massmedia

平成28年10月26日に一宮市で起きた、被告人川合信介がポケモンGOを操作しながらトラックを運転し、横断歩道を歩行していた則竹敬太君を死亡させた、過失運転致死罪の第2回公判が、平成29年2月14日午後1時15分から、名古屋地方裁判所一宮支部301号法廷(村瀬賢裕裁判長)で開かれました。
弁護士丹羽は、第1回公判に引き続き、則竹敬太君の父崇智さん及び母の被害者代理人として、本公判に参加しました。
本公判の内容及び公判後記者会見で父崇智さんが思いを述べた様子は、各テレビ局や新聞社などで全国的に報道されました。

第2回公判では、まず第1回期日で時間切れのためできなかった被告人質問が行われた後、父崇智さん及び母が被害者参加人として心情に関する意見陳述を行い、検察官が禁固4年を求める論告求刑を行った後、被害者参加代理人として弁護士丹羽が遺族の意向を受け過失運転致死罪の最高刑である懲役7年を求刑する弁論としての意見陳述を行い、被告人側の陳述を経て結審しました。
判決は、予定どおり平成29年3月8日午後1時30分から名古屋地方裁判所一宮支部301号法廷において、村瀬賢裕裁判長から言い渡されます。
以下、第2回公判の内容をお伝えしますが、その趣旨は第1回期日の内容をお知らせした際と同様です。


被告人質問


被告人質問では、弁護人側の質問が行われた後、検察官から被告人に対し質問がなされ、被告人は、改めて、横断歩道手前で横断歩道横歩道上に敬太君を含めた小学生数人がいて、横断歩道を渡ろうとしていたことを確認したこと、横断歩道手前に歩行者がいる際の運転者の一時停止義務は知っていたことをなどを認め、事故後敬太君の救護をしたと主張したことに関連して、事故後の敬太君の倒れていた向きなどの確認がなされました。

その後、弁護士丹羽が被害者参加代理人として被告人に対し質問をしました。
被告人は、主に下記のとおり回答をしました。
横断歩道手前28.7メートルの地点で横断歩道を渡ろうとする敬太君たちを確認した後、横断歩道手前にあるポケストップでアイテムをとるため、敬太君に衝突する直前まで3秒間程度スマホの画面をずっと見ていた
運転中にまでポケモンGoをするほどゲームにのめりこんだ理由は良くわからない
運転中にポケモンGoをしてはいけない警告は被告人にとって何の意味もなかった
ゲームのルールを無視して運転中にポケモンGoをしてレベルを上げていたことに何のうしろめたさは感じなかった
家族を乗せている時や一人で高速道路を運転する際は、危険なことはわかっていたので、スマホを使用したながら運転はしなかった
事故後敬太君に駆け寄ったというのは、携帯電話を持っていながら、敬太君の前を通り過ぎながら「大丈夫か」と声をかけたことである


崇智さんの心情に関する意見陳述


崇智さんは、40分間にわたり、涙を流しながらもしっかりとした口調で敬太君をこのような悲惨な事故で亡くした思いをお話ししました。
崇智さんがお話ししたことは主に以下のとおりです。

敬太君は、誰からも好かれ、ユーモア溢れ明るく礼儀正しく優しい家族にとって太陽のような存在であり、兄に倣って空手や水泳などのスポーツや習い事に一生懸命に取り組み、学業も頑張っていた
敬太君と兄は親友のように起きてから寝るまでいつも一緒にくっついてふざけ合い遊んだり勉強をしており、兄は先日のクリスマスのプレゼントについて「敬太を返して欲しい。サンタさんならなんとかしてくれないかな。」と話した
事故当日の敬太君やご家族の様子をお話しする中で、兄がぺちゃんこにつぶれた敬太君の水筒を「敬太の水筒が壊れちゃったんだよ。元に戻さないと使えないんだよ。」と懸命に力を込めて元に戻そうとしていた
被告人は常習的にながら運転をしており、敬太君が犠牲にならなければ他の誰かが犠牲になっていた可能性があることや、歩道上に居た兄や友達も一緒に横断歩道を渡っていたら、同じような目に遭っていたかもしれない
最も許せないことは、事故後敬太君に声がけすることも救護することもなく、携帯電話をしながら、不貞腐れた態度で現場をうろうろしていた
事故後もこの裁判でも被告人の反省の気持ちは全く伝わってこなかった
被告人は、ポケモンGOをしながら運転することは危険であり法に違反することを知りながら、自らの意思で、トラックを運転するや否やポケモンGOを起動させ警告を解除し、ポケモンGOをしながら運転し、横断歩道を渡ろうとする敬太君たちに気づきながら、自らの意思でポケストップでアイテムを捕るためスマホに目を落としたのであるから、単なる過失の交通事故では断じてなく、故意に敬太君の命を奪ったといっても過言ではない
それなのに単なるわき見運転と同じ「過失」として殺人や危険運転致死罪で処罰できないのであれば、過失運転致死罪の最高刑で罰することを強く望んでいる

