころから環境保護のボランティア活動に従事し将来は公務員として環境保護にかかわっていきたいという夢を叶えるため、国立大学への進学を目標に高校と進学塾への通学をこなしていました。
事故後もその夢を絶やしたくないとの強い想いで、退院を早め、わずか事故から3か月半も経過しない夏休み明けには既に復学を果たしましたが、記憶・遂行・注意欠陥障害、めまい感、知覚・聴覚過敏、複視、体温調整不全等の症状により、お母様が教室まで送迎し、教室の移動は先生や友人らが付添い、授業中も集中力が続かず寝てしまうことも多く、直近の試験では、進学校の中でもトップクラスだった科目でも学年最下位や0点を取ってしまう科目もあるなど、学力は一気に落ちてしまいました。

その後、精神障害者保健福祉手帳3級の認定を受け、事故翌年に迎えた大学入試共通テストでは時間延長等の配慮を受け、何とか県内私立大学合格ラインに達し入学したものの、大学に通学するだけの対応能力がないと判断し、大学に無理を言って休学し、リハビリテーションの場として予備校に通いました。その翌年、合理的配慮の内容を増やし2度目の共通テストを受験し、事故前に志望していた大学よりランクを落としても国立大学の合格ラインには遠く及ばず、二次試験受験を諦め私立大学に入学しました。
被害者の方は、現在でも週2回の病院への通院をしながら、大学の配慮とご家族の援助を受けながら、休まず大学での学業に励んでいます。


自動車メーカーの対応と被害者の方が受けた社会的被害について


その折の令和7年8月、被害者の方はある自動車メーカーの障害者枠でワークショップが開催されることを知り、エントリーシートに障害に至った経緯や内容を詳しく記載したうえで参加を申込み、担当者2名によるWebでの面接に挑みました。
その際、被害者の方は、担当者のうちの1名からこのようなことを言われました。

「あなたの障害軽いですよね。」

被害者の方は唐突に思いもよらないことを告げられ、言葉を失い言い返すこともできず面接は終了し、結局そのワークショップには落選しました。
 
そもそも高次脳機能障害は自動車事故により生じることが多く、その大きな要因を作出している自動車メーカー側から、しかも、障害者向けのワークショップの採用担当者にもかかわらず、高次脳機能障害について全く無知で心無い言葉を投げかけられたことに、被害者の方は強い憤りを感じるとともに、自分を理解してもらえない絶望感や無力感を覚えました。
何より、その自動車メーカーは、あの自己中心的な加害者が通勤していた自動車部品メーカーの重要な取引先でもあることが被害者やそのご家族の方に更なる精神的な追い打ちをかけました。

弁護士丹羽は、お母様からその話を聞いて、これが事実であるとすれば、障害者差別的な発言にほかならず、まずはその自動車メーカーに事実関係を確認し、事実であれば何よりもまず被害者の方々にしっかりと謝罪し、社内及びその関連会社への高次脳機能障害への周知を図るべきだと考え、弁護士丹羽名義でその自動車メーカー本社宛に要望書を提出しました(実際の要望書はこちら)。


自動車メーカーからの回答


ところが、1か月経っても何の回答もなかったため、お母様が自動車メーカーにメールで状況を問い合わせると、自動車メーカー「お客様相談センター」からお母様宛に以下のメールが届きました(個人情報・固有名詞は削除しましたが、メール本文をそのまま引用しています)。


8月の選考面談にご参加いただき、ありがとうございました。

面談において、●様にご不快な思いとご心労をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。 また、私どもは、お問合せについて、弁護士の方も一般のお客様も変わりなきご対応をさせていただいておりますが、より一層丁寧な対応ができるよう努めてまいります。

先にいただいている、弁護士 丹羽 洋典 様のお名前の書簡について、丹羽様は交通事故の代理人は名乗られていたものの、選考面談の件に関しては、●様への直接連絡を求められており、●様の連絡先も記載されておりませんでした。そうした中で、面談のために取得した個人情報を利用して、●様に直接ご連絡することはかえって問題となりかねないことから、一旦ご対応を控えさせていただいておりました。

この度、面談を受けられた●様のお母さまからメールをいただいたことで、様子が見えてまいりました。ありがとうございます。

社内で事実関係を調べたところ、弊社 担当者からの「あなたの障害、軽いですよね。」といった発言は確認できませんでした。ただ、担当者の対応に関して●様がそのようにお感じになられたことについては、私どもとしても重く受け止めております。

