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はじめに

ポケモンGOによるながら運転により敬太君を死亡させた本件については、事故当初から社会的に多くの注目を集め、名古屋地方裁判所一宮支部(村瀬賢裕裁判長)で平成29年1月10日に開かれた、被告人に対する過失運転致死罪の第1回公判期日から本公判の内容は広く報道されており、平成29年3月8日に下された、被告人に下された禁固3年の実刑判決の内容や父崇智さんの記者会見の様子については、判決言渡し直後からテレビやマスコミで大きく報道されました。
弁護士丹羽は被害者参加人代理人として本公判に参加しましたが、この判決の内容・社会的意義、ポケモンGOをしていたことが量刑にどう影響したのか、その他のポケモンGO死亡事故との比較など、法律家の立場と一般市民としての立場から詳しく解説していきます。

第1回公判の様子

第2回公判の様子


判決の内容


本公判では、検察官は禁固4年、被害者参加人は過失運転致死罪の最高刑である懲役7年を求刑しました。
これに対し、判決は、被告人に対し禁固3年の実刑判決を言い渡しました。
判決は量刑理由の中で、主に下記事実を指摘し、「本件は被害者1名の過失運転致死の事案としては非常に犯情が悪く」として被告人を断罪しました。
・犯行の結果は、前途あるわずか9歳の敬太君の死亡であり、過失運転致死の中でも被害者1名の事案としてはこの上なく重い
・事故現場は、住宅街の中にある信号機のない交差点の横断歩道で、小学生らが下校する時間帯であり、特に注意すべき時間帯及び場所である
・横断歩道手前約35.3メートル手前で横断歩道脇に小学生らがいることに気づいていたにもかかわらず、自動車の運転には全く必要のないゲームをするために約3秒間も前方注視という自動車運転者として最も基本的な注意義務を怠っており、過失の態様は非常に悪質
・被告人に交通違反歴があること
・ゲームをしながらの運転を日常的に繰り返し、これにより事故が起きた旨の報道を見聞きしたこともあったのに、他人事としてのみとらえてその後も同様の運転を繰り返しており、交通法規や安全性に対する意識の乏しさが顕著であり、本件はまさに起こるべくして起きた事故
・遺族感情が非常に厳しいのも当然


法律家としての立場から


被害者参加人代理人の立場からの本判決の評価

まず、被害者参加人代理人の立場から、この判決では、被害者参加代理人として意見陳述の中で訴えた、被告人のゲームに対する常習性・依存性、本件犯行に至った自己中心的で身勝手な思い込み、ゲームをしたかったという幼稚かつ全く必要性を欠き同情の余地もない動機、規範意識の完全な麻痺、反社会的な性格、社会内での矯正不可能、故意に比肩すべき重大な過失と非難可能性、結果の凄惨・残酷性、処罰感情が峻烈などについて、ほぼ評価されています。
そして、意見陳述の中で訴えた、
「これ以上ながら運転による被害を増やしては断じてなりません。裁判所におかれましては、社会的な注目度が非常に高い本件において、ながら運転を無くしたいとの敬太君の父の一途な思いや、敬太君の無念の死を決して無駄にはしないよう、そして、これに応えた社会的・政治的な流れを止めることのないよう、司法としても、ながら運転に対して厳しく処断する姿勢を引き続き明確にし、『ながら運転をなくし、これ以上敬太君や遺族のような思いをする人を増やさない』との社会に対する強いメッセージになるような大義ある判決を強く望むものであります。」
との遺族側の強い願いに十分応え、今後社会に対しスマホ使用によるながら運転に対し司法としても厳しく処断するというメッセージになり得るまさに「大義ある判決」と評価できるといえます。

そして、遺族らも最低でも実刑判決との思いで本公判に臨んでいましたので、執行猶予を付さず実刑判決でしかも禁固3年の量刑を下したという点で評価できるものといえます。
その意味で敬太君の父崇智さんも記者会見の場で「実刑判決という点では評価できる。」とお話しされました。
しかし、崇智さんをはじめとした敬太君を亡くした遺族や法律家以外の皆様にも本当に納得してもらえる判決なのでしょうか。
この点については、下記「一般市民としての立場から」で詳しく述べます。

