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令和元年9月13日追記

令和元年9月13日、改正道路交通法の施行令を閣議決定したことにより、令和元年12月1日から下記内容の改正道路交通法が施行されることになりました。

平成30年末、運転中の携帯電話使用などを厳罰化する道路交通法改正試案が発表されました。
同法案は、平成31年中に衆参両議院での議決を経て、同年中に施行される見込みです。
厳罰化の内容は次のとおりです。

【自動車や原付の運転中のスマホなどの使用・画面の注視】
(従来)5万円以下の罰金
⇒(改正後)6月以下の懲役又は10万円以下の罰金

【スマホ使用・画面の注視により交通の危険を生じさせた場合】
(従来)3月以下の懲役または5万円以下の罰金
⇒(改正後)1年以下の懲役又は30万円以下の罰金、
 および、非反則行為(いわゆる青キップでは済まされず、刑事訴追されます)。


ながらスマホ運転はどれほどの危険性のある行為とされたのでしょうか


改正後のながらスマホ運転の罰則は、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金とされますが、道路交通法118条1項には、同じ刑罰を科す運転行為として、故意の最高速度超過(1項)、過積載(2項)などが挙げられていますので、改正後のながらスマホ運転は、わざと速度超過をして運転する行為やトラックなどの過積載などと同じ危険性がある行為とされました。

なお、道路交通法の罰則規定は、最高で10年以下の懲役・100万円以下の罰金(117条2項)から2万円以下の罰金・科料(121条)まで18段階の罰則が規定されていますが、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金(118条1項)は上から10段階目に重い罰則となります。
また、ながらスマホ運転により交通の危険を生じさせた場合の1年以下の懲役又は30万円以下の罰金(117条の4)は、上から8番目に重い罰則です。


道路交通法改正後のスマホながら運転の刑罰は適正といえるでしょうか


確かに改正前のながらスマホ運転は、5万円以下の罰金のみとされており、道路交通法の罰則の18段階でいえば、下から2番目の極めて軽い刑罰に留まっており、これが10番目に重い6月以下の懲役又は10万円以下の罰金とされたことは、かなり厳罰化されたといえます。
当事務所のホームページでも、平成28年10月26日に愛知県一宮市でポケモンGOのながらスマホ運転により、わずか9歳の命を奪われた則竹敬太君の交通死亡事故が発生して以来、スマホながら運転の危険性と厳罰化を訴えてきましたので、ようやくこれが実現し始めたとの思いもあります。

しかし、例えば、酒酔い運転に至らない酒気帯び運転は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金(117条の2の2)とされ、道路交通法上5番目に重い刑罰が科されています。
今回の改正で、ようやくながらスマホ運転が速度超過や過積載と同じ程度の危険とされたにすぎません。
少なくとも、私は、交通に著しい危険をもたらす行為であるとの観点から、スマホながら運転においても、酒気帯び運転と同等並びにこれに準じる程度には厳罰化しても社会的コンセンサスは得られたのでないかと考えています。

すなわち、スマートフォンは、運転中の使用を想定していない極めて小さな画面に、使用者が最も関心の高くかつ多くの情報を表示できるので、いったん運転中にスマホを見てしまえば、いくら気を付けようと心掛けても、つい無意識に目を奪われて、前方の安全確認が散漫になる危険性が高い機器です。
誰もが運転中に、ちょっとだけスマホで調べ物をしたい、LINEが来たから少し見るだけで注視なんかしないと思っていても、無意識に注意を奪われ注視してしまうところに、ながらスマホ運転による事故が一向に減らない原因があると思います。

その意味では、ながらスマホ運転は、敢えて自ら飲酒をして意識的に運転しようとする酒気帯び運転よりも、誰もが起こしやすく危険な運転態様であるといえます。
現に、警察庁の統計によれば、平成29年中の飲酒を原因とした交通事故発生件数は3582件で、同年中のH24ながらスマホ運転を原因とした交通事故発生件数は2832件で、それほど大差はありませんし、飲酒運転による交通事故は5年前の平成24年の件数4605件と比して25%も減少しているのに、ながらスマホ運転により交通事故は平成24年に比して45%も増えていますので、いずれ交通事故発生件数は逆転する可能性も高いと考えられます。
また、酒臭や呼気検査で容易に判明する飲酒運転と違い、ながらスマホ運転は立証が難しい面もありますので、実際にはながらスマホ運転による事故はもっと多い可能性もあります。