常日頃より、障がいをお持ちの方やそのご家族の方のお気持ちに寄り添った対応を心掛け、努力を重ねているところではございますが、まだまだいたらぬ点もあろうかと存じます。引き続き、尽力してまいる所存でございます。何卒ご理解賜れますと幸いです。

今回の1Dayワークショップでは、ご縁がございませんでしたが、すでに別の催しについてのご案内を、ご本人様にお送りさせていただいております。今後とも、●をよろしくお願いいたします。

●お客様相談センター 【担当:●】


弁護士丹羽の想い


この自動車メーカーからの返信に対して、皆様がどう感じられたかはそれぞれの判断にお任せしますが、弁護士丹羽としては耐え難い怒りを感じました。

まず、長らく返信をしなかったことについて、個人情報の取り扱いを盾に言い訳をし、弁護士丹羽に責任転嫁させているかのような点に小賢しさを感じました。
また、担当者の「あなたの障害、軽いですよね」という事実を「確認できなかった」としてなかったかのようにし、「そのようにお感じたなられたこと」として、被害者の方の勘違いであるかのように処理しようとした点、「重く受け止めている」などと決して謝罪をしようとはしない点に、被害者に与えた深い傷に正面から向き合おうとしない、事なかれ主義的な姿勢を感じました。
さらに、このような被害を与えたにもかかわらず、平然と「すでに別の催しについてのご案内を、ご本人様にお送りさせていただいております。今後とも、●をよろしくお願いいたします。」などと書いてよこした点については、事の重大さを全く感じていないかのように思えます。

このような自動車メーカーの不誠実と思われる対応により、被害者の方やそのご家族は、事故の被害そのものだけでなく、自己中心的で身勝手な加害者、そして、この自動車メーカーからもひどい仕打ちを受けました。

被害者の方は、企業のワークショップに参加する意欲をすっかり失ってしまったとのことです。
おそらく、このメーカーの方が、直接被害者の方に「申し訳ございませんでした」と謝罪すれば、被害者の方やそのご家族の方の気持ちは晴れ、自分の人生を取り戻すために、気持ちを奮い立たせまた大きな一歩を歩みだす勇気が持てたかもしれません。
しかし、この被害者の方やそのご家族は、事故被害そのもの、身勝手で自己中心的な加害者、そして自動車メーカーという社会から3度にわたり甚大な被害を受けてしまいました。

実はこの背景には、弁護士丹羽が被害者の方のお母様に、これまでの依頼事件を通じて、大学1年生に酷い事故に遭い過酷な大学生活を過ごしたものの、人生の伴侶を見つけ幸せな人生を歩んでいかれた方、高次脳機能障害を負い研究者としての途が閉ざされかけた中、必死の努力で現在大学の教員として活躍をされている方、高次脳機能障害により障害者認定を受けたが、障害者枠で有名企業に就職し事故前よりも高い給与を得ている方などのお話を差上げたことで、勇気を振り絞ってワークショップに応募していただいたという経緯がございました。
それが、この自動車メーカーの障害者差別的な発言や事後の事勿れ主義的な対応により、このような私の良かれと思って差し上げた助言が裏目に出てしまったことに後悔と失望の念を抱き、被害者の方やそのご家族の方々に申し開きができないですし、今後の人生や将来が心配でなりません。


高次脳機能障害に苦しむ方々に、このような社会的被害を二度と生じさせないために


本年4月1日から、高次脳機能障害者支援法が施行されます。 同法では、社会への高次脳機能障害への理解を促進するとともに、患者様の自立や社会復帰への社会的な支援のための立法措置が講じられます(高次脳機能障害支援法についての詳細はこちら)。

この被害者の方以外にも、交通事故で高次脳機能障害を負い、賠償金では決して解決できないほど人生のどん底に叩き落された方もたくさんおられます。
それ以前の問題として、適切な診断を得られず見逃されしっかりと治療を受けられなかった方々、高次脳機能障害を発症したと診断されたにもかかわらず、画像所見がない、記録上受傷当初の意識障害がないなどとして、交通事故賠償上は高次脳機能障害として認められなかった方々など、悲惨な交通事故に遭い高次脳機能障害を負った方々には数多くの苦難が襲い掛かります。

本年4月1日からの高次脳機能障害支援法の施行により、高次脳機能障害の病態を社会一般に周知され、被害者やそのご家族の方々が、今回ご紹介させていただいたような社会的無知による二次・三次被害が加えられることなく、十分な支援を受け社会復帰が可能になり、安心し希望をもってまた前を向いて歩いて行ける社会が早期に実現されることを弁護士丹羽も心から願っています


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