過失運転致死罪の量刑

自動車を運転して過失により人を死亡させた過失運転致死罪では、一般に執行猶予が付されることが多く、事故態様によっては略式起訴により罰金刑が言い渡されることもあります。
そのため、法律家の視点からは、本判決は初犯の被害者を1名とする過失運転致死事件の量刑としては、結果だけを見れば一応「重い」ということができます。
それでは、何故このように「重い」判決が下されたのか、過去の判例に照らして本当に「重い」のか、以下検証していきます。
まず、最近の過失運転致死事件の判決を見ていきます。


近時の過失運転致死罪の実刑判決


山口地方裁判所平成28年8月31日判決
高速道路を中型貨物自動車を運転中、足元に落ちたペットボトルに気を取られ、渋滞停止中の乗用車に追突し計5台を被害車両とする玉突き事故を生じ、3名を死亡させ7名に傷害を負わせた被告人に対し、禁固3年6月(求刑4年6月)の実刑判決が下されました。

静岡地裁浜松支部平成27年12月3日判決
大型トラックを運転中に眠気を催したものの9㎞にわたり走行し続けたため仮睡状態に陥り、前方の自動二輪車に追突し、さらにトラックや普通車2台を被害車両とする玉突き事故を生じ、1名を死亡させ5名に傷害を負わせた被告人に対し、禁固3年(求刑5年)の実刑判決が下されました。


近時の過失運転致死罪の執行猶予付判決


仙台地裁平成28年7月29日判決
赤色点滅信号に気付かず交差点に直進侵入し、左方から来たタクシーに衝突しタクシーの運転手及び乗客を死亡させた被告人に対し、禁固2年6月・執行猶予3年を言い渡しました。

仙台地裁古川支部平成28年6月28日判決
高速道路上で自車を停車させ後続車を自車に追突させ、さらに後続車にトラックを追突させ、2人を死亡、1人に傷害を負わせた被告人に対し、禁固2年2か月・執行猶予4年を言い渡しました。

前橋地裁高崎支部平成28年6月27日判決
駐車場内でペダルを踏み間違え、道路上に自車をはみ出させ、集団登校中の児童1人を死亡、1人に傷害を負わせた被告人に対し、禁錮3年・執行猶予4年を言い渡しました。

徳島地裁平成28年5月30日判決
敷地内から道路に出るため、普通貨物自動車を後退させ、全盲の被害者に衝突させ、死亡させた被告人に禁固2年・執行猶予4年を言い渡しました。

静岡地裁平成28年4月12日判決
交差点を右折する際、青色信号にしたがい横断歩道上を渡っていた児童に自車を衝突させ、児童1人を死亡、1人に傷害を負わせた被告人に対し、禁固3年・執行猶予4年を言い渡しました。


本判決は本当に「重い」のか?


1 犯罪行為の結果から

本件では、9歳11か月の敬太君が楽しみにしていた10歳の誕生日を目前に命を奪われたのですが、この点について、判決では「前途ある9歳の児童の死亡というものであるから、過失運転致死の中でも被害者1名の事案としてはこの上なく重い」と述べています。
決して人の命に軽重があるわけではありませんが、お母さんが意見陳述で「連れていきたいところ、やらせてあげたいこと、見せてあげたいもの、聞かせてあげたいものたくさんあります。」とお話しされたとおり、敬太君にはこれからも夢に満ちた明るい人生が待っているはずでした。
そのため、本判決では、敬太君が9歳であったことは、被告人の刑責を重くする事情となっています。

一方、上記の2件の執行猶予付き判決のとおり、児童を死亡させたとしても直ちに実刑判決が下されるわけではありませんし、5名に傷害を負わせたものの1名を死亡させた事故でも3年6月の実刑判決が下されていますので、死亡者1名であることやその年齢が、直ちに実刑と執行猶予をわける基準になったわけではありません。