崇智さんは、このような言葉を結びとしました。
「我々家族の唯一無二の願いは平成28年10月26日16時8分元気だった最愛の息子、元気だった、笑顔あふれ、ハロウィンを楽しみにしていた、誕生日を楽しみにしていた敬太を返してください。それが願いです。
「返せ 返してくれよ」なぜ我々の宝物敬太を奪ったのか。一番の被害者は痛かった怖かった思いをした敬太です。
そして我々家族も心に深い、深い傷を負い癒されることは一生ないでしょう。
臨終の時の敬太の顔、辛く、悲しく、悔い思いこの気持ちは自分の棺の中まで持って行くでしょう。
私には、被告人を許す日が来るのでしょうか。
きっと来ないと思います。
棺に入っても忘れないでしょう。
被告人は、保釈後、私たち家族には二度と叶うことのない、家族と一緒の今までと同じ生活しているかと思うと釈然としません。
今後は、重い、重い十字架を背負い一生をかけて償い続けることを願います。
唯一被告人に残された道はそれだけです。」


お母さんの心情に関する意見陳述


崇智さんに続いて、敬太君のお母さんが、涙を見せながらも静かに語りかけるように意見陳述を行いました。
お母さんは、事故後の敬太君の家族のそれぞれの様子や生活が一変したことをお話しし、最後にこのようなお話をされました。
「寂しいです。辛いです。苦しいです。涙が流れない日はありません。
連れていきたいところ、やらせてあげたいこと、見せてあげたいもの、聞かせてあげたいもの、たくさんたくさんあります。
敬太を敬太の未来を私たちに返してください。
私たちの宝物を、単なるゲームをしたいとの一時の欲求のために奪ったことを重く、重く受け止めてください。
敬太の友達の小学4年生の子がこんなことを言ったそうです。
「ゲームと敬太、敬太の方が大事だろ。敬太を返せ!」
本当にその通りだと思います。」


検察官の論告・求刑


検察官は、以下のとおり論告を行い、被告人に対し禁固4年の実刑判決を求刑しました。

自動車運転者にとって、およそあり得ないと考えられるほどの極めて基本的な注意義務を怠ったものであり、被告人の過失は極めて重大である
被告人は「スマホのながら運転」の常習者であった
「スマホのながら運転」が極めて危険であることは社会問題となっており、被告人もこのことを認識していたにもかかわらず、身勝手な欲望を優先し、交通安全に対する意識は極めて希薄である
本件事故は結果が極めて重大であり、被告人の過失も極めて重大であり、被害者遺族の心情も踏まえれば、それだけでも被告人の刑事責任は相当重い
「スマホのながら運転」の危険性について、社会に警鐘を鳴らすためにも、被告人を厳罰に処する必要がある。


被害者参加人代理人の弁論としての意見陳述


検察官の論告に続いて、弁護士丹羽が被害者参加人代理人として弁論としての意見陳述を行い、過失運転致死罪の最高刑である懲役7年を求刑しました。
陳述した主な内容は以下の通りです。

被告人にはスマホのながら運転の常習性や依存性が認められる
横断歩道手前で小学生が横断歩道と渡ることはないだろうと、スマホに目を落とした理由は自己中心的で身勝手な思い込み以外のなにものでもない
ながら運転の理由は極めて幼稚かつ全く必要性を欠くものであり、酌むべき事情も同情の余地もない
被告人には法を順守する規範意識が完全に麻痺している
被告人の行為は故意に比肩すべき重大な過失であり、実刑に処する程度に非難可能性は極めて高く責任は重大
事故の結果は敬太君や家族にとって凄惨かつ残酷
遺族らの処罰感情は峻烈であり、今後慰謝される見込みは全くない

そして、本件事故後のながら運転に対する立法や行政の具体的取り組みについて陳述し、徳島市、土岐市、京都市で起きたスマホのながら運転による死亡事故の判決を挙げ、今後も愛知県春日井市や福島県相馬市で起きた同様の事故の判決を控えていることを挙げたうえで、以下のとおり陳述しました。
「司法の場では、法と良心のみにしたがい量刑を判断すべきことはもちろんですが、以上のとおり、社会・政治の場のみならず、司法の場においても、ながら運転の危険性に対して厳しく対応していく姿勢が示されています。
今月8日にも、埼玉県草加市でながら運転により信号無視をしたトラックに、母子が轢かれ母が死亡するという、大変痛ましい事件が起こってしまいました。
これ以上、ながら運転による被害を増やしては断じてなりません。
裁判所におかれましては、社会的な注目度が非常に高い本件において、ながら運転を無くしたいとの敬太君の父の一途な思いや、敬太君の無念の死を決して無駄にはしないよう、そして、これに応えた社会的・政治的な流れを止めることのないよう、司法としても、ながら運転に対して厳しく処断する姿勢を引き続き明確にし、「ながら運転をなくし、これ以上敬太君や遺族のような思いをする人を増やさない」との社会に対する強いメッセージになるような大義ある判決を強く望むものであります。」


シェアする