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令和3年4月17日、東京都板橋区で歩行者を死亡させた自転車運転中のウーバーイーツ配達員が業務上過失致死罪で起訴されました。

近時、自転車が被害者になる交通事故だけでなく、自転車が歩行者や他の自転車運転車を死傷させる事故が多発しています。
その背景には、環境に優しく道路の整備が進み自転車の利用が広がったことに加え、ロードバイクなどの高速度の自転車の流行や、何より自転車を業務として利用し配達を行う配達員の急増があり、これらが社会問題化しています。

今回、朝日新聞デジタル版の記者さんから取材があり、弁護士丹羽のコメントが掲載(記事はこちら)されましたので、改めて自転車を利用した宅配業の問題点や本件の意義について述べます。


ウーバーイーツをはじめとした自転車を利用した宅配業の何が問題か


ご存じのとおり、ウーバーイーツに代表される自転車を利用した宅配業では、これまでのいわゆる「出前」とは異なり、配達そのものに報酬が与えられますので、これに従事する配達員は少しでも多くの報酬を得るため、より早く配達しようとする動機が生じます。
また、依頼主としても早く出来立てのうちに食料を届けてもらいたいという要望もあります。
すなわち、このスキーム自体が、もともと高速度で自転車を運転する動機付けになっています。

さらに加えて問題なのが、ウーバーイーツで導入されている「クエスト」という追加報酬制度です。
これは、個々の配達員に対し一定期間内での配達目標を設定し、これがクリアされれば追加報酬が払われるというもので、悪天候時に報酬が追加される「悪天候クエスト」というものもあります。

確かに、このような「クエスト」を設けることで、ゲーム感覚で配達の効率を上げるというのはうまいやり方だと感心さえしますが、他方、道路の安全面からはかなり問題がある制度であることは明らかです。

既に社会問題化しているとおり、信号無視や歩道や車道上での危険な運転など自転車の配達員の危険な運転を目にしたことはあると思います。
このように、自転車を利用した宅配業が、もともと道路交通法を無視し高速度走行するなどして歩行者等に危険を及ぼす可能性を内包しているだけでなく、事業者がこれを結果的に促進するようなスキームを構築していることは大きな問題です。

そして、何より、配達員は個人事業主と扱われ、資力のある事業者や店舗への責任追及は難しいので、仮に重大な事故を起こしても自転車保険や個人賠償保険に加入していなければ、賠償能力に問題が生じます。
他方、当然のことながら配達員自身の身の安全の問題もあります。


自転車宅配員の事故を減らすためには


まず、自転車は自動車と比して匿名性に長け、違反を検挙しにくいというのが、自転車運転者の違反を減らせない理由の一つと考えられます。
そこで、個々の配達員に自動車のナンバープレートのような識別番号を与え、外部から見やすい状態で識別番号を掲示することを義務付けることが、配達員の違法・危険な運転を抑止する最も簡易な方法となります。

違法・危険行為があれば、目撃者が識別番号とともに捜査機関や事業者に通報し映像を提出することで、捜査の対象とし、事業者はその行為者に減俸や依頼禁止措置などのペナルティーを科せば、悪質な配達員は減らせますし、また、何より配達員自身が見られているという意識をもつことで、順法精神を保つ効果は非常に大きいと考えられます。
このことは、本来事業者が最も重要視すべき配達員の安全を守ることにもつながります。
そして、そのような措置を講じる事業者は、法令を順守する意識が高い優良な事業者として社会的な信頼を得られるとも思われます。

どの事業者も自社の宣伝のため、大きな目立つデリバリーバックを供給しているのですから、その左右・後方に識別番号を振り、管理していけばいいだけの簡易かつ極めて効果的な施策です。

また、加害事故が生じた場合被害者に十分な補償をするため、配達に使用する自転車は賠償保険に加入することを義務付けることも事後の対策として必要です。
事業者が配達員として登録する際に、配達に使用する自転車を申告させ、防犯登録番号等で使用自転車を識別化し、その際、その自転車を被保険車両とする保険証券などを提出させ、請負の契約期間を賠償保険の有効期間に限ることも必須だと考えます。

通常、自転車の運転は、免許制度などの社会生活上の地位に基づかず、反復継続性も有しないとされるため、人を死傷させる事故を起こしても単純な過失致死傷罪の対象とされ、注意義務違反の程度が著しい場合などに限り重過失致死傷罪の対象とされてきました。
しかし、本件のような配達業務で自転車を利用していた場合に、配達員としての社会生活上の地位に基づいて、報酬を得て危険を伴う自転車の運転を反復継続して行うという点で「業務性」を認め、業務上過失致死罪で起訴した本件は、自転車を利用した配達業務従事者に対しより社会的非難に値するとした点で、評価できると考えられます。

このような業務を運営する事業者は、この事実を重く受け止め、「配達パートナーへの交通安全の啓発活動を強化する」などと、一方的に弱い立場の配達員の責めに帰するばかりでなく、生来的に社会的な脅威となる事業を展開する以上、上記のような強い手段を義務付けることで、利益一辺倒の社会の安全にとって害悪をもたらす存在から、配達員や社会の安全に十分配慮した優良な事業者として社会的に信頼される存在になって欲しいと願うばかりです。


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