2 犯罪行為の態様から


私は、本件で実刑判決になった決定的な理由は、犯行態様にあると考えています。
すなわち、本件で被告人が最も悪質なのは、被告人は、下校時間に通学路でもある横断歩道手前に敬太君を含めた下校途中の小学生の集団がいることを横断歩道の手前35.3メートル手前で気づきながら、小学生の集団が横断歩道を渡るつもりであることも分かっていながら、スマートフォンを操作するため3秒間も前方を注視しなかったため、横断歩道を渡る敬太君に気付かず、敬太君を轢き殺したという犯行態様です。

要するに、上記の執行猶予付き判決とは異なり、赤色点滅信号に気付かなかったとか、ペダルを踏み間違えたとか、後退時や右折時に被害者に気付かなかったなどの、その時の自らの認識ではどうしようもなかった消極的な過失行為とは異なり、横断歩道を渡ろうとする敬太君がいることに気づきながら、自らの意思でポケモンGOを操作し、敢えて前方不注意を行ったという積極的な行為の悪質性が本判決が「重く」処断した本質的な理由だと思います。

だからこそ、本判決では、「ゲームのためにスマートフォンの画面の方に視線を写し、左手の人差し指でその画面に触れて画像を切り替えた上その指を画面上で左右に動かすなどして、約3秒間も前方不注視の状態を続けたため、」と被告人が前方不注視をした理由を事細かく認定し、被告人が自らの意思で前方不注視をしたことをしっかりと判決理由で挙げているのです。

上記浜松支部の判決が実刑判決になった理由も、9キロ手前で眠気を催したにもかかわらず、運転を継続したため、仮睡状態に陥り犯行に及びました。
すなわち、このケースでも、眠気を催したのであれば休憩をとったり仮眠すべきところ、自らの意思で運転を継続したという点の非難可能性の大きさから、実刑判決になったと考えられます。

崇智さんは、「被告人は、ポケモンGOを運転することは危険であり法に違反することを知りながら、自らの意思でトラックを運転するや否やポケモンGOを起動し警告を解除し、横断歩道を渡ろうとする児童に気付きながら、ポケストップでアイテムをとるため、自らの意思でスマホの画面を注視し運転を続けたのであるから、故意の殺人といっても過言ではない。」とずっと話してきましたが、本件は消極的な単なる過失とは違うということをずっと訴え続けたのであり、本判決はその思いに十分応えたものなのです。


3 ポケモンGOをしていたという点は量刑にどのように影響したのか


それでは、本件で被告人がポケモンGOをしていたとの事実は、量刑判断にどのような影響を与えたのでしょうか。


(1) 犯行に至った動機の点

被告人が、運転中ポケモンGOをしていたとの事実は、犯行の動機に酌むべき事情や同情の余地がない全くない点で被告人を重く処罰する理由になっています。
すなわち、車を運転するに際して、ポケモンGOをしなければいけない理由などありません。
これが、例えば営業車を運転中に営業に関して急ぎの電話がかかってきて、スマホを操作しなければならなかったなどの事情があれば、被告人にも多少の酌むべき事情や同情の余地はあるかもしれません。
この点で、本判決も「自動車の運転には全く必要のないゲームをするために」述べ、ポケモンGOなどのゲームを行っていた事実を被告人を重く処罰する量刑事実に挙げています。


(2) ゲームの性質の点

ポケモンGOの遊戯方法は、スマホの画面を見て画面を指でタップ、スライドするなどしてアイテムやモンスターを獲得するものであり、また、プレイヤーは獲得したアイテムやモンスターを目視で確認したくなる性質をもっています。
そのため、運転中にポケモンGOを遊戯することは、意識的もしくは無意識にスマホの注視を余儀なくされ、前方注視がおろそかになるものです。
この点は、犯罪行為の態様の点と表裏一体ですが、運転中にポケモンGOをしており、その結果としてスマホの注視、すなわち前方不注意を誘発する極めて危険性の高い過失行為を行った点で犯情が悪いと判断されています。