このように、飲酒運転とさほど変わらない危険性を有し、また、誰しもながらスマホ運転をしてしまう環境にあり、ながらスマホを原因とした交通事故が著しく増加している現在では、一般予防の観点からこれを抑止するため、私は少なくとも酒気帯び運転に準じる程度に厳罰化しても良かったのではないかと考えています。


則竹崇智さんと敬太君の悲願は実現されたのでしょうか


当事務所のホームページでも、則竹敬太君の事故以来、刑事裁判での様子と、スマホながら運転の危険性と事故の凄惨さ、父崇智さんの無念さとスマホながら運転の撲滅に取り組む強靭な思いを伝えてきました。
そして、崇智さんと同じ気持ちで、スマホながら運転の撲滅のためには、ながらスマホ運転に危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条)を適用すべきであると主張し、その条項案を提案してきました。

『平成28年11月1日 中日新聞朝刊社会面「ポケGO運転は「殺人」」~スマホながら運転の厳罰化に向けて~』 https://www.kotsujiko-law.net/media/massmedia/entry-161.html

崇智さんは、本業の教員の仕事の傍ら、敬太君の遺志を受け、希望と未来を奪われる人を絶対に増やしてはならないとの一心で、児童・学生のみならず、自動車に関わる社会人や警察官、一般の方に向けて、講演会などを通じて、敬太君ともにながらスマホ運転の危険性を訴え続けていますし、これからも続けていかれることと存じます。
崇智さんは、今回の道路交通法改正について、ながらスマホ撲滅のための一歩に過ぎないとお話しいただきましたが、私も全く同感です。

敬太君の事故以来、これだけながらスマホ運転の危険性が訴えられてきて、皆がその危険性を頭ではわかっているにもかかわらず、今でも毎日のようにながらスマホ運転をしている運転手を目にします。
信号が青に変わってもスマホに夢中で中々発進しない車、ふらふら運転や異常な低速走行をしている車、急な加速と減速を何度も繰り返す車、不自然なカーブの曲がり方をする車を見る機会もまだまだ減りません。
その多くはスマホながら運転をしている車です。

平成14年6月から始まった道路交通法の漸次改正や、平成13年12月の刑法改正による危険運転致死傷罪の新設(平成26年5月から「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に移管)などの、徹底した厳罰化により、平成13年には2万5400件発生していた飲酒による交通事故が、平成30年にはわずか3355件まで大きく減少しました。
私も今このホームページをご覧いただいている皆様も、飲酒運転厳罰化によりその命を救われたかもしれません。

今回の道路交通法改正により、従前よりはながらスマホ運転の罰則は加重されたかもしれません。
ただ、あくまでも速度超過や過積載と同じ程度の危険な行為とされただけです。
スマホながら運転による交通事故を、飲酒運転並み減らすためには、まだまだ刑罰が軽すぎるように思います。
崇智さんが、刑事裁判で訴えてこられた「ながらスマホ運転は殺人と同じである。」との思いは私も変わりませんし、ながらスマホ運転で家族の命を奪われた遺族の方の気持ちも同じはずです。
今回の道路交通法改正は、ながらスマホ運転を減らすための最初の一歩にすぎず、これで終わりではありません。

今回の改正でもスマホながら運転での交通事故が劇的に減らないのであれば、せめて酒気帯び運転と同じ程度の厳罰化や、危険運転致死傷罪の適用を視野に入れた徹底的な厳罰化がさらに必要であると考えています。
スマホながら運転により悲痛な思いをする人を無くすとの敬太君と崇智さんの約束と強い想いが果たされる日は一体いつやってくるのでしょうか。


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