そのため、犯罪行為の態様でも述べたとおり、本判決でも前方不注視の態様を事細かく挙げ、また、徳島市の判決でも、「運転中、携帯電話機でゲームを起動・継続し、その画面が最終接触から30秒ごとに暗転することを回復させたり、ゲームの表示を確認するなど、断続的に画面に注意を向けていたものであり、その危険性は高度であって」とスマホを操作していた事実が詳しく述べられています。

ただ、注意しなければいけないのは、このように過失の態様が悪質とされた点は、何もポケモンGOをしていたこと自体が特に危険であったというよりは、ポケモンGOをしていた結果危険な運転行為を行ったと捉えるべきで、他の携帯ゲームやスマホの操作でも同様の危険性を有することはいうまでもありません。


(3) 社会的背景事情

平成28年7月に日本でポケモンGOが配信される前後を通じて、多くのマスコミで、運転しながらポケモンGOをする可能性やその危険性が指摘され続けてきました。
そして、配信以来運転中にポケモンGOをしていたことによる交通事故が多発していたことも報道されていました。
本件では被告人も、事故が多発しておりポケモンGOをしながら運転することが危険であることを知りながら、常習的に運転しながらポケモンGOをしており、その折本件犯行に及んだことで、被告人は法規範を遵守する意識が欠如しており、より法的非難の可能性や責任が重いとされています。

本判決でも、「以前からゲームをしながらの運転を日常的に繰り返し、そのような運転で交通事故が起きた旨の報道を見聞きしたこともあったのに、他人事としてのみ捉えてその後も同様の運転を続けていたというのであるから、交通法規や安全性に対する意識の乏しさが顕著であって、本件はまさに起こるべくして起きた事故である。」と断罪しています。

また、同じく京都市でのポケモンGO死亡事故判決でも、「被告人は、前記アプリケーションについて、その操作に起因する事故が多発し、死亡事故も発生していることを認識していたのであるから、厳しい非難に値する」と論じています。


(4) 一般予防の点

一般予防とは、犯罪者に刑罰を科すことにより、社会一般に警告を発し、犯罪の発生を予防する役割をいいますが、日本の刑事裁判でも、社会に対する影響という見地から、一般予防の目的を刑罰に含めています。

本判決では直接的に量刑事実に挙げられていませんが、ポケモンGOのみならず、スマホのながら運転やこれによる事故が依然多発している社会的事実にかんがみれば、本判決においても、徳島市・福島県相馬市の判決に引き続き、被告人を実刑判決に処し、一般予防の見地から、裁判所はスマホのながら運転に対し警告を発したと解することが妥当と思われます。


(5) その他の点

ポケモンGOをしていた点に関わるその他の量刑事実については、本判決では、「以前からゲームをしながらの運転を日常的に繰り返し」として、被告人が常習的にポケモンGOしていたことが挙げられており、偶発的な事故に比して常習的な行為は非難可能性が強いことから、被告人を重く処罰する理由とされています。

また、判決理由が「被害者の遺族らの感情が非常に厳しいのも当然」としているとおり、何より大切なわが子がひき殺された理由が、ポケモンGOをしていたとのことであれば、遺族の処罰感情が峻烈なものにならざるを得ないことは火を見るよりも明らかです。
そのため、ポケモンGOをしていたことは遺族の厳罰に処して欲しいとの処罰感情に大きな影響を与えており、これが被告人を重く処罰する理由になっています。


4 まとめ


以上の点から、本判決は「ポケモンGOによる死亡事故だから重く処罰した」などの単純な理由ではなく、犯行態様が非常に悪質であることを主として、結果の重大性や動機に酌むべき事情がないこと、危険であることが周知されていた中での犯行であることや、一般予防の見地も加味されたうえでの実刑判決であることがわかります。

法律家の中でも、本判決は「極めて重い」、また、「過去に裁かれた人との不平等がある」などの論評も見られますが、このように、量刑事実を子細に分析していけば、本件ではその他の過失運転致死罪の量刑のバランスを崩し「不平等」である程の「重い」判決だとはいえず、むしろ当然の量刑であり実刑判決であったと考えられます。
本判決が不平等な程度に「重い」という人は、過失運転致死罪の量刑の外観のみを見て「森を見て木を見ず」議論をしているのではないかと感じられます。

被告人は、本公判で、「私のしたことがどのようなお叱りをうけても仕方がないこと」、「この先、一生償いの気持ちを持ち続ける。」と述べました。
被告人のこの言葉が本当の気持ちであるならば、本判決に対し控訴しこれを争うことなく、本判決にしたがい実刑に服するのが筋なのではないかと思っています。


一般人の立場から


以上のとおり、法律家の立場からは本判決の量刑は決して「重い」とはいえず、妥当であるように思えますが、一般人の立場からはどのように捉えるべきでしょうか。


近時の懲役・禁固3年前後の実刑判決


本判決で下された禁錮3年の実刑判決がどの程度の重さかを知るために、近時、過失運転致死罪以外のどの程度の犯罪行為に対し懲役3年程度の判決が下されているかを概観します。
下記事案は、いずれも前科は認定されていない初犯の事案になります。

京都地裁平成28年6月17日判決 強制執行妨害目的財産損壊罪
強制執行を妨害する目的で海外に40億円を送金した被告人に対し懲役3年を言い渡しました。

東京地裁平成28年6月28日判決 詐欺罪
国の補助金対象事業につき、業務請負の事実がないにもかかわらず、これがあるかに装い勤務先の大学から2000万円余りをだまし取った大学教授に懲役3年を言い渡しました。

大阪地裁平成28年6月29日判決 有印公文書偽造等、業務上横領罪
3度に渡り偽造の判決書等を作成したうえで依頼者に交付し、2800万円余りの保管金を横領した
弁護士に対し懲役3年を言い渡しました。

京都地裁平成28年9月14日判決 傷害致死罪
口論中に抱きついてきた実父を振り払ったうえ右腰部分を左膝で蹴って転倒させ、脊髄損傷により死亡させた被告人に懲役3年を言い渡しました。

東京地裁平成28年9月30日 強制わいせつ致傷等
路上で女性を押し倒し身体を触り下着を強奪し、また、別の女性に同様の行為により左肘挫創等の加療3か月を要する傷害を負わせた被告人に対し懲役3年6月を言い渡しました。  


一般人の感覚から、本件で禁錮3年の実刑判決は納得できるのか


近時の懲役3年前後の実刑判決は以上のとおりですが、これら判例との比較から考えて、過失行為とはいえ本件で被告人に禁錮3年の実刑判決が処せられたことは、一般人の感覚から妥当といえるでしょうか。

上記判決はいずれも故意犯であり懲役刑と禁固刑の違いはありますが、40億円を海外に送金し強制執行を妨害した被告人、2000万円をだまし取った大学教授、判決書を偽造し2800万円を横領した弁護士、抱き着いてきた実父の腰を蹴った結果殺してしまった息子、2人にわいせつな行為をし下着を奪った被告人と、横断歩道の直前でポケモンGOをし前途ある9歳の敬太君をひき殺した本件被告人と同じ刑期であることに皆様は納得いかないことと存じます。

もし、私の子が同じ目に遭い、被告人が最大で3年の刑期に服した後、社会復帰してまた元の生活に戻ってくるなどと考えたら、平常心では到底いられません。
崇智さんやご遺族の方々は本当にこの苦しみや報われない無念さや辛さに耐えておられることと思います。
私が同じ立場であれば、愛する子を轢き殺された悔しさは、被告人が死刑になっても晴らされないと思います。
ただ、これだけのことをし敬太君の命を奪った被告人が最長でもたった3年で社会復帰することに、一般人の感覚でいうなれば、私自身到底納得することなどできません。
崇智さんは、本判決に対し「3年というのは率直に言ってあまりにも軽すぎる」とお話しされましたが、当然のことです。


置き去りにされた被害者や遺族の方々


刑事裁判では、被害者や遺族の方々は刑事裁判の当事者となれず、裁判外に置き去りにされていました。
その結果、これまで被害者や遺族感情に反し、加害者の人権のみが強調された判決が下されてきたという事実があることは否めません。
特に過失運転致死罪(業務上過失致死罪、自動車運転過失致死罪)では、過失行為という側面が強調された結果、大切な家族を亡くされた遺族の気持ちを逆なでする判決が下されてきました。
その理由の一つとして挙げられるのは、平成12年まで自動車を運転中に人を死亡させたものは、最高刑懲役5年の業務上過失致死罪で処断されていたからです。
これでは軽すぎるとして、平成13年から危険運転致死罪が、平成19年からは自動車運転過失致死罪(最高刑懲役7年)が新設されましたが、危険運転にあたらない限り、現在でも自動車を運転して人を死亡させても、その最高刑は重いとは言えません。

また、このような法曹界と社会一般の感覚のかい離を解消し、国民の感覚を司法に反映させる裁判員裁判が平成21年に導入されました。
また、被害者や遺族らが刑事司法に参加し、その意向を量刑に反映させるため、平成12年の刑事訴訟法の改正による被害者等の意見陳述や、平成19年の同法の改正による被害者参加制度が新設されました。
本件では、被害者等の意見陳述や被害者参加がなされ、それでも十分遺族や国民の法感情に沿う判決は下されませんでした。
その理由は極めてシンプルで、仮に本件で過失運転致死罪の最高刑である7年で処断してしまうと、全く同じ犯行態様でもっと被害者が多い事案や、同種事案の前科がある被告人に対応できなくなるからです。

普通の生活の中では他人に家族の命が奪われる機会は、自動車事故が最も多いと考えられるのに、このような現行刑法の量刑規定の範囲内で量刑判断を行わざるを得ない司法の力では、自動車の運転により命を奪われた遺族や国民の法感情に沿い、納得できる判決を下すことはそもそも困難なのです。
要するに、現行法の改正は必須なのです。


ながらスマホ運転による事故を無くすためには


本件では実刑判決が下ったとはいえ、公道上に目を向けると、まだまだスマホによるながら運転は減っていないようです。
司法による、ながらスマホ運転の抑制効果に大きな期待ができない現状では、スマホ使用によるながら運転を無くすために、やはり敬太君の父崇智さんがおっしゃるように、道路交通法の改正によるスマホ使用運転に対する厳罰化(適正化)や自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律を改正し、スマホ使用によるながら運転をして人を死傷させた者を、危険運転致死傷罪もしくは準危険運転致死傷罪で処断できるよう法改正を行わざるを得ないと考えます。
その具体的な方策については、本ホームページ『平成28年11月1日 中日新聞朝刊社会面「ポケGO運転は「殺人」』の記事中【スマホ使用による「ながら運転」の厳罰化とその方策】で詳しく述べています。

『平成28年11月1日 中日新聞朝刊社会面「ポケGO運転は「殺人」』

スマホ使用によるながら運転の抑止には、厳罰化が効果があることは間違いないと思いますが、やはり運転者一人一人の意識によるところが大きいので、根絶することは困難であると思います。

今後一切敬太君やそのご家族のような辛く悲惨な思いをする人を増やさないためには、根本的に車の運転中には運転者がスマホが使えないようにすること、すなわち、自動車メーカーやスマホキャリアに対する法規制の方向も検討せざるを得ないのでしょうか。
運転席周辺のみ自動車とスマホが交信し運転中のスマホ操作ができないようにすることは、現在の技術でも可能な気がしますし、特段の操作をすることなく運転中にスマホ操作ができない仕様のスマホを売り出し、その購入に対し補助金を出すなどの政策もあっても良いものと思われますが皆様はいかがお感じでしょうか。



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